第37話 TSメイド

 薬品がいっぱい置いてある研究室。

 そこに居るメイド服を着た男の子と研究者の2人は、この研究室がある屋敷で働いている者達である。


 メイド服を着ている中性的な男の子の名前は祐希ゆうき、白い長い髪と可愛らしい顔のメイドであるけれども、男の子でありながらメイドと言うちょっと特殊な立場にある男の子である。


 そしてもう1人はここで働いている研究員、茶色い髪と眼鏡をかけた未来みきである。

 祐希の事を幼い頃から知り、祐希の願いを叶えるのを手助けしている大人のお姉さん。


「では、祐希よ。準備は良いか?」

「はい、大丈夫です。もう私は後悔をしてませんので」


 と、力強くそう言う祐希。

 それを見ていた未来はうんうんと、頷いていた。


「覚悟の上の選択として受け取っても良いの、ね」

「えぇ。この身体でいる限りは私に未来はありませんから」


 男であるのにもかかわらず"メイド"と言う選択肢を選んだ祐希。

 そんな祐希はまた新たな選択を選ぼうとしていた。


 そう、心の底から性別と言う垣根を越えて愛している主人の真琴まこと様のために、祐希は男を止めようとしているのだ。


「つらい日々になるわよ」

「女になって、真琴様と結ばれるためならば、なんだってします」

「……覚悟は変わらないと言う事ね」


 そう言って未来は薬品棚から紫色の薬品を取り出す。


「これは『TS薬』。飲んだ者の性別を変える薬。そしてこの薬に特効薬はなく、副作用がない代わりに未来永劫元の身体には戻れない。そんな悪魔の薬である事は分かっている?」

「えぇ……承知の上です」


 祐希は未来からその薬を受け取ろうとするが、未来はそれを拒否する。


「未来……さん?」

「あなた達の恋の形は、私には未だに受け入れられない。私はあなたの事も、真琴様の事も、幼い頃から知っていて、お互いに愛し合っている事は知っている。でも、だからと言って性別まで変えずとも、結ばれる方法は……」

「未来さん」


 そう言って、祐希は未来の手を掴む。

 ごつごつとした、だけれども柔らかい肌の、男のようで女の子みたいである祐希の手に一瞬ビクリとする未来。


「私は真琴様と結ばれたいのです」

「でも、この方法は絶対に間違っています! あなただって分かっているのでしょう!」

「確かにそうですね……真琴様は受け入れられないかもしれません。私がいきなり女になったら……」


 男がメイドをするのと、その男が女になるのとではまた違う。

 そこにはそれ以上の驚きがあるからだ。


 世間からどう見られるか分からない。

 家族からどう扱われるか判断出来ない。

 そして――――最愛の相手からどうされるかも。


「けれども、私は後悔だけはしません! それがこの男、祐希の最期の男らしさと言う奴ですから!」

「祐希君……。もう私からは何も言う事はないわ」


 そう言って、祐希に紫色の『TS薬』を渡す未来。


「さぁ! もう私は止めたりはしないわ! 女になりたければ、なってしまえば良いのよ!」


 強く言う未来の瞳にはほんの少しの涙が浮かんでいた。


「未来さん……。――――ありがとうございます」


 そう言って祐希はその薬を一気飲みし、全身が光り輝く。


 ちょっと太かった腰回りはすっきりとした腰へと変わり、お尻もただ無骨そうだったのが可愛らしいキュートなお尻へと変わる。

 パットを入れないと女の子には見えなかった胸が、そんなパットすら要らないほどに大きくて豊かな胸へと変わる。

 肌と髪も質が良く、ハリと艶のある物に変わる。


 中性的な男の娘であった祐希は、完全な、女すら羨むほどの美少女へと変わった。


「――――よし」


 祐希は身体の変化を確認すると、そのまま真琴様の元へと向かって行った。

 その背中に、ちょびっとだけ彼と言う存在に好意を寄せていた未来は「……頑張れ」と小さな声で応援していた。






「真琴様! 好きです、付き合ってください!」

「祐希! ボクもだよ!」


 こうして女へと変わった祐希と、ボクっ娘である真琴との、百合百合な日々が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る