27 所作が美しいと感じた落語家さまを列挙

2023/09/24(日)00:24 かきはじめ。


 暑さ寒さも彼岸まで、と言われます。日中は暑く、けれども夜が更けてくると、ひんやりする頃合いになってきたようです。

 今日は「うわぁ……」と心ときめく所作振舞いをなさる落語家さんを何人か挙げてみたいと思います。

 もちろん“わたしのバイアス”。それと今現在、落語を生業としていらっしゃる方々は東西併せて800名弱。700~800名弱の噺家さんを拝聴してなんぞ、おりません。

 あくまでも今まで拝聴いたしました範囲内で、ということで御容赦ください(とはいえ拙エッセイ、誰も見てないだろうけど。あくまでもマイ記録という位置づけだから、いいか別に)。


一、桂佐ん吉さん

 米朝一門の「コメイロ」という四人組メンバーの中の、おひとり。「コメイロ」メンバーがどういう人選基準なのか等々は、さっぱりわからん。けれどもyoutubeの中には彼らのPVもある。とても素敵なPVで、大好き。夜の道頓堀や法善寺横丁などが映し出されるのだが……観客が誰もいない繁昌亭で、黒の紋付袴姿の高座に上がる彼らに目もこころも奪われてしまう。

 わたしが実際にナマで高座を拝聴したのは桂ちょうばさん、桂佐ん吉さん、桂鯛蔵さんの三名。一日も早く桂二乗さんを拝聴したい!

 余談ながら、鯛蔵さん出演時に三味線で流れるメロディは「かわいい魚屋さん」。  喜楽館で拝聴できたときは

「わあ、コレかー!」

なんて、ちょっと感動しちゃった。

 別なときに喜楽館で拝聴した桂佐ん吉さん。上手から現れて座布団に座り、御辞儀をして御顔を上げるまでの一連の動きというか仕草が……わたしは心底から痺れました。これ以外に形容する語彙を知りません。

「美しい」振舞いとは、こういうことを言うのだと思った。そして、ガサツな自身を猛反省した。

 落語を観に行くと様々な発見があるけれども、こういうことも気づかせていただけるのだなあと感じる。元々の素養がないと、あんなふうに指の先まで品のある動きは出来ないだろう。我が身の育ちの悪さを恨むばかり。大袈裟ではなく、本当のこと。


一、春風亭一朝先生


 一朝いっちょうさんには何故か「先生」付けしてしまう。

 ちな、このエッセイでも度々触れているが「はじめての寄席体験」新宿末広亭で拝聴しただけなのだけれども……。

 すべての所作が、スマートさというものを体現していらした。小屋の中の照明や噺家さまたちの発する心地いいメロディのような話し方に、ついついウトウト眠たくなっていた自分。

 あの日は観客数も、そんなに多くなかったと記憶している。

 舞台に現れた落語家さんのお名前は当時、全員が知らない人ばかりだった。馴染みのない方々ばかりなので、ますます睡魔がまとわりついていた。寝たらだめ、せっかく末広亭の空間を愉しんでいるのにもったいない。

 そんな「いい感じで眠たくなる空間」にスーッと現れた男性は言った。

「いっちょうけんめい、がんばります」

 たしか、ネット配信で落語を演じるのもいいけれども観てくださるお客さまがいなかったら「ただの稽古」みたいだから、味気ない……とも仰っていらしたのが一朝先生だったと思う。

 そんなふうに終始、こちらの心をくすぐってくださった。その人が舞台に現れてから捌けるまで、すべてがスマートでやさしかった。まるで静かに流れる水のようだった。

 その日の夜席には古今亭菊之丞さん、三遊亭天どんさん、紙切りの林家正楽さまも出演しておられたのだが……丞さまや天どんさんの演目は調べたらすぐにわかった。 でも、どうしても。「とても静やかでやさしい雰囲気の落語家さま」の演じた噺を思い出せずにいた。そのまま、およそ七か月くらい経っていた。

(天どん師には違う意味で衝撃を受けた! 今まで、こんな人が実在するのかと思った。大雑把な話し振りなのにもかかわらず、舞台から濁流のようにダダ漏れしてくるセクシーフェロモンに圧倒されるばかりだった)

 今年に入って、たまたまyoutubeの夢空間チャンネルを観ていたときだ。

 一朝先生の「短命」途中。モヤモヤしていた記憶のパズルが一気に繋がったのだ。パパパパパパーーーッと、すべてが繋がったときは脳みそに変な汁が出たかと思ったくらい。大袈裟じゃなく、感じたんだよ。

 おかみさんが旦那さんに向かって、おひつの中に茶碗を突っ込んでご飯を入れて、すっごく面倒くさそうに「はいよ!」と出す。あのシーン。

 思わず声に出てしまった。

「あーーーー! コレだーーーーーーっ!」

 ずっと長くかたまっていた疑念が解けた瞬間。何歳いくつになっても、うれしくなるものですね。

 先生の噺は、さりげない動きや仕草や口振りで「こういう人っているよね! こういう部分、自分にもあるよね!」と思わせる名手だと感じる……音声のみの落語でも、引き込まれてしまう。

 粋、とは。こういうこと。







 

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