片脚

 俺は最近ある居酒屋を見つけた。50歳ぐらいの男性が1人でやっている店で、料金は安いし、何より料理がとても美味い。なので、店を知って以来、仕事の帰りによく寄るようになった。


 ただ、俺はこの店のことでひとつ気になることがある。それは店主の右脚の膝から下が無いと言うことだ。店主は松葉杖を持っていて、それを使って厨房内を器用に移動している。


 一体どうして片脚になったんだろうか、と考えながら店主を見ていると、視線に気がついたのか、店主から俺に話しかけてきた。


「この脚が気になる?」


「あ……すみません。ジロジロ見てしまって」


 俺が謝ると店主は笑って言う。


「いや、いいんだ。そりゃ気になるでしょうよ。この脚は、私が若い頃無茶をしたせいでこうなったんだ」


「事故にでも遭ったんですか?」


「いや、違うよ。事故じゃ無いんだ。私は料理を作るのが好きだが、それ以上に料理を食べるのが好きだったんだ。それに加えて大酒飲みでね。色々な所に旅行に行って、色々な料理や酒を食べまくったもんだよ。毎日毎日暴飲暴食。その果てに私は片足を失ったんだ」


 なるほど、病気だったのか。そういえば食べ過ぎて糖尿病になり、足を切断することになったと言う話はよく聞くな。俺も気をつけないと。


「大変でしたね。足を切断するほど病状が悪くなったなんて」


 しかし、店主は否定する。


「いや、私は病気なんかになってないよ」


「え?」


「若い頃から美味しい物を求めて色々食べまくっていたんだが、ついに目ぼしいものはあらかた食べ尽くして『何か他に食べた事のないものって無かったかな』と考えた末、まだ人肉を食べていないことに気が付いてね」


「え……」



「で、右脚を切断して焼いて食ってみたんだよ。正直味はイマイチだったよ。脚一本犠牲にする価値は無いね。まあ良い経験にはなったよ。ワハハ!」

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