第40話『祝勝会はパーッと楽しもう』

「乾杯ーっ!」


 第7階層から戻った俺達は、すぐに連盟支部へ立ち寄って医療施設で手当てを受けた。

 さすがの技術としか言えない。

 春菜と真紀が負っていた擦り傷は、後もなく塞が――というより、完治したと言った方がいいのだろうか。


 その後は【トガルガ】との事を報告したのはいいものの……「一時的な手当です」と、受付嬢から食事代がタダになる券を手渡されてしまった。

 正確には、請求を全て連盟に肩代わりしてもらえる券だけど。


「うお~、美味しそーう!」

「よだれ垂れてるよ」

「あっ、いけないいけない」


 春菜は、相も変わらずテーブルの表見が見えなくなるほどの料理を注文している。

 とかなんとか言ってるけど、俺も今日ばかりは欲張って注文しているんだけど。


「いっただきまーすっ」


 意気揚々に料理を口に運び始める春菜を見て、クスクスと笑う俺と真紀。


「じゃあ俺も。いただきます」

「私も。いただきます」


 こうして、俺達の祝勝会が始まった。


「いんやあ、あの時の1撃はすっごかったよねぇ」

「本当にそう。かっこよすぎた」

「自分でもびっくりだけどね。鍛えてる時は集中し過ぎて、あんなに光が膨張しているとはわかっていなかったからね」

「ほえ~! でも、ちょー爽快だったよ」

「うん。頑張って時間を稼いだかいがあったね」

「うんうんっ」


 そうだ、まだちゃんと言えてなかった。


「春菜、真紀。あの時は無茶を聞いてくれて、本当にありがとう」

「や、やめてよっ。あの時はそうするしかなかったんだし、私達はパーティでしょっ」

「そうだね。私も、一心のスキルなら――いや、一心にならやれるって思ったから。だから、無茶だったかもしれない時間稼ぎだって頑張れた」

「だね。私も、一心くんを信じていたから戦えた。頑張れた」

「……」


 胸の底から込み上げてくるものがあり、上手く言葉が出なかった。

 今何かを言えば、言葉と同時に涙が零れてしまう。


 俺は正直、今の今まで『自分のせいで、また1人になってしまうのではないか』という気持ちを抱えていた。

 誰かを信用していないわけではない。

 誰かに信用されていないんじゃないか、っていう悩みを抱き続けていた。


 こんな、俺が一番求めていた言葉を耳にして、感極まらないわけがない。

 今思い返せば、こんなことで悩む必要はなかったのかもしれない、と思う。

 春菜と真紀は出会った時からずっと、俺を信用してくれていたというのに。

 ちゃんと言葉にしてくれていたというのに。


「だからさ、これからもみんなで頑張っていこうよ、ねっ」

「そうだね。みんなで頑張っていこう」

「――……うん」


 たったその一言だけで精一杯だった。


 そして、零れそうになった涙を誤魔化すようにジョッキに注がれているキンキンに冷えている炭酸ジュースを一気に飲む。


「うっ――喉、痛っ」

「あっはは、そりゃそうでしょ」

「げっぷするなら外でしてきてー」

「別に私達は気にしないけどね~」


 笑ってくれ、そっちの方が気が楽になる。


「ごめん、ちょっと外の空気を吸ってくるよ」


 このままでは料理を食べている時に号泣してしまう。

 そう思い、それだけ言い終えると外へ出た。




 珍しく夜景を眺めてみたい気分になって1人で夜道を歩いていると、美和みよりからの着信が。


「とんでもないこと、やっちゃったね」


 夜よいうことも相まって辺りも静まり返っているからか、美和の声がよく耳に届く。


「え? つい数時間だっていうのに、もう地上まで話が回ってるの?」

「まあ、連盟に報告をしっかりしているなら数分で従業員には伝わるわよ」

「はえ~そりゃあ凄い」


 なんて呑気なことを言っているけど、ダンジョン内でこれぐらい発展しているんだから通信網だってしっかりと整備されてるんだろう。

 まあでも、だったらダンジョン内エレベーターとかエスカレーター的なものも作ってほしいよ。


 と、階層の移動が面倒だからこそ切に願ってしまう。


「あぁー、つい数日前までは暗い顔して落ち込んでたのに。今じゃ一躍時の人になっちゃって」

「いやいや、偶然もいいところだし。それに、俺だけじゃ成し遂げることはできなかった」

「それはそうでしょうね」

「美和にだっていろいろと感謝してるんだぞ」

「そうなの?」

「そうだよ。落ち込んでいる俺にアドバイスをくれたし、スキルガチャを勧めてくれた。間違いなく、俺だけだったらそんな選択肢は出てこなかったし、もしも浮かんだとしても実行する勇気なんてなかった」

「ふぅーん、そうなんだ」

「だからさ、ありがとうな。これからもよろしく」

「なんか最後の別れ言葉みたいで辛気臭い」


 はい?


「そんな改まって言われなくても、よろしくしてあげるわよ」

「お、おう」

「感謝を告げられなきゃ付き合いがなくなるんだったら、とっくの昔から音信不通になってるわよ」

「ありがとうな?」


 え、これってどうやって反応を返すのが正解なわけ?


 あんな事があったから、日頃から伝えられていない気持ちを素直に伝えてみたんだけどなー。

 もしかして、柄に合ってないことをするなってことですか?


「まだ、街に残ってるんでしょ?」

「ああ」

「ならそろそろ切るわよ」

「わかった。おやすみ」

「それじゃ、おやすみ。ゆっくり休みなさいよー」


 言いきりかよ。

 俺が「うんわかった」っていう時間ぐらいは残してくれよな。


 空を見上げれば星空が――ではなく、天井を見上げればキラキラと光り輝く鉱石が広がっている。


 思えば、俺はパーティを追放されて悲観的な面もあった。

 だけど追放されたことを憎んでいたわけではない。

 前パーティのみんなにも言われたけど、俺は自分の弱さに気が付きながらも「しょうがない」とどこかで言い訳していたのかもしれない。

 自分は紛いなりにも鍛冶師なんだから、できることをやろうって。

 でもそれは解決策でもなく、強くなろうとしていなかっただけなのかもしれない。


 美和に勧められたからっていうのもあるけど、強くなろうと思い、強くなろうと行動し始めた。

 その結果が、今の俺になれたんだ。

 ありがたいことに、不慣れな配信者としての活動もチャンネル登録者数が信じられないぐらい増えてきて、こんな俺を信じてくれる仲間とも出会うことができた。


「――そろそろ戻らないと、だな」


 明日からは【トガルガ】の報告書作成したり、装備の修理だったり、家賃の支払いに地上へ戻らなくちゃいけなかったり……。


 まだまだこれからも、頑張らないとだな。

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