第12話  紅茶のクォリティ

 私こと、侯爵夫人となったグレタが滞在することになった邸宅は、元々は王族が避暑地として利用していた建物だけに、本国から輸入した建材で建てられたお金がかかった建物であり、天井を飾るシャンデリアや飾られる彫刻なども素晴らしいものではあるんだけど、外された絵画の跡がちょっと痛々しくも見えるんだよね。


 それなりの見栄えにしようと内装を整えようとしたけれど、資金不足によって途中で断念といった様相を呈しているし、中で働いている人も最低限という感じではあったものの、出された食事は素晴らしい(特にロブスターは美味しかった!)し、ワインもとっても美味しかった。


 この島は元々葡萄を作っていた為、今でもワイン工場が残されているんだけど、紅茶じゃなくてワインを作り続けた方が良かったんじゃないの?と思うほどに素晴らしく美味しいワインだった。


 ちょっと話を聞いただけでも、その美味しいワインを投げ捨てて紅茶栽培に走った侯爵の考えも分からんでもないし、私も遥か遠くの安陽国まで戦争を仕掛けに行くのは明らかにコスパが悪すぎると私は思う。


 絶対にイザベルデ妃の思惑とその後ろにあるポルトゥーナ王国の策謀があるって分かっているのに、紅茶を買い続けちゃうお貴族様たちのおバカなことよ。


 ああ、本当に、

「本日は侯爵様に、紅茶の可能性について知って頂こうと考えております」

 食後に晩餐室からシガールームへと移動をした私は、

「『アレ』を持ってきてちょうだい」

 と、アンネにお願いすると、

「情報の安売りですよ〜!」

 と、うんざりした様子で言い出した侍女のアンネはどうかしていると思う。


「アンネ、これも合コンのためよ!」

 合コンのため!ピカーンと目を光らせたアンネは、早速特別な紅茶を用意し始めたのだった。


 葉巻きたばこに火をつけようとしていた侯爵は動きを止めると、

「ごうこんとは何なのだ?」

 と、問いかけてきた為、私は笑顔で答えてやったわ!


「侯爵様、合コンとは、結婚希望や恋人希望の男女が、同じ人数だけ集まり、互いに良い相手はいないかと探りを入れ合う出会いの場でもあるのです!」


 侯爵はなにしろ『真実の愛を見つけた!』と言って義妹を溺愛しているような野郎なのだ。ここはきちんと説明をしておいた方が良いだろう。


「アンネと私もそれなりに良い年なので、私が離婚をした暁には、二人で合コンパーティーを開催する予定でいるのです!」

「は?」

「この年齢で、私なんぞはバツイチ、離婚歴がありとなって、絶対に貴族相手で次の相手を見つけることは出来ません」

「えええ?」

「だからこその、合コン!相手は平民限定です!」


 侯爵は驚愕に目を見開いていたけれど、貴族の令嬢が平民限定とか絶対に言い出さないもんね!そんな令嬢なんてこの世の中に居るのか!みたいな表情、ありがとうございま〜す!


「そんな訳で、我が国では一年間の白い結婚を認められたら離婚が可能となりますので、一年後には離婚。厄年も終わって新しくて素敵な出会いが待っていることでしょう!」


「き・・きみは何を言っているんだ・・」


 出たーー!自分は好きな相手が居るというのに、結婚相手が自分以外の人間と幸せになろうとは考えてもいないパターン!なんなら、俺のことが好きで好きで仕方がないんだろう?と勘違いに勘違いを重ねているパターン!


「侯爵様は私を愛する暇はないと言っていたではないですか!(そもそも私は貴方なんて好きじゃありませんよ!)」


 強い目力で私が訴えていると、

「お嬢様〜、準備が出来ました〜」

 と、アンネがちょうど良いタイミングで声をかけてきたのだった。


 アンネが用意したのは、ガーゼで出来た袋と袋を縛る用の紐。それから、茶畑責任者のマウロさんに分けてもらったロークオリティの茶葉となる。


 シガールームは男性の方々がタバコを楽しむための部屋ということになるんだけど、今居るシガールームにはカクテルを作るバーセットも用意されているし、小さなテーブルも複数、用意されている。もちろんお湯も沸かすことが出来るように設備が整っているため、新しい紅茶を披露するのにはちょうど良いと言えるだろう。


「あまり知られていないのですが、紅茶は標高4000フィート(1300メートル)以上の高所で作られるものが『ハイグラウンティー』標高4000〜2000フィート(1300〜670メートル)に作られるのが『ミディアムグラウンティー』標高2000フィート(670メートル)以下で作られるのが『ローグロウンティー』と呼びます」


 シガールームには侯爵様の他に秘書のウルリックも居て、興味津々といった様子で話を聞いていた。


「イレネウ島にある標高1800メートルのイルヴォ山の山肌に添うようにして茶畑を作ったのは正解ですが、山の中腹から広がる形で茶を栽培しているので、結果、『ミディアムグラウンティー』と『ローグロウンティー』しか作れない状態となっています」


 海食崖、断崖絶壁に囲まれたイレネウ島のほぼ中央に標高の高いイルヴォ山がある、この山で葡萄を今までは栽培していた訳だけれど、今は茶の木の栽培を行っているんだよね。


「高位の貴族たちが愛する紅茶は『ハイグロウンティー』になるので、今後、より標高が高い部分の山肌を切り拓いて茶畑を作るべきだとは思いますが、戦争を阻止しなければならないとなると、ハイグロウンティーが出来上がるまで待っている時間はありません!」


「だったらどうすれば良いのだ?」

 焦燥感を露わにする侯爵を見つめながら私は訴えましたとも。


「ハイクオリティがないのなら、ロークオリティを飲めば良いじゃない!」


 パンがないのならお菓子を食べれば良いじゃない!みたいなノリで宣言した訳だけれど、予想に反して大スベリしたのは間違いなく、シガールームの中はシーンと静まり返ることになったのだった。



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