召喚魔法を唱えてみたら〜まさかで始まる英雄譚〜
ダンゴロ
第1話 はじめての召喚
「ドタバタドタバタうっさいわね!ソル!何時だと思ってんのよ!」
そう文句を言いながら、下の階に住む幼馴染で親友のモリーが部屋に入ってきた。
「なんだモリーか。何の用?」
「なんだじゃないわよ。何をやってんのよ。こんな時間まで。」
「見てわからない?」
私の周りのあちこちには物と呼ぶには忍びないほどに壊れたガラクタが散乱している。
「売れるもの探してんのよ。もうとうとうこんな時間まで家探ししなきゃいけないほど、売れるものがなくなってきちゃってね。」
「また金欠なの?」
モリーは呆れたような顔を浮かべている。
「またって・・・。ばあちゃんの遺産も底をついて明日食う為の金を日々作らなきゃなんないって事くらい、アンタも知ってんでしょ。」
「あーあ。何度聞いてもかわいそう。貧乏人って大変・・・イタッ。」
私の投げたガラクタがモリーの頭に直撃した。
「あなたの境遇を憐れむ親友にまさか物を投げつけるとは・・・。アラ?なにこれ?」
モリーは私が唯一丁寧に机に置いていた古びた本を拾い上げた。
「『How to 明日から始める召喚術』ってこれ、ひょっとして魔導書グリモアール?」
モリーは私に尋ねる。
「みたいね。魔法が掛けられてたタンス漁ってたら今日出てきた。きっと父さんが使ってた本でしょうね。」
「へえ。アンタと違って立派な魔法使いなんだっけ?」
私の父さんは立派な魔法使いらしい。
と言っても、私が産まれると同時に家を出ていってそれっきりなので私はあった事はないけど。
私を産んですぐに死んだ母さんも、私のばあちゃんも魔法使いでもちろん私も魔法使い。
この時代には珍しい、先祖代々魔法使いの血をひく家系だ。
「失礼ね!私だって魔法くらい使えるってば!見てなさい!燃え盛れ!炎魔法『ライター』!」
私がそう唱えると指先から炎が燃え盛る。
「またそれか・・・。炎って程燃え盛ってないし、どうせすぐに消えんでしょ?それにライターって。それになんで呪文の名前が『魔道具』のライターなのよ。ネーミングセンスも魔法のセンスもない。」
呆れながらモリーが文句を言い終える少し前からすでに、私の炎は消えていた。
「うるさいわね!ってか何アレ?ちょっとみてよモリー!」
窓の外には、綺麗に輝く満月が浮かんでいた。
しかしその満月は今までに見たことが無いほど大きく、見たことがないほど青白い輝きを放っている。
「うわさっぶ。なにそのベタで古典的な誤魔化し方。何からなにまでセンスが無いわ。ってうわ!ホントだ!」
私に言われて振り向いたモリーもすっかりその大きな満月に目を奪われている。
「え?今アンタ、何からなにまでセンスないって言った?モリー。」
「ねえちょっとやばくない?ソル、アンタのおかげで良いモン見れたわ。」
「ああそう・・・。よかったね・・・。」
「私も魔法が使えるようになりますように。私も魔法が使えるようになりますように、私も・・・」
モリーは早口で月に向かって願いを掛け始めた。
「それ流れ星でしょ?アンタもベタじゃん。古典的じゃん。」
魔法使いの血が流れていないモリーには魔法を使う事が出来なかった。
「なんで私には魔法が!クソう!」
悔しそうに床を叩きつけるモリー。
「諦めたまえ。まあ、魔法は誰でもが使える訳ではないのだよ。この時代において魔法が使える私の様な存在は選ばれし存在なのだ!レア者なのだ!崇めたまえ!金を貸したまえ!」
「貸さないっつの!調子に乗るなよイヤミな奴め!せっかく魔法が使えるのにその肝心なセンスが無いなんて、才能に恵まれているんだか、恵まれてないんだかよく分からないわね・・・。」
「グヌヌヌ・・・。もういい!魔法使いさんは探し物の続きをしちゃうんだから。」
「なにその一人称。」
探し物を再開した私の横で、モリーは先ほどのグリモアールを読み始めた。
「ねえソル?」
「なあに?」
「召喚術ってむずいの?」
「らしいよ。もう今の時代に召喚術を使える魔法使いはほんの一握りの存在だって。ばあちゃんが言ってた。」
死んだばあちゃんが魔法使いとして全盛期だった時代でも、召喚魔法は消滅の一途を辿っていたらしい。
「ふーん。アンタも出来ないの?」
「出来ない出来ない。まあ、やったこともないけど。」
「なら、やってみたら?」
「え?」
驚いた私にモリーはグリモアールを差し出している。
「『How to 』だってよ。」
「ええ?イヤ、無理だって。だって私だよ?」
「まあまあ、物は試しにさ。せっかく入門書が出てきたんだし。」
モリーはさらにグイグイとグリモアールを押し付ける。
「ハア・・・。わかった。じゃあやるからもう帰ってよ?もう遅い時間なんだし。」
こう言いだすとモリーはしつこいので、私はしぶしぶグリモアールにある召喚術をやってみる事にした。
「ふんふんなるほど。・・・やっぱわからん。ごめんよモリー。」
「いーからやってみなって!私さ、魔法使いが魔法陣使うとピカっと光る、あの光見るのが好きなんだよねえ。」
「なによその魔法のニッチな楽しみ方。」
もう一度グリモアールに目をやるがやはりさっぱり理解できない。
しかしモリーにそろそろ帰って欲しい気持ちは本物だったので、私はグリモアールに書いてある魔法陣を見よう見まねでその場に書いてみる事にした。
「お!様になってるね!」
「うーん、そうかな?」
円の中に六芒星が書かれているけど、どうなっているのかよく分からないし上手く書き写せてもない。
「よし、これでよし。」
どうせ無理なんだからと、私は適当に魔方陣を書き写した。
「なんかグジャグジャってなってるけど。」
「うるさいモリー。」
後は呪文を唱えるだけだ。
私はグリモアールに書いてあった呪文を適当に唱え、ちょっぴり傷つけた傷から魔法陣へと血を垂らす。
「ウンジャラカンジャウンジャラカンジャア・・・。痛った。意外と傷深いわコレ・・・。」
「うーわ。すっごい適当。そんなんでちゃんとピカって光るの?ねえ、光らせてくれる?」
モリーがうるさいのでダメ押しに叫んでみる事にした。
「イウェヤー!!!!」
どうせ発動はしないだろうし、後は流れのまま強引に帰って貰うつもりだった。
なのに何故か、部屋の中がとてつもない程の月明りに包まれた。
「うわ眩し!光らせすぎよ!ソル!」
あまりの眩さに私もモリーも目が開けられないでいた。
・・・どれくらいたっただろうか?
相変わらず目を瞑っていると私は突然モリーに肩を叩かれた。
「なにすんのよモリー。」
モリーは口をだらしなく開けたまま、私の背後を指さしている。
私は背後を振り向いて驚いた。
そこには、なぜか発動してしまった魔法陣と、見知らぬ二人の男の子が横たわっていたのだった。
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