第2話 親切な人攫…いや、怪しい教会に連れ込まれたんだが
取り乱した。
年甲斐もなく、自宅内とはいえ大通りに面した場所で。
「哀れな子羊に救いの手を」
「子羊・・・・・・」
少々。そう少々、取り乱して狂乱していたら通りかかったのが、初老の神父様Aである。
「少年よ、どうしました? 安心してください。私はこの町で神父をしている者です」うんぬんかんぬん。
彼は親切心からか俺の手を取り、グイグイ引っ張り、教会に連れ込まれてしまったのだ。
誘拐犯の素質がある。
そうして、こじんまりとした部屋に通されるとマズいお茶を提供され、勝手に祈られているというのが現状だ。
「おお、神よ。我らが胸のうちにおわします神よ。この哀れな子羊に救いの道を示してください」
名前は聞いたと思うが、右から左に突き抜けていったので記憶に無い。
そんな神父様Aはひたすらに祈りを捧げていた。
子羊とは俺の事らしい。
「ああーーーーッ!!! 神よぉぉぉぉぉぉ!!!!」
神父様Aはおもむろに立ち上がるとオペラ劇場の男優がごとく吼えた。
彼の美声が教会内にこだまする。
轟く美声に驚いたのか、幾人かのシスターが柱の陰から顔を出し、いつもの事ね、というように頭を振ると引っ込んでいった。
そんな中、透き通るような声色のひとりが困惑の声を掛ける。
「神父様。また人さらいを・・・・・・?」
「シスター マ。そんな聞こえの悪い。僕は迷える子羊をだね」
マというのは名前なのだろう。
顔を上げた先には、黄金を溶かしたようなキレイなロングヘア―の美少女が困った顔をして立っていた。
大変整った小顔は、白い肌にほんのりピンク色の頬がかわいらしさを醸し出している。
青空のような青い瞳がキラキラしている。
彼女の衣装以外は、完璧美少女であった。
そう、衣装以外は。
「・・・・・・ち、痴女だぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
俺は思わず叫んでいた。
「なっ! 痴女じゃないです!!!!!」
即反論するシスターが頬をぷっぷくぷーと膨らませる。
仕草と見た目はかわいい。
だが、衣装は、マンガかアニメでしか見たことの無いようなスケベ衣装だったのである。
ベースは青色のシスター服だ。
上下一体型のロングドレス風とでもいうのだろうか。
彼女の細首を覆い隠すようなハイネックに長袖というお肌をなるべく晒さない造りだ。
しかし、両の腰あたりに深いスリットが入っているのだ。
腰と言ったが、正しくは脇腹のあたりまでスリットが入っている。
そこから肌色が眩しい美少女の柔肌が、おみ足が大胆に晒されていた。
正気の沙汰ではない。
しかもパンツの紐が腰に見えない以上、ノーパンである。
「こ、これはですね! 私たちの、アウスティリア正統中央教会の制服です!」
「マジか! なんて破廉恥な教会なんだ・・・・・・」
すげぇな異世界。
なんて思いながら生唾を飲み込む。
「あのね、シスター マ。僕も前々から思っていたんだけど」
美声を轟かせていた神父様Aが、静かに口をはさむ。
「やっぱり君のシスター服は改造しすぎだと思うんだ」
「ええ!?」
「確かに自分好みに仕立て直すのは認められているけどね・・・・・・その、君のは」
出来る限り、シスターを直視しないよう、神父様の視線がさまよう。
直視するという事は、彼女のスケベ姿が眼球に焼き付くという事だ。
「初対面でなんなんだけど、めっちゃエロい・・・・・・」
俺は正直だ。
というか、つい思ったことが口に出てしまう時がある。
例えば、いま・・・・・・。
「!!」
「うん。君もそう思うよね。子羊君・・・・・・ほらね、シスター マ」
世の中言ってあげた方がいい事、思っていても口に出してはいけないことの2パターンあるのだ。
今回は後者だった。
だが手遅れである。
「え・・・・・・神父様、そんな劣情を抱いていたなんて・・・・・・へ、変態」
「え!? なんで僕?!」
自分が変かも、と認識していても気付かないフリをしている人とガチで普通だと思っている人では反応が違う。
彼女は後者のようだ。
自分の恰好が普通だと思っているところにエロい恰好などとツッコもうものなら劣情を抱いている人扱いだ。
ひどすぎる。
だが幸いなことに火の粉が降りかかったのは俺じゃない。
神父様Aであった。
「すまんな」
何やら揉め出した2人をしり目に席を立つと音もなく退室。
神父様Aのひとりオペラを延々と聞かされかねない状況から脱出できたことに安堵する。
やはり神はいるのか。
「さて」
教会を脱して、表通りに出たはいいが。
「どこだここは」
来るときは、神父様Aにグイグイ引っ張られてきた。
つまり道を覚える間もなかったってことだ。
「俺の・・・・・・トイレは」
言葉にすると意味不明。
意味不明だが、唯一のパーソナルエリアだ。
帰らねばならない、トイレに!
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