第13話 獣王様の、おな~り~!

「イサークさん、あと30分で家に着くって。

 そろそろ招集してもらってもいい?」

「ユエさん…、本当に良いのか?

 ご近所さんにびっくりされないだろうか?」


何せ、数百にも及ぶ動物が並ぶんだ。

そりゃ、誰だってびっくりするだろうし、何事かと思われる。


「大丈夫です。

 もう辺りは暗いですし、私が通りの先まで迎えに行きますから。

 もし、ヒトが居るようでしたら、隠れるようにしてくれれば良いです。

 それじゃ、私はミキを出迎えに行ってくるからね~。」


 ユエさん…、闇の笑顔が見え隠れしながら、去って行った…。


 その後、クロウとブラック、シロに声をかけ、一同を集める。



「で、こんなに増えてるのは何故だ?」


 小屋に集まったクロウ達は総数70、ブラック達は50、シロに至っては500以上…。

シロの仲間については途中で数えるのを止めた…。


「主様、そりゃおいしいご飯を食べることができるって、他の区の奴らに知れ渡りまして…。」


クロウがバツが悪そうに、そう答える。


「でも、一食だけだぞ。」

「それでも、食べられない日が無いってのは幸せなんですよ。」


 そりゃそうだ。

 食えない日があるって事は、それだけ辛い…。

それに約束さえ守っていれば、ここに来れば毎日食える。

彼らにはそれで良いのだ。


「主様、申し訳ありません。」

「いや、問題ないよ。

 そうすると、他の区というか場所も約束を守っていろいろとやってくれるって事になるのかな?」

「そうです。

 私共は配管の掃除とGの駆除、ネコは不審者の見張り、カラスはゴミ漁りは無しという事になります。」

「うん。君たちがそれで良いという事であれば良いんだけど…。

 何か、他にしたい事とかはない?例えば…うーん…。」

「主様、私共は満足しております。

 今のままで良いです。それに、ネコからも襲われることが無くなりましたので、安心して生活できますので。」

「そうなのか。ブラック達もそれで良いのか?」

「私達もご飯もらえて、変な奴が徘徊するのを見張っているだけなんで、何も変わりは無いですね。」

「シロたちを襲わなくて良いのか?」

「おいしいご飯があれば、後はダラダラしたいだけですから。」


うーん。そんなものなのか?

君たち、もっとガッついても良いと思うのだが…。


「まぁ、皆が満足していれば良いよ。

 もし、何かあったら言ってくれよ。」

「ありがとうございます((ありがとうございます。))」


「では、配置しますよ~。」


 ユエさんが住んでいる砦から50m先の交差点までの間に、皆を配置する。

電線にはクロウ達。

 道路脇にはブラックとシロの行列。


 うん!整列したな。


「で、主よ。ユエさんと妹さんが来たらどうするんだ?」

「そうだな、首を垂れるという事は可能か?」

「造作ない。では、通り過ぎるまで首を垂れ、通り過ぎたら解散という事にしておく。」

「すまないな。」

「なに、明日のご飯を楽しみにしている。」

「ははは、それは大丈夫だと思う。

 そう言えば、コンビニだったか、その店員さんからは、少し個数を増やしてくれると言ってたから。」

「ありがたい。腹いっぱい食えるって事だな。」

「そうだけど、腹いっぱい食べて飛べなくなっても知らんぞ。」

「だな。お!先の通りでタクシーが止まったぞ。」

「タクシー?

 あ、鉄箱の乗り物だな。その中からユエさんが出てきたのか?」

「ちょっと待ってろ。

 …うん。出てきたな。それじゃ、皆に伝えるぞ。」

「よろしく。」


タクシーから降りたユエさんとミキさんは、その光景に驚いた。


「イサークさん…。いつの間にこんな…。」

「へ?ユエ?これって…、なに…?」


道路脇にはネコとネズミが一斉に首を垂れ、頭上にはカラスも首を垂れている。


「ユエ、ここは動物大戦争の場所?それとも、この先に百獣の王でも居るの?」

「あはは…。ちょっと違うけど…。」

「じゃぁ、何でこんな沢山のネコとネズミとカラスが居るのよ!」

「えと…、詳しい話は部屋に着いてからという事で…。

 さぁ、先に進みましょ。」


二人が恐る恐る歩を進め始める。


「ちょ、ちょっと、これって何?

 首を垂れてるネコとネズミとカラス…、私たちが過ぎたら消えていくって…シュール過ぎる…。

 ユエ、もし変な薬とか飲んでるとか、ここだけ異世界って事はないよね…。」

「異世界って事は無い…と思うけど、異世界に関係することもあるんだよね。」

「でも、なんだか動物の王様とか貴族になった気分だね。」

「それが今回のサプライズだよ。

 そのサプライズを演出したヒトが、私の彼氏!」

「へ?ユエ、いつの間に彼氏できたの?」

「つい数日前。」

「って、何でよ!」

「恋ってさ、突然やってくるんだよ!

 それにね、とってもいいヒト。」

「勿論、紹介してくれるんだよね。」

「うん!あそこに立ってるヒトが私の彼氏だよ。

 イサークさーん!」


「よし、これで皆解散できたかな。

 クロウ、皆にありがとうって、伝えといてくれ。」

「造作ない。では、また明朝。」



「で、彼が異世界からやって来たテイマーのイサークさん。

 私の彼氏だよ。」

「は、はじめまして。イサークと言います…。」


 なんだかぎこちない挨拶だったが、大丈夫だっただろうか…。


「ふーん。あなたが異世界から召喚されたヒトなのね。」

「信じてもらえないことは分かっていますが…。」

「いいえ…、あのお出迎えを見れば、誰だって少しは信じますよ。」


 ミキさんは俺をジロジロと見ている。

まぁ、姉の恋人を見極めるといった意味では正解だろう。


「ミキ!そんなにジロジロ見ないでね。

 イサークさんもどうしたら良いか分からないじゃない。」

「そりゃそうだけど、ユエの言ってる事って、まだ夢物語のように感じるし…。」

「でもさぁ、こんな外人さんが流暢に日本語を話すこと自体、不自然だと思わない?」

「言語理解だっけ?本当にそんな事あるの?」

「だと思うよ。」

「じゃぁ、少しだけイサークさんを試してみても良い?」

「何を?」

「私が英語で話して、彼がその言語を理解できていれば言語理解を認めるって事…。

 それに、ある程度スパニッシュも話せるから、やってみても…。」

「別に良いけど、イサークさんはそれでいい?」

「言語理解ってスキルの事ですか?

 たしか、この世界に来た時に、頭の中に流れた記憶が…。」



「ホントだ…。

 イサークさんは、日本語、英語、スペイン語、何でも話せるんだね。」

「いや…、俺の中にはすべて同じ言語として理解できているんだけど…。」

「でも、応対はすべて問われた言語で返しているから…。」


 言語理解は素晴らしいスキルだった。

この世界にはいくつもの言語はあるようで、それをすべて理解できるというようだ。

まぁ、俺にしてみれば、すべて同じ言葉として理解しているんだけど…。


「ね!すごいでしょ!

 それに、テイマーさんだから、さっきのような事もできるって事。」

「で、そのテイムした動物をどのように使っているの?」

「えと…、その件はイサークさんに直接聞いてみて。」


 ミキさんにこれまでの事を話し、クロウにはゴミ袋を漁らないこと、ブラックには不審者がいないかを見張ってもらうこと、シロには配管などのゴミの処理とGの駆除をお願いしている旨を話した。


「はぁ…、なんてことにスキルを使っているのかと思えば、公共のためという事なんだね。」

「えぇ。おかげで毎日Gが集まった袋を処理するのが大変で。

 でも、今日配管の中に邪魔になっていた金属も売れるようにお願いできましたし…。」

「ちょ、ちょっと待って。」


 ミキさんが眼を丸くしている。


「もしかして、配管の中に詰まった金銀とかの話?」

「はい。そうです。」

「あちゃーーー。出所はユエとイサークさんだったのね…。」


ん?何か話が繋がったような、繋がらないような…。


「えと…、とあるエージェントから、貴金属の買い取り依頼があったのよ。

 その金属というのが、配管に詰まった貴金属という事で、遺失物でもないことは分かったんだけど、一気にあの量でしょ…。

 何事かと思ったけど、そうか…、イサークさんのネズミさんが一役買っていたという事ですか…。」

「ミキさん…、もしかして耕さんからの話でしょうか?」

「耕さんというのが、誰なのかは分からないけど、とある建設会社の会長からの話。

 その会長さんの酔狂というか、趣味というか…。」

「耕さん…、そんなヒトと面識があるんだ…。」

「確か耕さんって、昔は一流企業に勤めていたって聞いたことがあるわ。」


 点と点が繋がった。

でも、何でミキさんに話が行くのだろうか…。


「ミキさんの仕事って何ですか?」

「え?ユエから聞いてないの?

 あたしの仕事は、ジュエリーデザイナーよ。」

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