第9話 惰眠系メイド

「ふわぁ~……眠い」

「本当に眠そうだな……後藤ごとう


 とある日の昼。

 椅子に座って勉強している僕が言うと、本当に眠そうな表情をしているメイド、後藤菜々実ごとうななみは床に寝転がったまま、シャボン玉をぷかぷかと膨らませて答えていた。


 亜麻色のくるりとしたファワード巻きの髪に、眠たげな寝ぼけ眼。

 口にはまるで煙草を吸うかのようにしてストローでシャボン玉を作って、ぷかぷかと浮かばせていた。


「ふわぁ~……。本当に眠い~……」


 と、ストローでシャボン玉を作って空へと飛ばす後藤。寝ぼけた顔で彼女は、僕に視線を向けていた。


「ご主人~。眠たいので枕を~」

「……なんで主人がメイドに枕を用意しないといけないんだか。まぁ、良いよ。ほら」


 と、後藤に枕を渡す。枕を渡された後藤は「ありがと~」と、そう言って枕を貰ってその上に頭を乗せる。

 頭を乗せ、そのままいびきをかいて眠り始める後藤。


「なんでこんな昼間から、いつも寝てるんだか……」


 メイドの後藤は昔から家に仕えてくれてはいるんだが、後藤がまともに働いている姿を今まで見た事はない。

 いつも寝ぼけ眼で掃除や洗濯などの家事を行っていて、気が付いたら寝ているの繰り返し。

 起きている時間よりも寝ている時間の方が長いと言う、そう言ったのがうちのメイド、後藤だった。


「いつもいつ、仕事をしているんだろうな、このメイドは」


 と、僕はいつも寝ているこのメイドがどうやって働いているんだろうなと思いをはせるのであった。





 その日の夜。

 ヒトフタマルマル。所謂、深夜0時。


 その大きな屋敷に塀を越えて、数名の怪しげな男達が忍び込んだ。

 目以外は隠すような黒いマスク、暗闇でも目立たない黒い服装、そして指紋さえ残さないようにしている黒い手袋。

 彼らはその目しか見えないが、その目は確実に人を殺そうとする暗殺者の目であった。


「今回のターゲットはこの家だ。行くぞ」

『おぅ!』


 そう言って、いざ屋敷へと向かおうとしたその瞬間、彼らの首筋にバチバチっと言う電気音が流れる。


「どうした……おい!」


 1人。また1人。

 電気音が流れると共に消えていく仲間達の気配。


 一番先頭をきっていた彼がどうした物かと悩んでいると、自分の首筋に冷たい金属物の気配がする。


「なんだ、お前は……」

「ここのメイドだ」

「め、メイドだと……」


 男は驚いていた。

 その素早い手口から、てっきり同業者か何かだと思っていたが、ただのメイドだと?


「ここに眠気を覚ます、嫌な気配がありましたから。排除させていただきました」

「排除だと……お前は一体……」


 そう聞くとその声の主は、メイドはこう答えた。


「ただのメイドですよ。殺しに行った家の息子を見て、殺しの牙を折られて眠らされてしまった、ただのメイドですよ」


 そして、男も皆と同じようにスタンガンで眠りにつかされた。

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