第10話 最強(2)

リーダーとの戦闘が始まった。何も考えなくていいならこの程度の相手1分もあれば片付くんだが、玉兎の剣の影響が他の人に及ばないようにいなしながら戦わないといけないからだいぶしんどい。にしてもあの剣の威力エグイな。ひと振りしただけでとんでもない爆風が押し寄せてくる。あの打撃をまともにくらえば即死、仮に即死を免れたとしてもおそらく戦闘不能になるだろう。とにかくあれだけはくらえない。俺は相手と避難してる人の距離をとりながら隙をうかがっているが、相手もなかなかの手練でその隙をみせない。

「おいおいどうした。最強と言われてる割にはまだ一発もいれられてないじゃないか。」

「ははっ。お互い元気ピンピンだな。」

まったく。映画の撮影もあまり時間に余裕がないらしいし、早いとこ決着つけたいんだが、どうしたものかな。相手が剣使いなのに対して俺は拳と脚しか使えない。間合いを詰めたいところだが下手を打つとあの剣の餌食になる。かといって俺には遠距離攻撃があるわけでもないからどっかで間合い詰めて一気に決めるしかない。となるとあれを使うしかない。この世には生まれつき特殊能力を持つ超人が3人存在するという伝説がある。というか、存在する。そしてその1人が俺だ。俺の技を使えばこいつは確実に倒せる。だが、それは伝説が本当であると世に証明することになる。そうなれば様々な憶測が飛び交い混乱しかねない。それに他の特殊能力をもつ2人を刺激する可能性もある。でも、これを使わなければ誰かが殺されるのも時間の問題だしやるしかない。俺は構えに入る。

「そんな遠くから構えてどうするつもりだ?」

「笑ってられんのも今のうちだぞ」

師匠と何度も鍛錬した動きを体現する。

「天啓の諭し、魁、豪放磊落」

豪放磊落は一時的に自身の速度を爆発的に増加させる技だ。それに伴って威力も増大する。俺は一瞬で相手の懐に飛び込んで渾身の一撃を打ち込んだ。敵は対応できるはずもなくその場に倒れる。

「な、なんだ、今、のは」

相手は呆気にとられた様子だった。

「お前の敗因は勝手に俺の限界を設定したことだ。真の最強は最後の一手を必ず残しておく。どんな状況にも対応できるようにな。そんなことも知らないで俺に勝てると思うな。」

どうやら何が起こったのかもわかっていないようだから、伝説のことは知られずに済みそうだ。

「ところで、FOXがどんな計画を立てているのか、知っていることを話してもらおうか。」

「お前に言えるような情報は何もない。」

こいつは強さからしてFOXでも相当高い地位にいるはずだ。そんなやつが情報を持っていないわけがない。教える気がないのだろう。

「まぁいい。そこら辺はお巡りさんに任せる。」

ちょうど警察が到着して身柄の引き取りをしようとしてたところだった。

「純也君。」

気がつくと優さんがすぐそこに来ていた。

「どうしましたか?」

「いや、この状況で撮影を続けるのはさすがにまずいと思うんだけど、どうかな?」

「たしかに、みんな頭の整理が追いついていないでしょう。今日はここまでにして全員宿所に帰らせた方がいいと思います。」

「わかった。」

その後、優さんが全員にその旨を伝え、その日は解散となった。俺も部屋に戻ったが、することもないのでダラダラしている。すると、ドアをノックする音が聞こえてきた。俺はドアの方に向かう。

「誰?」

「私だけど、ちょっと時間いい?」

ノックしてたのは美雪だった。おそらくさっきのことで何か言いたいんだろう。

「だいたい何のことか察しがつく。とりあえず入れ。」

俺は美雪を部屋に入れて、2人で向かい合う形で座る。

「で、どうした?相談か?」

美雪はすごく言いにくそうな顔をしている。

「話すのに勇気がいるならお前のペースでいい。けど1人で抱え込むのはよくない。俺をどんどん頼ってくれ。」

メンタルケアも俺の仕事の1つだ。

「あのさ、私女優やってていいのかなってすごく不安になってきちゃって。」

「どうして?」

「だって、私が狙われてるからみんなに迷惑がかかる。今日だって私のせいで撮影が止まっちゃった。ただでさへ時間に余裕がないのに、みんなの負担を増やす結果になっちゃった。純也が戦ってくれてる時も早く終わってってすごい思っちゃうし、私が女優をやめればみんなに迷惑かけずに済むしみんなが幸せになると思っちゃうの、」

その気持ちは痛いほどわかる。俺も戦ってる時は早く終わらせようと必死だった。他人に迷惑をかけてると自覚する時ほどつらいものはない。自分なんていなければいいのにと思ってしまう。でもそれは5年前の俺だ。だからこそ、美雪に同じ道は絶対に歩ませたくない。

「そのみんなの中にお前は入ってるのか?」

美雪は言葉に詰まっているようで何も言わない。きっとその中に自分をいれてないんだろう。

「いいか、はっきり言っておく。今回撮影が止まったのはお前のせいじゃない。FOXの連中のせいだ。お前は狙われたんだから逆に被害者で、お前を責めるやつなんて一人もいない。」

「でも撮影が止まっててそれに私が関係してるのは事実。そして私がやめればそれは解決される。」

違うんだ。俺が言いたいのはそこじゃない。

「美雪、お前はどうしたいんだ?」

そうだ。俺はこれを美雪に聞かないといけない。

「え?」

「たしかに、お前の言ってることも一理ある。お前がやめるっていうのもひとつの手段としてはありなのかもしれない。でも、それを考える前に俺はお前に聞きたいことがある。」

俺は少し間をあける。

「お前は女優を続けたいのか?それとも辞めたいのか?そしてこれは人のことは考えずに、自分のためだけを思って考えて欲しい。」

美雪は黙り込んでしまった。きっとすごく悩んでいるんだろう。俺は急かさず美雪の次の返事を待つ。美雪が、自分がこの状況に耐えられないからやめたいというのならそうするしかない。けど、そうでないなら絶対に続けた方がいい。

「そりゃあやめたくないよ。せっかくここまできたんだもん。女優としてずっと続けたいよ。」

予想通りの答えが返ってきて俺はほっとする。

「なら話は簡単だ。このまま頑張ろう。FOXのことはなんも気にしなくていいから、お前は映画を大成功させることだけに集中しろ。優さんとの話し合いで今回の事件は公にしないことにした。FOXのことは絶対俺が解決してやる。二度とこんなことにならないようにな。だからお前も諦めるな。できるか?」

美雪は少し泣いているように見えた。

「わかった。私頑張るよ。」

美雪は笑ってそう言った。あぁ、やっと美雪の笑顔が見れた。

「よし。じゃあ明日も頑張らなきゃだし、もう部屋に帰って寝た方がいいんじゃないか?」

俺がそう言うと、美雪は不敵な笑みを浮かべた。

「やだ。私今日ここで寝る。」

「は!?」

いきなりとんでもないことを言われて頭が混乱する。

「今純也に全部話して迷いはなくなったけど、なんか怖いから今日は純也と寝る。」

こいつは本当に何を言ってるんだ。

「お前自分が何言ってるかわかってんのか?」

「うん。わかってるよ。」

だめだ。こいつ絶対わかってない。

「同棲してるとはいえ一緒の部屋でなんか寝たことないだろ。」

「そうだよ。だから今日が初めてだね!」

だめだ。こいつどうかしてる。さっきの事件で頭いかれたんじゃないか?まぁでも今に始まったことでもないか。

「はぁ。どうせダメって言っても居座るパターンだろ。」

「おー正解!よくわかってんじゃん。」

何年の付き合いだと思ってんだか。

「しょうがねぇな。今日だけだぞ。」

ということで俺らは今日は一緒に寝ることになった。ほんとになんでこんなことになったんだか。そりゃあ美雪と一緒に寝るのが嬉しくないと言ったら嘘になるが、頭がどうにかなっちゃいそうだ。どうか何も起きませんように。そう願って俺は寝る準備を始めた。

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