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Nora_
01
「あ……うーん」
本を読みながら歩いていた友達が急に足を止めたからこちらも止めるしかなかった、正直、本を読むなら歩きながらはやめなよと言いたいところではある。
こういうときは本当にいいところで終わったか、最後まで楽しめないまま終わったかのどちらかでしかない。
「どうしたの?」
彼、
「それは残念だったね」
「らくのせい」
冗談であってもそうでなくてもたまに言葉で刺してくる子だから怖かったりもする。
「冗談だよ、寒いから僕の家にいこう」
「うん」
前々から友達だけど彼の家には何度も上がったというわけではないから少し緊張してしまう。
ご両親がいるわけでも、お姉さんやお兄さんなんかがいるわけでもないのに慣れない。
家族である猫が苦手でもないし……。
「にゃ~」
「こんにちは、今日も毛がすごいね」
抱き上げても暴れたりはしない、ここはご主人様であるゆう君とは違うところだった。
足の上に下ろして頭を撫でているとソファに座らずに床に寝転んで読書を始めた彼、あんまり喋らないというわけではないけど本が好きすぎる子だからなにもおかしくはない。
こっちを誘っておきながら自分の世界に浸る子のため、変にこちらに興味を持たれた方が気になってしまうということになる。
「あれ、どこにいくの?」
ゆっくりと下りてリビングの扉を多分開けてほしいとアピールする彼、ゆう君は動こうとしないから代わりに開けるととことこと歩いた先でこちらを見てきた。
慣れないなどと言っておきながら追っていくと急に走っていってどこかに消えた、が、戻ろうしたタイミングで戻ってきたためしゃがむ。
「生き物……?」
「にゃ~」
ぐったりしているのが気になる、でも、彼的には敵という認識ではないようでこちらを見上げてきているだけだった。
このまま預けてもいいけどやはり気になるのは気になるので連れ帰ることにする、ペットも大丈夫の家だからその点では問題ないし、昔は僕の家も猫を飼っていたから多分上手くやれると思う。
「よしよし」
声をかけても反応がなかったから帰ってきた点以外はよかった、謎の生物もちょっとお世話をしている内に元気になった……ように見える。
最低限この子に対してやれることはやったから今度は自分にとってやらなければいけないことを済ませて夜になったら寝た。
「へ……へっくしゅ! うぅ、布団が暖かいからこの瞬間はいつも戦いだなぁ」
「これ美味しくなかった」
「あ、ごめん、家にあるのは低脂肪牛乳だけなんだよ」
って、なにをやっているのか。
ちなみにと確認してみたら昨日の謎の生物は消えてしまっていた。
いつでも外に戻れるようにと窓を開けながら寝た結果だ、危険とはいっても知らない家にいるよりも外にいた方が落ち着くこともあるだろう。
「どんな飲み方をしたの……」
「のあみたいにこう……直接?」
「ゆう君、ふざけてやっているだけだとしても心配になるよ」
とりあえず彼の腕を掴んで一階へ、本人に任せると進まないから顔なんかを洗ったりお世話をする。
謎の生物は彼なのかもしれなかった、昨日のあの子の方が多分しっかりしている、なんならノア君の方が上だ。
まあ、流石にこんなことを言えば怒るから言わないけど、僕の中ではそうなっているからこう考えられたくないならしっかりするべきだった。
「昨日、勝手に帰られてむかついた」
「ごめん、ちゃんと声をかけたんだけどゆう君は反応してくれなかったからさ」
「鍵が開いてて危なかった」
それは……そうだな、許可を得ずに帰ればそういうことになる。
でも、ノア君が連れてきたあの謎の生物が心配だったから仕方がないと片付けてもらうしかない。
「それとこれはなに?」
「あれ、出ていったわけじゃなかったのか」
うん、何度見ても猫ではない、ノア君は喧嘩っ早い子ではなかったからなんとかなっただけなのだろうか?
「はい、僕はノアがいればいいから」
「うん」
ただ、こうしてちゃんと抱いたときに温かいから安心できる。
荷物なんかは持ってきていないみたいだったから彼には家に帰らせて僕はご飯なんかを食べることにした。
朝ご飯を食べなければ部活がなくても放課後まで耐えるのは厳しい、大食というわけではなくても朝、昼、夜とお腹は空くものだ。
「よしよし」
あ、昨日は目を開けていなかったけどいまはこちらをじっと見てきていた。
うん、目なんかは普通だ、これはノア君と変わらないから違うように見えるだけで猫なのか……?
「ん? これが食べたいの? 白米って食べさせていいのかな……」
さっと調べてみたら少しだけなら大丈夫みたいだったので与えてみるともしゃもしゃ食べ始めた。
なにも味がない……わけではないけど所謂おかず的な物がないのに美味しそうに食べている。
「名前、らいすでいいかもしれない」
とはいえ、あんまり見つめていられる余裕もないためささっと食べて洗い物をしてから必要なことを済まして家を出た――まではよかった。
「あれ、なんでここに……」
昨日食べたことで大丈夫だとわかっているから猫用のご飯や牛乳だってちゃんと容器に注いで置いてきたのにこれでは意味がないどころか、危ない。
「むぁ」
「え?」
想像以上に低い声音だ、ゆう君もノア君も高めだから余計に持っていかれた。
「むぁー」
「うーん、とりあえず家で大人しくしておいてね、僕は学校に――ぐはっ!?」
残念な筋肉でも地面とキスはしなくて済んだ。
「らく遅い」
「ごめんごめん、あれ? らいすはどこにいったんだろう……」
急に消えたり現れたり忙しい子だ。
「らいす?」
「ああ、さっきの子だよ、白米が好きだかららいすって名前をつけたんだ」
「学校に連れていこうとしていたの? 駄目だよ、高校生にもなってそんなこともわからないの?」
「うっ、ゆう君から言われるのは複雑だな……」
「なんで、僕の方がらくよりしっかりしているからお兄ちゃんだよ」
どちらが兄でもいいからなにもないようにと一回願ってから家から離れた。
同じ教室だからすぐにでも話せる距離感だけど、残念ながら彼はすぐに寝てしまうからそこまで話せない。
帰るときに本を読まずに休み時間に読めばいいのに変な子だ。
「むぁ」
「えっ」
聞き間違いではないし、見間違いでもない、鞄の中にらいすがいた。
体が小さいからこそできることだった、いや、体が小さくても無理なはずなのにおかしい。
「神戸君どうしたの?」
「あっ、な、なんでもないよ、ごめんね」
「なんにもないならいいんだけど」
慌てて鞄ごと廊下に移動、更に距離を作って空き教室に入った。
そこで鞄を地面に置くととことこと自分の力で出るらいす、こちらを見上げてきているその目は可愛いけどこれでは……。
「あ、いた」
「ぎゃあ!?」
「むぁ!?」
おお、驚いたときは少しだけ高くなるのか、ではないか。
声の方に意識を向けてみると「あー結局らいすを連れてきて悪い子だー」とゆう君が、冬だから余計に心臓に悪い。
「ごめんらいす、もう驚かせないでよゆう君」
「こそこそしているのが悪い」
「いきなり声が聞こえて見てみたららいすがいてね」
頭を撫でたらまた「むぁ」と低い声で鳴くらいす、なんかもう可愛すぎてやばいけどそれどころではなかった。
家に帰れる時間はないし、そもそも放課後まで学校から出られない決まりがある、だから大人しくしていてもらうしかないけどすぐに付いてきてしまうところを考えると難しいような気がする。
「らいす、鞄――あ、この中でじっとできる?」
それでも頼むしかない。
「むぁ」
「あ、自分から入ってる、もしかしたららいすは賢いのかもしれない」
「偉い、帰ったら食べたい物を食べさせてあげるからね」
「え、いいの?」
「君にはあげない」
教室へ、割りとすぐにSHRの時間になった。
休み時間になっても特に暴れたりはしなかったから本気で僕らよりも上なのかもしれない。
とはいえ、授業中にも休み時間にも一切アピールをしてこないとなるとそれはそれで心配になるというわけだ。
だからお昼休みには流石に出てもらって自由に行動してもらうことにした――のだけど、らいすは机の上でじっとしてこちらを見てきているだけだった。
寂しがり屋であまり自由に行動するタイプではないのかもしれない、それかもしくは、ちゃんとわかっていないだけでご飯をくれとアピールされている可能性がある。
ただ、朝に調べた際にわかったことだけど白米を主食にとはできないみたいなのでちゃんと必要な物を食べさせなければならない。
「言っておくけどのあの子の方が可愛いから」
「のあ君はのあ君、らいすはらいすだよ」
「らいすって性別はどっちなの?」
「え、さあ?」
「ちょっと見てみる、らいすいいよね?」
で、彼に対しても大人しいらいすはそのまま持ち上げられていたものの、結局わからなかったみたいだ。
机の上に下ろされてからはまた僕の方を見始めたらいす、やはりこれは僕に興味があるのではなくてなにか食べたい物があると思う。
ゆう君だったら遠慮せずにすぐに吐いてくれるから楽だけど(らくだけに)、らいすの場合は……難しそうだ。
「のあが連れてきたんだよね? のあが教えてくれないかな」
「無理でしょ、にゃ~とは鳴いてくれるけどね」
飼っているようなものだから適当なことはできない。
徹夜になってもいいから少しだけでもらいすの求めることをしてあげたかった。
「牛乳は飲むんだよなあ、そしてやっぱり白米には興味を持つと」
逆に昨日――あ、もう日を跨いでいるから一昨日か、急いで買ってきた猫用のご飯を食べなくなってしまったのはいいのか悪いのか……。
でも、本当に大人しい子で、目なんかも奇麗だからすっかり好きになってしまっているちょろい人間がいた。
目や体なんかが疲れて寝転んだらすぐに胸の上で同じように寝転ぶ、頭を撫でると小さい声で「むぁ」と鳴くから面白い。
「……え、あれ?」
……ああ、そりゃ真夜中に寝転んだらこうなるに決まっているか。
もうすっかり外は明るくてそうしない内に学校にいかなければならない時間だった。
朝からばたばたしたくないからお昼ご飯は諦めて家をあとにする。
「あのー」
「えっとどうしたの?」
「その子、可愛いですね」
「その子……? ああ、うん、可愛いよね」
ではない、やはり付いてきてしまうかあ。
あと、見知らぬ女の子に対しても警戒心が一切ないまま大人しく撫でられているのもいいのかどうなのか……。
「動物さんに懐かれやすいのですか?」
「あー飼っている子なんだ、今日も付いてきちゃったみたい」
大丈夫とは言えなかったからミスってしまった感を装いたかった。
「え、大丈夫なのですか? もう学校に着いてしまいますけど」
問題はそれだ、もう目の前に見えているのに離れなければいけないことが確定している。
だけど他の子からもちゃんと見える存在ということでその点は安心することができた、なにかがあっても他の誰かがいてくれれば対応しやすくなる。
「ちょっと家まで送り帰してくるよ、教えてくれてありがとう」
「いえ、それではこれで失礼します」
あの子が去って、他に生徒がいないかを確認してから頼んでみたら今日も大人しく入ってくれた。
でも、この方法がいつまでも使えるとは思えないから油断はしないようにしよう――と決めた瞬間にぶっ飛ばされた僕がいる。
ゆう君は細くて小さいくせにこういうときの力はとてつもなく強い、そしてこっそり見ている子だから逃げるのは無理だと諦めた方が精神的に楽なのかもしれない。
「おはよ」
「おはよう」
タックルは読書を中断してまで優先されることではないけどね。
「らいすもおはよ」
「むぁ~」
「……やばい、のあがいるのに可愛く見えてきちゃった」
「はは、素直になれー」
「らくは可愛くないから勘違いしないように」
えぇ、なんでこんなことを言われなければならないのか。
何故か不機嫌になってしまったから大人しく学校にいって、教室で大人しくしているしかなかった。
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