第20話『おい、なんでこいつが配信してるんだ』

 台田だいだ高定たかさだは、スマホをテーブルの上に落とす。


「おい、なんでこいつが配信してるんだ」

「急にどうしたの」


 飲食店の一角、丸テーブルを囲みながら食事を摂っている一行。


 パーティリーダーである高定たかさだが、食事の最中にそんなことを言い出すものだから、対面に座る桧谷かいたに彩梨さいりはスプーンでスープをすすり、反応する。


「どうせいつもみたいに女性配信者でもみてるんでしょ」


 彩梨さいりの隣に腰を下ろす、根巳住ねみずみ愛奈恵まなえがご飯を口に運びながら藪を突く。


「人をストーカーみたいに言うのはやめろ」

「え? じゃあ違うって言うの?」

「い、いや……別に違くはないが」

「ほら」


 普段から、画面に張り付いて女性配信者や動画配信者を観ているから、その事実に誰も疑いの眼差しを向けることはない。


「てかそんなことより、あいつが居るんだよ」

「誰よ、あいつって」

「これを観てくれよ」


 高定はスマホを持ち上げ、表示している画面を2人へ向ける。


「なに、こんなかわいい子が知り合いに居るからって自慢したいわけ?」

「うわ。趣味悪すぎ」

「違う。違って、そりゃあこんなかわいい子達が知り合いに居たら自慢するけどさ――そうじゃない。こっちだよ、こっち」


 自分からは逆さになっているものの、わかりやすく指を差す。


「これって、もしかして一心いっしん?」

「他人の空似じゃないの」

「それもそうね。だって、一心が自分からモンスターと戦うわけないじゃん」

「本当にそう。パーティに居た時のことを忘れたわけ? あんたが追放するって言ったのをもう忘れたわけ?」

「たしかにそうなんだが。でも似すぎだろ」


 2人の言い分に納得する他ない。

 なんせ、一心は追放されたという事実はこの場に居る全員の共通認識であり、無能さもそれに当てはまるのだから。


 映像の中で動いている少年の顔は、記憶の中に居る一心を彷彿とさせるものであっても、行動がまるで一致していない。


「ん。今、『シンくん』って言ってなかったか」

「そう聞こえはしたわね」

「うん」

「顔と言い、名前と言い、紛らわしすぎんだろ」


 ここに居るメンバーは、少なくとも一心が居ない場所で陰口を叩いていた。

 パーティから追放される際に言い放たれた『極潰し』『寄生虫』『役立たず』という感じに。

 実際問題、自他ともに認めていたことから誰も止めに入らなかった。

 一心も、追放宣言を受けて疑問をぶつけはしたが、反論をするどころか乞うことをしなかったのだ。


「うわ、なにこれすご」

「これってスキルなんじゃ」

「だとしたら、なおさら一心ではないでしょ。あいつが意を決して、というか自分の意思で重要な決断をできるわけがない」

「そうそう。無理無理。もしも本当にスキルガチャを回したとしていても、自暴自棄になってやっただけでしょ」

「こんな役に立つスキルが出るはずもないしね」

「……」


 彩梨さいり愛奈恵まなえはスマホから目線を外し、各々スプーンや箸を手に食事を再開。

 しかし高定は、胸に引っ掛かるなにかが気になり過ぎて納得はしきれなかった。


「てかさ、もしも一心がそのかわいい子達とパーティを組んでいても別にいいんじゃない?」

「は? 許せるはずがないだろ。羨ましけしからん」

「はぁ……」


 彩梨は、その欲望の貪欲さに呆れてため息を零す。

 さすがに「目の前にパーティメンバーかつ女子が居るのに、それを躊躇いもなく口に出す精神を疑う」という言葉をなんとか飲み込む。


「それを抜きにしても、気にする必要はないと思うんだけど」

「彩梨の言う通り。どうせ結末は決まっている」

「――……ああ、なるほどな」


 高定はニヤリと左の口角を上げる。


 そう、繊細に記憶に残るほどの感動するものでもなかったから、つい抜け落ちていたこと。

 一心を追放したのは確か。

 その理由も明確。

 基本的なことをまともにできない、鍛冶師というのは名ばかりでまともな働きをしなかったこと、戦力としては半人分以下だったこと。

 あまりにも無能を極めた存在だったため、パーティから追放された。


 だとしたら、新しいパーティに加わったからといって、それらがすぐに改善されるはずはない。

 こうして結界のようなスキルを用いて戦闘に参加し、自らの意思で剣で斬りかかっていたとしても、いずれボロが出る。


「あれか。一心は、レベルだけ……いくらだったかすら憶えていないが、それを利用して初心者の子達とパーティを組んだってわけか」

「うっわなにそれ。マジで終わってるじゃん」

「そこまでいくと、もはや詐欺師」

「あっははっ。ウケる」


  高定たかさだは高笑いをし、座ったまま地団駄を踏む。


「あーあ。だっとしたら、こいつが一心の方が面白しれーじゃねん。相手を騙した結果、どうなるか気になって夜しか眠れねえ」

「想像するだけ笑える」

「もしも追放されるタイミングに出くわすことができたら、録画してあげよ」

「うっわ愛奈恵、エグッ。だがその案は最高すぎるから、採用で」

「あざす」

「たしかにスキルも凄そうではあるが、これが最後の砦で、必死に考えたんだろうなー。どうやったらこの子達をたぶらかせるかを」

「性格終わってる」

「だな」


 高定は、最初こそは一心の姿を配信上――ましてや美少女達をパーティを組んでいるであろうことに嫉妬していた。

 しかしこれから待っているであろう結末を想像し、嘲笑う。


 そして最後、動向を探るという目的と――美少女達が配信しているチャンネルを拝むため、チャンネル登録をした。

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