第19話 ゼパル村での聞き込み~王宮side~

 レイク達がロックデューク山脈のエルザの洞窟内で特訓を行っている頃、ジークフリードは兵士たちを引き連れてゼパル村を訪れていた。目的はゼパル村で起こったハイドラ襲撃の件だ。噂だとレイクがハイドラを倒したとされている真偽を確かめること、そして村自体が無事かどうかを確認するためにやって来たのである。


 ジークフリードはゼパル村の門の前で馬車から降りた。降りて来た人物がジークフリードだと知ったゼパル村の門兵達はすぐに敬礼する。


「ジ、ジークフリード様! どうしてここへ!!」


「決まっている、ハイドラ襲撃後の村の様子を確かめに来たのだ」


「そ、そうでしたか。おい! 門を開けろ!!」


 門兵の1人が声を上げるとゼパル村の木門がゆっくりと開かれた。

 ジークフリードは門の先へと歩んでいく。ジークフリードの予想だと村はかなりの被害を受けていると思っていた。

 しかし、村を見てみると、海岸沿いの家々が少しだけ壊れているだけで、戦が起こったようには見えなかった。まるで一瞬で片付けたような様子であった。

 ジークフリードは村を歩いていた金髪ポニーテール の村人に話しかけた。


「おい、そこの君」


「はい? え、私?」


「そうだ君だ。私はジークフリード、イブニクル王国の総司令官をしている。君の名前は?」


「あ、これはこれは兵士様でしたか。私はソフィーって言います」


「ソフィー、良い名前だ。この村で起こった事を聞きたいんだがよろしいかな?」


「は、はい! 私でよければ。立ち話もあれなので、私の家すぐそこなのでよろしければゆっくりお話ししましょう」


「うむ」


 ソフィーはジークフリードを家へと連れていき、部屋の中へ入れた。家に入ったのはジークフリードのみで兵士たちは外で待機となった。


「ミルクしかありませんが」


 ソフィーはトレイの上に乗せて持ってきた、ミルクの入ったカップをジークフリードの前に差し出す。


「ありがとう」


 ジークフリードはミルクを一口飲む。ソフィーはトレイを片付けてジークフリードの正面へと座った。

 そして、ジークフリードが口を開く。


「単刀直入に聞くがこの街にハイドラが襲撃してきた時、撃退したのはレイクという男だったのか?」


「は、はい! 私が襲われた時、レイクに助けてもらいました。私はレイクの幼馴染ですけど、まさかレイクが兵士になってあそこまで成長していた何て私思わなくてびっくりです。きっと、あっちへ行ってからものすごく評価されてるんじゃないのかと思ってましたけど、レイクは王宮でも兵士として頑張っていましたか?」


 やはり、おかしい。


 ジークフリードはそう思った。なぜなら、レイクはとしてこの間解雇したばかりだったからだ。だから、ジークフリードはレイクがハイドラを倒したという情報を鵜呑みにすることはできなかった。それ以前に、彼女はレイクが王宮を解雇されていることを知らないのだろうか? 

 まぁそれは良いとして、やはりレイクがハイドラを撃退したという情報は本当なのか。これほどにも目撃者や体験者が居るとなると信じざるを得なくなる。ちなみに竜種ハイドラはA級オーバーの魔物だ、それを単独で倒したとなれば王宮内でエリート、いやそれ以上の地位に就ける力を持てる。しかし、カタールや王宮内では確かにスキルを使用できない無能だと言われていた。もしかすると俺たちは何かとんでもない勘違いをしていたのではないかと言う仮説が頭をよぎった。もっと情報が聞きたい。


「ソフィー、ハイドラを撃退した時、その場にいたのは本当にレイクだけだったのか?」


「うーーん、あ! そうでした! 確か、レイクが小さな可愛らしい少女を連れていました! その娘、確か異国からやってきたとか何とかでレイクを通じてお話ししてました。不思議な娘だったけど可愛かったなぁ」


 異国の美少女? つまり此処で使われている言語を話すことができないということか。さっき、ソフィーはレイクを通じて話をしていたと言っていた。王宮にいいた時、カタールからレイクが異国の言葉を話せるなどの連絡はなかった。


 まさか……


 ここでジークフリードに嫌な予感がした。まさか、今までレイクがスキルを使えない無能だと思い込んでいた事自体が間違いだったのではないかということだった。彼のスキルは使えないのではなく使える機会が極端に限られていただけではないのだろうか。そして、その見落とした彼のスキルが我ら現在の王宮に必要不可欠なものなのではないか。そう言う予感がよぎり、冷や汗が流れる。


 一刻も早くレイクに会わなくては!


「ソフィー!」


「は、はい!?」


「レイクはどこにいる?」


「そ、それが。ハイドラを倒した……この村からすぐに離れてしまっていたのです。勿論、その女の子と一緒に……王宮にでも戻っちゃったのかなって、でも何も言わずに帰るかしら」


 この村にレイクが居ない、嫌な予感の一つが的中した。勿論、レイクが王宮に戻ることなど無いことは知っている為、レイクの居所を探さなくてはならなくなった。一度レイク本人と話がしたい。

 ジークフリードはソフィーの肩を掴んだ。


「レイクが行きそうなところは? 心当たりは無いか?」


「その様子だと、レイクは王宮に戻ってないってことですよね」


「ああ、俺たちは彼を探している。だから、居場所が知りたいんだ」


「んーー、後はレイクが行くとなったらあそこかも、都市リバイアタン。あそこは港があったりするので女の子と観光をしてるかもしれません。うーーん、ごめんなさいそれしか思いつきません」


 そうだ、ゼパルから北西に行くとリバイアタンと呼ばれる都市がある。あそこには港があり、魚介類が豊富に取れることから海鮮レストランが多くかまえている。

 その謎の美少女を連れて行くならもってこいなのかもしれない。行く価値はある。


「ミルク、ありがとう」


 ジークフリードは立ち上がると、そのまま外へと出ようとした。


「ジークさん! もう行ってしまうんですか?」


「ああ、どうしてもレイクに会わなければならんからな」


「……分かりました。もし、レイクに会ったら伝えてください。村を出る時は一言声かけなさいって」


「……わかった」


 ジークフリードはソフィーに背を向けて外へと出た。待機していた兵士たちに向けて声をあげる。


「皆の者!! 次、我らが目指す先はリバイアタンだ!! 我々には時間がない! すぐに出発するぞ!!」


「「「「「うぉおおおお!!!!」」」」」


 兵士たちが声を上げる。そして、ジークフリードたちはゼパル村を後にし、都市リバイアタンへと向かった。

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