料理人
俺は先日仕事をクビになり、やけになって昼間から自室で酒を飲んでいた。そんな時、消していたはずのテレビに突然映像が映し出された。
『我々はグルメ星からやってきたグルメ星人だ。うまいものを食うのが我々の生きがいだ。この星で1番うまいものを食わせてみろ! もしまずかったらこの星を破壊してやる! こんな風にな!』
グルメ星人の演説が終わると、外国のとある山脈が映し出された。そして、数秒後に謎の光線によってその山脈は破壊されて、あっという間に平地になってしまった。どうやら地球を破壊するというのはハッタリではないようだ。
「まあ、どうでもいいか。こんな星どうなろうと知ったことか」
将来に絶望していた俺にはこのグルメ星人に地球が破壊されようがされまいが関係ない。いや、むしろ是非破壊してもらいたいとさえ思っている。
『では我こそはうまい食い物を用意できると思うものは名乗り出てみよ! 心の中で念じるだけで良い……何!? 誰もいないだと! 仕方ない、では無作為に選ぶとするか』
そして、気がつくと俺はよくわからない場所にいた。周りにはテレビに映っていたあのグルメ星人達がいる。
「ここは?」
「よくきたな。ここは我々はグルメ星人の宇宙船の中だ。お前もあの映像を見ていただろう? お前が無作為に選ばれたこの星の人間だ。早速うまいものを用意しろ。うまいものを出したいと念じるだけで、ここに出すことができる。なんならお前自身が作ってもいいぞ。材料も調理器具も念じるだけでいくらでも出せるからな」
まさかこんなことになるとは。しかし、これは好都合。地球なんて滅べばいいと思っていたところだ。ここで俺が激マズ料理を出せば無事地球は破壊されるというわけだ。
さらに言えばさっきから偉そうなこのグルメ星人達にもムカついていた。科学力が上だからって他の惑星の住人に飯をたかった挙句、まずかったら星を破壊するなんてめちゃくちゃすぎる。こいつらにも酷い目にあってもらおう。
つまりこいつらに激マズ料理を食らわせれば、地球は破壊され、コイツらも苦しむ。一石二鳥というわけだ。
「よし! じゃあ早速ご馳走してやるよ! 地球で1番うまい食い物を!」
俺はズボンとパンツを脱ぐと、皿の上に大便をひり落とした。そして、グルメ星人にその皿を差し出す。
「できた! これがこの星で1番うまい食い物だ!」
グルメ星人はキョトンとしている。無理もない。うまいものを出せと言ったのに、その対極に位置する物体を目の前で出されたのだから。
しかし、グルメ星人は意外な行動に出た。
「な、なんてうまそうな匂いだ! いただきます!」
なんとグルメ星人は俺の大便をスプーンで掬って食べはじめた。
「う、うまい! こんなうまいものを、食べたのははじめてだ!」
「おい! 俺にも食わせろ!」
「オレも!」
「私も!」
よっぽど口に合ったらしくグルメ星人達は争うように俺の大便を食べている。
そして、大便を食べ終えるとグルメ星人は俺に丁重にお礼を言ってきた。
「ありがとうございます。こんなに美味なる物を食べたのは初めてでした。数々の御無礼をお許しください。ところでお願いなのですが、是非グルメ星に来ていただけませんか? そしてグルメ星で料理人となって欲しいのです。報酬は望む物を好きなだけ差し上げますから」
思いがけない申し出だった。どうせ無職だしこの地球に未練もない。
「いいですよ。でも1つだけお願いです。グルメ星に行く前にこの星を破壊してくれませんか?」
グルメ星人達は驚いた。
「いや、あの、いいんですか? あなたの故郷ですよ?」
「いいんです。やってください」
グルメ星人は宇宙船から例の光線を発射し、地球は跡形もなく消え去った。
「ガハハ! ザマァ見ろ! 俺を今まで馬鹿にしてきた罰だ! バーカ! バーカ!」
俺は地球の有った方角に向かって中指を立てながら高らかに笑い、故郷を後にした。
グルメ星についた俺は歓迎され、お城のような豪華な自宅を与えられた。地球の頃とは天と地の差だ。
しかし、困ったことが起こった。俺の口に合う食べ物が何もないのだ。そもそもこの星の連中は俺の大便を「うまい」と食っていた奴らだ。当然味覚も地球人とは大幅に違うのだ。この星の食べ物や飲み物は全部うんこの臭いがして、とても口にできる物ではなかった。
食べ物を食べなければ料理はできないし、第一このままでは餓死して死んでしまう。俺はこれから一体どうすればいいのだろうか?
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