アヤナ閃光に散る

「ちわーっす。郵便でーす!」

 アヤナ隊の基地。その郵便屋さんの言葉。

 もうホントやめてくれ、と。初手から郵便はやめてくれ、と。

 誰もが恐怖し、凍りついた。

 ……ただ一人、あぐを除いては。


 彼女はニコニコして返す。

「ちょりーっす」

「どもーっす」

「うぃーっす」

「ここにサインと……あと代金引換のお代をお願いしまーっす」

「はにゃ?」

「今日のお荷物は代金引換でーっす」

「りょうかいーっす」

 あぐはアヤナを手招きした。

「たいちょ。たいちょ。代引きらしいですー」

「んー。郵便で届く宝箱って時点で、むしろカネを積まれてもいらないんだけど……」


 フレイヤ特務少尉は言う。

「しかしアヤナ隊長。ロウさんはともかく、ジャンさんの発案などは凄い物が多く。関係を悪くさせるのも……」

「そうなのよね。……ってかロウと私って個人的にはまあまあの仲なのにさ。まあいいわ、誰かアヤナ隊の資金から、代金を払ってちょうだい」

 だが誰も手を挙げる者はいない。アヤナは不思議がった。

「別にポケットマネーを出せってわけじゃないわ。隊の活動資金、あるでしょ? あそこから出すってこと。だから誰か、事務とか経理の人は?」


 しかし誰からも手が上がらない。それどころかコジ兵長は少し声を落とした。

「あのっ、アヤナ隊長」

「何?」

「アヤナ隊にはこの前、クレームの受付窓口はできたようですが。事務方とか経理の人は着任が遅れてるみたいで」

「ふーん。じゃあ今までおカネ、どうしてたの?」

「さあ……?」

「え!? ちょっと、ソレどういうこと!?」

 フレイヤ特務少尉は少し顔を伏せながら言った。

「多分、そういう請求はアヤナ隊長ご本人名義のところに行くかと……」

「なにそれ!?」

「それにまだ給与体系とかも決まっていないですし……」


 ルイがビッと手を上げた。

「隊長! 既にアヤナ隊は正式に発足してるんですよね? 色々な試作品のテストもしてますし、この前は悪魔の群れも退治したし」

 あぐがぴょんぴょんする

「ほとんどはセガールさんのお手柄でしたけどねー」

「セザールっつってんでしょ!」

 そう言われてもアヤナにはピンと来ない

「(だからセザール(サガール?) って何なのよ)」



#株式会社「セザール」は、民事再生法と吸収合併を経て、皆の心の中に……!



 ルイはぶんぶん手を振り回す。

「隊長! 隊が既に発足しているならば私達は全員公務員で、お給料が発生するはずですが……それ本当に出ます?」

「え。……うん。きっと。多分。恐らく。幾らかは」

「肝心なとこがダメダメじゃないですか!」

「んー。でもでも。少し遅れる、くらいは普通にありそう。知らんけど」


 ルイはマジ泣きしている。

「うおおおお! 給料の8割を、イケメンダンサーの黒ビキニパンツの中にねじ込む予定だったのに!」

 アヤナはドン引きだった。

「(この子、お給料をそう使おうとしてるんだ……)」


 周囲のシスターズたちもザワつき始めた。

「お給料出ないかも、だって!」

「私たちの、あのツラい訓練(ホウキで叩きあう)は何だったの!?」

「うぇーい!」

「うぇーい!」


 郵便屋さんが声をかけてきた。

「代引きの荷物、どうしまっすー?」

 アヤナは襟元を正した。

「お代は私のポケットマネーから出します。アグゥ二等兵、荷物を」

「はいー。わかりましたー」

 郵便屋さんは代引きの金銭と引き換えに、宝箱をあぐに渡す。

「では、どもーっす」

「ちょりーっす」


 ふぅ、とアヤナは息を吐いた。

「まったく。いくら私のポケットマネーだからって、そう、ぽこじゃがぽこじゃがは出ないわよ」

 コジ兵長は呟くように言った。


「『ぽこじゃが』って表現、珍しいですね。初めて聞きました。……私、小さい頃は言語学者を目指していたんですが」

「あら、そうなの?」


「でも間違って『C言語』とかを学んでしまい、夢は絶たれたんです」

「(この子も結構なポンコツよね……)」


 ともあれ、やたら嬉しそうに宝箱を訓練場の中央に運んでくるあぐだ。誰しもが関わり合いたくはなかったが……ここで逃げたら査定とかに響くかもしれないし、お給料も後回しになってしまうかもしれない。シスターズの全員が、つかず離れずの距離を保った。


 そこで地面に置かれた宝箱。それの前に、コジ兵長はしゃがみこむ。

 そして彼女はゆっくりと肯くと、宝箱を鑑定した。

 シスターズたちの少しの沈黙。

 コジは軽く肯いた。

「大丈夫、宝箱自体に罠は……」

 彼女がそう言いかけた時だった。

 宝箱が無機質な声で「喋った」。



『自爆します』



「しゃ、喋ったあああ!」

「おぉぉあぁあ!?」

「自爆!? 自爆ぅううぅ!?」



 ハコは先を続ける。

『……中身が』



 ふぅ、っと息を抜いて安堵のため息をするアヤナ隊長。

「今のはビビッたわね」

 あぐとルイもそこに重ねる。

「怖かったですね、たいちょー」

「ホント、どうなるかと思いました」

 宝箱の鑑定をしたコジ巡査長も、少し笑顔になっていた。

「突然でしたからね。ふぅ。心臓に悪いです」

 周囲のシスターズたちも、その空気が緩んだ。キャッキャとじゃれあっている。


 唯一フレイヤだけが。

「(中身が自爆するってだけでも相当なモノだと思いますが……)」

 とか正論を思っていたが、言い出せなかった。


 アヤナは宝箱の中を見る。

「ふーん? 手紙が一通と、あと何か……剣のようなモノね」

 コジは頷く。

「詳しくは鑑定してみますが……恐らく剣だと思います。隊長はまず手紙の方を」

「わかったわ、ありがとう」

 封を開けて中身を見るとそれはロウの筆跡だった。


『アヤナ様、付与研のロウです。今回はジャン先輩に「好きなように試してみろ」とお墨付きをもらったので……』


「ちょおおおおおっ! ジャン、何やっちゃってくれてんのよおぁあぁ!」

「アヤナ隊長、落ち着いて! 続き、続きを!」

「う、うん……」


『何かかっこいいコトができる剣を模索しました。まずインテリジェンスソードの成分です。しかしコレはエクちゃんを作成した時に試したので、この剣には本当にほんのり僅かの知性に留めました。例によって出力機能はつけてません』


「なんであの子、こういう妙なことするかなぁ……」


『さて。かっこいい、と言えば、切り裂き攻撃の時に爆発現象が起こればいいな、と思い。そこから新型の剣の制作にとりかかりました。これは自爆する剣です。OSにはMeを採用。マイナスイオン発生装置搭載。飲尿療法機能搭載。燃費が良くなるらしいシールの貼り付け。さらにはアタッチメント装着で髙枝切りバサミ(すっごい便利ですよ!)に転用も可能』


 コジ兵長が少し頭を掻く。

「肝心の『爆発現象』のところまでが長いですね」

 アヤナ隊長は肯いてから続けた。


『しかし一様に「自爆」と言っても、使い手を巻き込んでしまっては意味がありません。それに白兵戦の途中で衝撃で暴発してもいけない。なので。この剣は敵に切りつけたり突いて刺しているなどの、白兵戦での状況下では決して自爆及び爆発しないように調整しました(すっごい頑張りました!)』


 アヤナが呟く。

「ねえフレイヤ。貴方の意見が聞きたい。もしかしたら私だけが特別なのかも、って思えてきちゃって……」

「大丈夫ですアヤナ隊長! 私も、『この剣のウリ、既に死んでるじゃん!』って思ってますから!」

「良かった。私だけじゃなくて本当に良かった……」

 アヤナは先を続けた。


『この剣の使い道は「自爆」です。刀身についているテンキーからパスコード「2887」と打ち込めば自爆します。しかし総当たりを防ぐため、そしてセキュリティを高めるため。パスコードを間違えたり、あるいはこの剣に魔法その他の手段で介入しようとした場合。やはり自爆します』


 アヤナとフレイヤは言葉を交わす。

「サラッと書いてあるけど、これパスコード間違えちゃったら自爆する、ってことよね?」

「そう、でしょうね」

「……ってか。これパスコード合ってても自爆しちゃう?」

「あー……」


『実はこの機能のテストとして同じ剣をもう一本作っていたのですが、梱包中に自爆してしまいました。ってかもう手に負えない存在になってしまったので、ノークレームノーリターンでお願いします』


 アヤナ隊長は叫んでいた。

「あああああ! 着払いで物騒なモノ送りつけておいて返品不可って、何なのよおぉおおぁあぁあ!」

 コジ巡査長も肯いてから言う。

「と言うかロウさんって。相当ヤバいものを生み出してしまったのではないでしょうか? 下手すると自爆するみたいですし、逆にその自爆処理でこの剣を砕こうにも、そもそもテンキーが刀身についているので必ず誰かが犠牲になるわけで」


 あぐがぴょんぴょんした。彼女はいつも楽しそうだ(平常運転)。

「コジしゃ、コジしゃ。アタッチメントを装着して、本格的に髙枝切りバサミに転用したらいいんじゃないでしょうかー?」

 コジ巡査長が手を左右に降る。

「あぐちゃ。自爆する高枝切りバサミなんて危なっかしいし……本格的に転用するくらいなら普通の使えばいいと思うし」


 そこでルイ・ビニールが思いついたようにぽんと手を叩いた。

「以前のインテリジェンスソード『エクちゃん』は名前とか、あぐちゃが勝手に設定した『好みのタイプは実直な男性』とかで、なんだか剣自体は女性みたいな気はしましたけど。今回のこの自爆するインテリジェンスソードって、性別はどうなんでしょうね。男なんですかね? 女なんですかね?」


 僅かの沈黙の後。コジ巡査長がポツンと言った。

 それは声がかなり響いた。



「突き刺すのなら、男のほうなのでは?」



 その場の全員、ブハッとなった。

 コジは慌てて弁明する。

「ち、違います! 違うんです! 私、得意な科目が保健体育なだけで!」

 ルイが言う。

「コジしゃ。それ弁明になってないよ……」



「違いますって! 私、ただ単に、愛読書がフロイトなだけなんですー!」




 シスターズらの、コジ・イツカに対する認識

 真面目な童顔巨乳→→→ヤベーやつ




 ちなみに自爆する剣は、倉庫の奥深くに封印されました(こういう処置が、後世やら別世界で色々と問題が起こる原因なんだと思う)。


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