デート

ㅤ灯彩くんとデートすることになった。一体全体どうしてこんなことになったのだろう。否、関係性を深めたい私からすれば願ったり叶ったりなのだが、急展開すぎる気もする。デートというのは私が勝手に言っているわけではない。


『先輩、デートしましょう!』


ㅤというLINEが来たのだ。灯彩くんから。出会ってから一週間、何度か顔を合わせることもあったが、灯彩くんは思っていた以上に、なんというか、明るい。もう少し影のある子のような印象があったので、驚かされる。


『デートって……どこに行きたいの?』

『観にいきたい映画があって』


ㅤ一人で行きづらい飲食店などに着いてきてほしいという話かとも考えたが、違うらしい。まあ、要は遊びに行きましょうということだろう。『いいよ』と答えれば、歓喜に打ち震えるクマのスタンプが帰ってきた。紡がよく送ってくるのと同じものだ。流行っているのだろうか。



ㅤそして、当日。

ㅤ夏休み期間に入ったからか、駅前は人通りが多い。改札を出て電話をかける。


「駅着いたよ。もういる?」

「いますいます! 本屋のとこです」


ㅤ熱気に押し潰されそうになりながら、人並みを掻い潜り、本屋を目指す。早く涼しい室内に入りたい。目的の本屋が見え、その前に立っている人影が見える。手を振ろうとして、人違いであることに気が付いた。危ない。恥ずかしいことをするところだった。本屋の前に立っていたのは、可愛らしい格好をした女の子だった。背格好が灯彩くんと似ているので見間違えたのだ。スマートフォンを見ていた少女が顔を上げる。目が合った。


「先輩、おはようございます!」

「え……」


ㅤ少女の口から発せられたのは、聞き慣れた灯彩くんの声だった。紫陽花色の瞳を輝かせて、真っ白なシフォンスカートをふわりと揺らしながら駆け寄ってくる。


「えと、おは、よう……?」

「今日は来てくれてありがとうございます!」

「や、こちらこそ、誘ってくれてありがとう」


ㅤ状況を飲み込めない私に気付いたらしく、灯彩くんは自分の格好を見下ろしてから、「驚きましたよね」と言った。


「まあ、ちょっと。でも、似合ってるね」

「本当ですか? 嬉しいです!」


ㅤ本当に似合っている。自分でアレンジしたのか、前髪が三つ編みになっているのも可愛らしい。紡と一緒だ。


「聞かないんですね」

「ん?」

「どうして学校で男子の制服を着てるのか」

「ん???」


ㅤ何やら噛み合わないような気がする。

ㅤそして思い出した! 暫く使っていないゲーム内知識が湧き出てくるのを感じる。唯一恋愛ルートが無い、隠しキャラである灯彩くんは、女の子だったのだ。だから、恋愛ルートが無い。親友キャラである紡と同じく。病気の兄が入院して、その代わりに入学して……と、この辺りは実際にゲームをプレイしてみてほしい。本当に面白いから。


「どんな格好をしていても、君は君でしょ? それで、何を観たいの?」

「これです!」


ㅤはにかんだ灯彩の鞄から、じゃじゃーん! と取り出されたフライヤーは、今話題のホラー映画のものだった。


「わぁ……」

「あれ、先輩、ホラー苦手ですか?」

「特別苦手ではないけど、それってめちゃくちゃ怖いって話題のやつだよね?」

「気になりますよね!」


ㅤキラキラと目を輝かせる灯彩を無下にすることもできず、二人で映画館に向かった。



ㅤ普通に楽しんでしまった。怖い怖いと言われているので身構えてしまったが、テンポのいいストーリーに、仕込まれた謎。最後の殺人鬼の撃退シーンまで目が離せなかった。確かにホラーシーンは完成度が高く背筋が震えたが、途中に挟まれる主人公とヒロインのユーモラスな会話が笑いを誘い、心の緊張が解れるシーンもあった。緩急の付け方があまりにも上手い、そんな映画だった。隣でパンフレットを開いていた灯彩も、「面白かったですね! 期待以上でした!」とはしゃいでいる。


「続編が出たらまた一緒に来ましょうね!」


ㅤもう続編のことを考えているのか。確かに続きそうな終わり方ではあったけれど。気が早いなと笑いながら頷く。ご飯でも食べて帰ろうかと思いながら視線を向けた先、映画館の入口には、紡が居た。


ㅤじっとこちらを見ている紡と、目が合う。

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