戯言を語る青年と自殺願望を持つ少女

カイト

第1話万引き少女

俺の名前は大裏真神だいうらまがみ、車椅子を漕いで家の近くにあるスーパーにお昼ご飯を買いに行くところだ。


「いらっしゃいませ!」


スーパーの中に入ると店員が明るく挨拶をしてくる。


雑誌コーナーの小さめの窓から見えるスーパーの真ん前に立っているビルはそこの部分だけがタイムスリップしてきたんじゃないかと思うぐらい古くもう誰も使っていない。


その建物はかなり前に建てられた建物らしく、使われなくなってからかなりの時が流れている。


その建物を取り壊すお金もなく今はすっかり見た目だけで言えば廃墟ビルと化している。


車椅子を漕いで色々なお弁当やおにぎりが並んでいる列を見渡す。


進みながら商品を見て一番奥の方で一旦車椅子を漕いでいた手を止める。


その場所に並べられている商品をある程度見て少ししたの方にあるサンドイッチを手に取る。


「まあ別にこれでいいか」


俺はあともう一つドレッシングがついたサラダを手に取り車椅子の向きを変えレジに向かおうとしたその時!


本来であればこのままスーパーの中を一周するちょっと手前ぐらいで泊まりレジのところにいる女の人にお金を払い、そのまま出て行けばいいだけの話なのだが。


俺は真ん中の車椅子で通るには少し狭いお菓子コーナーを通る。



何でそんな場所をわざわざ通るのかと言われれば見てしまったからだ、女子高生が万引きをしようとしているところを。


手を伸ばしかけたところで一度あたりを見渡し誰も見ていないことを確認する。


女の子からの司会からはおそらくギリギリ見えていないところにいるので俺に見られているとは思っていないはずだ。


このままもし本当に女の子がこのスーパーの商品を万引きすればおそらく店員の誰かにバレ警察に電話をされ怒られるというのが持ちだろう。


今目の前で万引きをしようとしているにもかかわらず俺は冷静にそんなことを考える。


「…」


もう一度商品に手が伸びたところで俺が掴む。


掴んだ瞬間手がわずかに震えたが顔は特に青ざめることもなく冷静な様子でゆっくりと俺の方に顔を向ける。


それから眉1つ動かさず何もなかったかのように無言で元の位置に戻す。


その少女の瞳からは黒い闇のようなものを感じる。


髪型は黒髪のショート。


上の制服は黒のブレザーに中に来ているワイシャツも黒、下は少し短めの黒に近いチェック柄のスカート。


全体的に黒でまとまったその制服が少女から感じる独特な雰囲気と相まって喪服を連想させる。


あるいは釜を持った【死神】のよう。


かなり顔立ちも整っていて独特な雰囲気を醸し出しているその目を見ていると重たい何かを背負っているような言語化できない何かを感じる。


俺は無言で女の子が手に取ろうとしていた焼きプリンを2つ手に取りサンドイッチとサラダと一緒に会計してもらう。


「全部で4点の品物で料金は780円になります」


「これでいいですか?」


言いながらお金を手渡す。


「はいちょうどお預かりいたします」


「ちょっと俺の家についてきてくれませんか?」


会計後俺が今手に持っている焼きプリンを万引きしようとしていた女の子にそう声をかける。


その俺の言葉には何も返さずただ無言で俺の後ろに立つ。


無言で後ろに立っていることから考えるとついていくということらしい。


2人でそのスーパーを出る。



「何で焼きプリンを2つ買ったりしたの?」


ただひたすらに何も喋らず自分の家に向かって車椅子を漕いでいると俺に今まで一言もしゃべらなかった少女がそう声をかけてくる。


「大丈夫ですよ1人で2人分食べたりはしませんから」


「いや別にそういう心配はしてないんだけど」


「そうじゃなくて私が聞きたいのは何であなたが私の分まで料金を払ってくれたのかってこと」


少女は横に顔を向けたまま感情がこもっていないような口調で言葉を返してくる。


「それはまあ何と言うかどうしてあなたがあそこで万引きをしようとしていたのか気功と思ったからですかね?」


曖昧な口調で答える。


正直自分でもなぜあの時あんな行動を起こしたのか理解できていない。


「あなたがそれを知ってどうするの?」


横目で俺を捕らえ若干の苛立ちを含んだ口調で尋ねてくる。


「それとも何万引きはダメだとかそんなわかりきった説教をするつもり」


「出会ったばかりの女子高生にそんな説教じみたことを言うつもりはありませんよ」


「じゃあ、あなたは一体何が目的なの?」


「まさか自分の家に女子高生を監禁するつもり最低ね!」


自分の肩を両手で抱くようにしながら一歩後ろに距離を取りゴミを見るような目で容赦のない言葉をぶつけてくる。


「違いますよそんな犯罪じみた趣味は持ち合わせていません」


「しいて言うなら戯言ざれことに付き合って欲しいんですよ」


「戯言?」


俺が言っている言葉の意味がうまく理解できていないらしい。


だがわざわざ訂正する必要もないかと思いそのままにしておく。


「着きました」


「随分と大きな家みたいだけどここには1人で住んでるの?」


「まぁそんなところです半分同居人の人が1人いますが」


「同居人?」


言葉の意味が分からず少し疑問に思っているようだったがその言葉には何も答えずとりあえず部屋の中に入る。



「なんかこの家生活感がないわね」


小さな声で呟くように言う。


「家の中でほとんど車椅子で動いてるので余計なものをあまり置かないようにしてるんですよ」


「後あまり物が置いてあると自動掃除機に掃除をしてもらう時にわざわざどかすのが面倒なので」


「家具が購入される前のお店の中に置いてあるただの飾り物みたいね」


「この辺に置いてある椅子とかはお客さんが来た時とかにフローリングの部分に座ってもらうってわけにもいかないのでお客さんように買っておいただけなんです」


さすがにテーブルやテレビに関しては日頃から結構使っているので生活感が全くないということはないと思うが。


「それで私は無気力な目をしたあなたの戯言の何に付き合えばいいのかしら」


俺の目の前に置いてある椅子に座りながら尋ねる。


「話にただ付き合ってくれるだけでいいんです」


「話を始める前に自己紹介をしておきましょうか」

 

「俺の名前は大裏真神です」


「私の名前は璃無月りむげつ


「早速ですがなぜあなたはあの時スーパーで万引きをしようと思ったんですか?」


「さっきも似たようなことを聞いたかもしれないけどあなたがその理由を知ったところで何をするつもりなの?」


「いいえ特に別に何もしませんただ少し興味があるだけです」


諦めがついたのか一息ついた後こう語り始めた。


「私はその盗む予定だった焼きプリンをあのスーパーの真ん前にあるもうすっかり廃墟ビルと化した建物の中で食べた後その屋上から飛び降りて自殺をするつもりだった」


「まさか私が自殺をしようとしていることを感じ取ったからわざわざ自分の家まで連れてきて説得しようとしたの?」


「そんなわけないじゃないですか確かにただならない何かを感じましたけど、そこまでさすがに感じ取れはしませんでしたよ」


「それにそういう自殺の不思議な雰囲気を感じ取れたとしてもその人の自殺を止める権利は俺にはないですから」


「それは自分が仕方がなかったんだっていう時のための言い訳?」


「違いますよ確かにこの社会では自殺はアクトされてますけど」


「俺個人としての意見を言わせてもらえるのであれば自殺は悪だとは思いません」


「個人の考えとしては自殺は誰も止めることができないと思ってます」


「もし本当にその自殺を止められる権利を持っている人がいるとすれば…」


「全く同じ経験をした人間その人1人だけだと俺は思ってます」


「だけど現実は違う」


「似たような経験をした人はいるかもしれませんけど、寸分の狂いもなく全く同じ経験をした人はおそらくこの世界に1人もいない」


「それにその人の命の価値はその人自身が決めることであって他の部外者が口出しをしていいことじゃないと思いますしね」


「それじゃあ、あなたは自殺をすることに対して皇帝てきな立場だってこと?」


「いいえ俺は皇帝も否定もするつもりはありません」


「ただ俺は人に迷惑をかけなければ基本的に何をしてもいいと考えているだけです」

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