第二十七話 王族の席の奪取


「あれ……あたし、今までなにを……?」


 状況を飲み込むことが出来ずに呆けている白銀冬香。


 そんな彼女と同じようにサルファーも状況が理解出来なかったが、すぐに状況の解明を急ぐ。


「(先程まで視覚の自由を完璧に奪われていたのに、今では視覚の自由がある。ちょっとグラついているのは後遺症の影響か……そして———)」


「あれ、どうして? あたし、フォークなんて持っているんだろ?」


 ここ数分の記憶が曖昧になのか、白銀冬香は純粋に疑問を抱いている様子である。


「な、なるほど……さては力を使いすぎたな。けど、コレは……」


『冬香!! 右に跳んで!!』


「え? ミストくん? 急にな———にをおおおおおおおおおおおお!?」


 目の前に黒い靄のようなものが自身にめがけて飛んできたため、それを回避するためにも自身の内側にいるサウザンド・ミストの言葉通り、冬香は右に跳んで回避をする。


「もしかして、全く覚えがないのにあたしが手にフォークを持っているのはミストくんが前に出たから? あたし、キミが全力で戦ってる時ってどういうわけか記憶が曖昧になるんだけど……」


 その身の内にサウザンド・ミストという吸血鬼を宿している冬香。


 初めこそは驚いたが、彼を助けるために自身を宿代わりにすることを選んだことに冬香は後悔はしていない。


 だけど、彼が本気で戦っている時はどういうわけか冬香は眠ってしまい。状況が掴めないのが悩みであった。


『それについては申し訳ないですし、ボクもどうにかしたいと思っています』


 しょぼんとしている彼の言葉を聞くと、これ以上攻めることは出来ないし。彼がこう言っているのだから、なんとかしてくれるのだろうと冬香も不安にはならなかった。


「なぁ、サルファー。どういうワケだよ。あいつ、なんだかフツーの人間みたいになってるけど?」


「恐らくは、あの少女の身体を借りて力を行使できる程の力を使い果たしてしまったのさ。だから今のところはサウザンド・ミストは出てくる心配はない」


 どういうことなのか全く分からないネーヴェに息を荒くしながらも、そのように説明をするサルファー。


 自身の幻術でサウザンド・ミストを叩き潰したい。


 そんな気持ちもありはしたが、サルファーは怒りに走るのではなく。目的を果たすことを優先し、あのような何でもない少女に気にかける必要はないと判断した彼女は硬直し、動けずにいる王族吸血鬼たちに目を向ける。


「さて、思わぬ邪魔が入りはしたし、ボクたちの目的はあくまでも王族吸血鬼たち。キミたちだ。本音を言えば、サウザンド・ミストをボコボコにしたいが、優先順位を間違えるようなことはしない」


「なぁ、誰を奪うよ。サルファー」


「そうだね。審判、神風、皇帝、慈愛と選び放題だ」


 不敵に笑う二人の吸血鬼。


 格下である貴族吸血鬼から、そのような下卑た瞳で見られた怒りからか、大きな舌打ちをするが、二人は笑うだけだ。


 そんな時、二人はある王族吸血鬼の存在に気が付く。


「おい、サルファー。こんな王族吸血鬼いたか?」


「さぁ……少なくともボクの記憶にはないな」


「悪かったな、記憶にない王族吸血鬼で」


 さながら獣のようにガルルとベルは二人を睨みつけるが、幼い容姿ではそれもあまり意味のないものであった。


「この声……もしかして、第一王族のベル・アステルか? いや、けど奴は銀髪赤目で高身長の王族吸血鬼であったはず……」


 ヤバいと思いフイッと視線を逸らすが、その行為が逆に興味を引かせてしまったのかニヤリとネーヴェは笑う。


「おい、サルファー。コイツを去ろうぜ」


「は?」


 予想外の言葉に思わず大きな声を出してしまうベルだが、何を言ってるんだ? とでも言いたげにサルファーも驚いている表情になっていた。


「キミ、何を言っているのか理解できているのかい?」


「ああ、第一王族をパクる」


「分かってるなら、相当ヤバイよ……キミ……」


 数ある王族の中でも第一王族の看板を背負うベルだけは別格である。


 これは貴族吸血鬼は当然ながら、王族の吸血鬼たちでも共通の認識である。


 だというのにも関わらず、この男はその別格の怪物を攫おうと提案しているのだからサルファーは呆れに呆れていた。


「けど、王族吸血鬼たちはみんな怪物なんだし、その中でも一番強い奴を奪った方がよくないか? どうせ奪う対象は全員怪物なんだし」


「言われてみたら……それなら、その方がいいのか?」


 二人がそのように話しているのを聞いて、ティスカやアイルはどうにか体を動か、あの吸血鬼を葬ることが出来ないかと錯誤するが結果としては何も成すことは出来なかった。


「クソッ!! この術はどうやったら解けるのだ!!」


「あーん!! このままじゃあ、ベルベルが連れて行かれちゃう!!」


「ふん。例え、あいつらに攫われてもあいつなら一人で勝手に解決するだろ」


「ルーちゃん。それは冷たいよー」


「ルーちゃん言うな!!」


 アイルの独特な自身の呼び方に文句を言いつつも、ルージュの言い分は的を得ていた。


 確かに第一王族であるベルならば、連れ去られても自身の力だけでなんとかできる。それは間違いのない事実である。


「(だが、それは———)」


 そう。フウアも今しがた考えていたが、それは第一王族としての力があれば。の話しでもある。


 今のベルは常闇の悪魔・ザラムの手によって、力のほとんどを彼女に奪われている。故に彼女が一人で帰還できる可能性は低いと見ていい。


「(だとしたら、妾の出来ることは……コレしかないよな)」


 決意を固めたフウアはヴァイオレットの吸血鬼に言う。


「おい、ヴァイオレットの吸血鬼。貴様ら、王族の席が欲しいのならベルではなく。妾にしろ」


「は? 急にどうしたわけ?」


「そのようなガキよりも、妾の方が魅力的であろう? それにネーヴェと言ったか? 王族の席を渡す前に。貴様の下衆な欲を叶えてやることも出来るぞ」


「へー、それはいいじゃん」


 それは面白そうだと思ったのか、ネーヴェはニコリと。笑みを浮かべながらフウアの前に立つ。


「確かにアンタはオレ好みの魅力的な女性だな」


「だろ? ならば妾を———」


「だけど、急に自分を売るってどうしたんだよ? なんか魂胆があるように思えるな~」


「ちっ……」


「けど、あんたの魅力を置き去りにするのも惜しい。というわけで……コイツも攫うぞ。サルファー」


「はいはい。分かったよ」


 ネーヴェの指示に従い、サルファーは自身の懐からある星型の宝石を取り出し、ベルとフウアの両者に身に着けさせる。


「キミは持ってるだろ?」


「ああ、コレだろ?」


 確認のために腕にブレスレット状に付けている星型の宝石をサルファーに見せる。


「ああ、それだよ。それじゃあ行くよ」


「そんじゃあな。他の王族の皆さん」


 その言葉を最後にネーヴェ・ホワイト、サルファー・ハイゼンのヴァイオレットの吸血鬼とベル・アステル、フウア・エストレッラの王族吸血鬼はこの場から消え去った。

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