第22話『自分だけの能力は所詮こんなもの……』

「それでは手短にお話をしようと思います」

「先生、よろしくお願いします」


 なんて、俺達はスピーカー状態で通話を始める。

 朝食を口に運びつつ、春菜はなにかをしつつ。


「まずは配信について。まずは悲しい現実を直球で言ってしまいます」

「はい」

「配信者になりたてて、ほとんどの人はあることが気になって気になって仕方がありません。一心くん、経験を元に答えてください」

「……視聴者数とコメント」

「はい、正解です。二重丸です、花丸です」

「そんな大袈裟な」


 ふざけ合っているのが互いにわかっているから、俺達はクスクスと笑みが零れる。


「ふふふっ。冗談はさておき。まず視聴者数について。これは本当に悲しいことなんだけど、1人とか3人とかって表示されている時は、そのほとんどが人間ではありません」

「え?」

「そうですね、100点のリアクションをありがとうございます。これはその可能性がかなり大きいってだけで、確定事項ではないっていう前提でね。配信をするサイトを見回っているセキュリティっていうか、BOTって言われるものが巡回していたり監視されていることがあるの」

「ほおほお、よくわからない」

「詳しく知りたい場合は自分で調べてほしいんだけど、存在だけを知っていればいいよ。なんていうのかな、不正……っていうと硬くなっちゃうけど、配信はしているけど放置しているだけとか、配信者が亡くなっていたら配信を終了してくれるって感じ」

「ははぁ、それならなんとなく理解できるかも」

「うんうん。だから、そういうBOTが偶然にも集まっていたりすると、それが視聴者数に反映されてるって感じなの」

「だから、視聴者……というか配信を観ている人は居ないかもって話なんだね」

「そうそう。そういうこと」


 なら、前回の配信で身に来てくれていた人達は全員が人間っていうわけではなかったということか。

 ありがたいことにコメントをしてくれる人が居たけど……自分だけの能力は所詮こんなもの……なんだな。


「ん? なにかあった?」

「い、いや。なにもないよ」

「じゃあ次。コメントについてなんだけど、これはさっき話をした通りで全員が人間じゃないかもしれないって可能性から話すと、視聴者数=コメントってわけじゃないということ」

「そういうことだよね」

「でもね、ここら辺がややこしい話なの。視聴者の中には『コメントをするのは恥ずかしい』『配信は見続けるもの』、という感じに思っている人達が居るの。そういう人達のことを総称してROMって呼ぶの」

「なるほど。俺も視聴者側だったら、そっち側かも」

「視聴スタイルは人それぞれだからね。それでもいいと思う。ちなみにそういう人達のことをROM専って呼んだりもするから、もしも呼びかける時はそう呼んであげるともしかしたらコメントしてくれるかもね」

「勉強になります先生」

「ふふんっ、どうですか一心くん。私のことを見直しましたか」

「はいっ!」

「素直でよろしい」


 一度たりとも見くびったことはないけど、ここでわざわざ言うことでもないな。


「ちなみに、一心くんの場合はほぼ全員が人間だと思うよ」

「そうなの?」

「管理人じゃないから断言はできないけど、コメント数が凄かったでしょ?」

「たしかにコメントをしてくれる人達は居たけど、経験が無いから全然わかってない」

「それもそうだね。現実的なことを言うと、配信者として活動を開始したばかりっていうのはほとんど人が来ないの。物好きな人はわざわざ初心者を探して観に来てくれるとかあるけど、それは極少数。その中でもコメントをしてくれるのはさらに少ない」

「じゃあ――」

「そう。もしかしたら私達の配信と同時に観てくれている人かもしれないけど、コメントをしてくれるっていうのは喜んでいいことなんだよ。しかも、今のチャンネル登録者数ってどれくらい?」

「起きた時に確認したら、120人になってた」

「うんうん。話を通してもうわかってると思うけど、急成長どころの話じゃないよ。なんなら私達の時より伸びが凄い」

「そうなの?」

「うん。これでも地道に登録者数を増やしてきてるからね。ちょーっとだけショックではあるよね」

「……なんかごめん」

「いやいや、これも実力だから。そういう世界でもあるからね」


 本当に自分だけの力なのか、時の運だけではないのか。

 そんな疑問が右から左から、襲いかかってくる。

 だけど今それを口に出したら、声だけでも気落ちしているのがわかる春菜に失礼だ。


「そんでもってだけど。SNSの方でバズってるって話は憶えてる?」

「あんまり理解はしてないけど憶えてるよ」

「なら心して聴いてほしいんだけど、今の再生数が5万再生を突破したよ」

「え、ええ!? ご、5万!?」


 数人の人にコメントをしてもらって、100人の人にチャンネル登録をしてもらって大喜びしているというのに、5万!?


「な、なにかの――」

「これが間違いじゃないんだよね~。さすがの私でもビックリビックリ。あ、ちょっと待ってね」

「うん」


 なにかの……間違いではない、と断言されてしまった。

 逃げ場を欲するのはお門違いなんだろうけど、自分のことながらに別世界の話にしか思えない。


「ごめんごめん。それでなんだけど、さすがに事務所の人に見つかっちゃってね。事情説明でマネージャーさんに運んでもらってたの」

「え」

「ちなみに真紀も同じ感じで対応しているって連絡が入ってきた。ちょっと凄すぎるねっ」

「ねっ、って、他人事みたいに言わないでよ」

「ふふっ。でもね、私達は英雄様に助けられたお姫様だから。それだけは忘れないでね。これから一生、恩に報いるんだから」

「……」

「それじゃあ、そろそろ行くね。じゃあまた明日ね」

「う、うん。また明日」


 ここで通話は終わった。


 心がざわついて仕方がない。

 なりふり構わずとった行動が、想像もできないほど再生されている。


 前のパーティでは、ほとんど役立たずで追放された俺の行動が沢山の人達に観られているという事実。

 俺はまだ寝ていて、これは夢の中なんじゃないか?

 ほら、夢オチってやつ。


「……美味い」


 食パンの上にケチャップとチーズを乗せて、横型のトースターで焼いたパンの味はしっかりとする。

 これをガーリックケチャップソースに変更し、スライスしたサラミを乗せたらさらに美味しくなるんだろうな……って、そんなことを考えている場合じゃない。


 あ、え。

 でもこれは現実で、どういうことになって……いやいや、さっき教えてもらった通りで……。


 だけど俺のせいで春菜と真紀が事務所に呼び出されてる。

 じゃあこんな朝食をゆっくりと楽しんでいる場合じゃなくて、いやでも、こんな俺になにができるのかって話で……。


「あーっ! 俺がなにかできることって、なにもないじゃん!」


 俺が悪いってわけじゃない。

 そんなことぐらいわかっている。

 でも、だからって、いや、んんんんんんんんんん。


 少なくとも、今日のところは配信をせず、ダンジョンに向かうことなく過ごした方がいい……よな?


 わからん。

 全くもって正解がわからん。

 どうしてこんなに地頭が悪いのか、冷静に判断できないのか。


「ダメだ。朝食が終わったら、美和のところに行こ」


 間違いなく、俺よりも頭がいい美和と話すことで気が紛れるはずだ。

 なんの根拠もないが、なんとなくガミガミと言われる気はするけど、俺は美和しか頼れる人は居ない。


 食べ終わって食器を洗って、今日は天気だから洗い終わった洗濯物を干して、後は後は……。

 んあーっ! 美和ーっ、助けてくれーっ!

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