ぼっちヒーラー、ゲームの世界に転生する 〜ただのコミュ障なんだけど、どうしてこうなった?〜

@271act

第1話

俺は人と話すことが苦手だ。ネットでなら話せるという人は多いと思うが、俺はそれすらできない真性のぼっちだった。そんな俺だが、唯一ハマっているものがある。


それはアヴァロンオンラインというゲームだ。大人気MMORPGでやり込み要素が多く、やっていて飽きることがない。MMORPGなだけあって協力プレイがメインだが、あいにく俺のコミュ力ではパーティを組んでゲーム攻略なんて無理だ。


なので俺はジョブ選択時にヒーラーを選んだ。ヒーラーならばHPが減っても回復して対処できるし、バフ・デバフが使えるのも大きい。パーティ推奨のボスキャラが相手でも、デバフで火力を抑えつつ回復し、隙を見て攻撃すれば時間はかかるけど倒せる。


こと継戦能力ならば最強といえるヒーラーは、ソロプレイする俺にとっては一番適したジョブだった。そんな俺ではあるが、人と話さず休み時間でゲームをしていることもあり、周囲からは根暗なオタク扱いされている。


実際その通りだから表立って否定できないし、そもそも発言するだけの度胸がない。そして今日も、俺は自転車で大学へと向かっていた。家から近く、自転車で行ける距離にあるのは幸いだと思う。俺は自転車用信号が赤なのを確認して止まると、道路の真ん中に子猫がいることに気がついた。そしてその子猫に迫り来る軽自動車を視認する。


(気づいてないのか?不味い!)


俺は咄嗟に自転車から飛び降りて子猫を抱き上げる。それと同時に身体に車体が触れた。


「間に合えっ!」


子猫を歩道に放り投げると同時に、全身の骨が砕かれて宙に放り出される。


(あっ、これ死んだかも)


時間がやけに遅く感じる。いくら猫様を助けるためとはいえ無茶しすぎたかもしれない。地面が眼前に迫ると、数回バウンドして止まる。


「はっ、ぁ……」


身体が重い。熱い、痛い、苦しい……まじでやばいこれ。そうして意識が途切れる寸前、どこからか電子音声が聞こえてくる。


『創造主はあなたの行動を気に入りました。創造主はあなたを輪廻させることに決定しました。創造主は世界の創造を開始しました。生成中……完了しました。創造主はあなたの構成データを『アヴァロンオンライン』の世界へ転送しました……ガガガ』


………

……


(ん、なんだ……光?)


ぼんやりとした光が視界を包み、俺は意識を取り戻した。


「ここは……?」


目を開けると、青い空が目に入ってくる。混乱しながらも体を起こすと、自分が草原にいることに気づいた。草が一面に広がっていて、空からは太陽が暖かな光を注いでいる。


(俺は死んだはずじゃ……いや、もしかしたら病院に運ばれて生きていて、それで夢の中とか?)


ゆっくりと立ち上がると、その場所は見慣れた光景であることがわかる。


「ここは第一層、リーファ草原……」


そうだ、アヴァロンオンラインの世界はダンジョンのようになっている。第0層は広く、安全で複数の国・街などがあり人が住む階層。そして第1層は弱い魔物が出るリーファ草原となっている。


「ということは、ここはゲームの世界……なのか?」


(いくらアヴァロンオンラインが好きとはいえ、変な夢を見るもんだな)


そう思いながら俺はメニューを開こうとしたが、ボタンがないことに気づく。


「そうか、まぁ普通そうだよな。どうしたらいいんだか……」


俺は少し悩んだ後、メニューよ来いと念じた。すると頭の中にメニュー画面が出てくる。


「うわ、これで開けるのか……謎だな」


俺はメニュー画面からステータスを選択して開くことにした。するとすぐに自身の情報が脳内に浮かび上がってくる。


ーーーーーー


名前:ぼっちヒーラー

種族:人

年齢:19

レベル:99

体力:12300(0になると死ぬ)

防御:11200(物理攻撃への耐性)

魔法防御:13200(魔法攻撃への耐性)

俊敏:6500(攻撃速度と移動速度に影響)

魔力:7200(技能発動に必要なエネルギー)

知力:13400(魔法攻撃力、回復効果に影響)

筋力:3200(物理攻撃力に影響)

メイン職:大聖者

サブ職:陰陽師

サブ職:神威巫者

EX技能:《大天使の加護》《陰陽結界》《神域繋鎖 》

上位技能:《リジェネレーション》《ホーリーツインレーザー》《クリスタルウォール》《シャボンヒール》

通常技能:《ホーリーレイ》《リンクヒール》《ヒールボール》《ホーリーレイン》

パッシブ:《大聖者の慈悲》《治癒士の心構え》


※サブ職では通常技能、上位技能、EX技能のうちから一つだけ技能を引き継ぐことができる。

ーーーーーー


(いつもの俺のステータスだな)


自分のステータスをぼんやりと眺めていると、背中に針を突き立てられたような感覚がする。


『1のダメージを受けました。12300→12299』


アナウンスのようなものが流れ頭の中に体力の減りが浮かび上がんでくる。一体何のダメージだ?

そう思って振り返ると目の前には棍棒を持ったゴブリンがいた。奴の名前はグリーンゴブリン、チュートリアルで素手でも倒せる雑魚オブ雑魚だ。


「ぐぎゃ、ぐぎゃっ!」棍棒が振り下ろされ、またチクッと痛みが走る。


『1のダメージを受けました。12300→12298』


「おお、おおっ!」


俺は驚きのあまり一歩下がり、グリーンゴブリンを見つめる。ゲームの中で見るのと実際に見るのとじゃ全然違うな……まぁサクッと倒すか。スキル発動ボタンがないから……こうか?


(ホーリーレイ)


俺は手を前に出してメニューの時と同じように念じる。すると手の先から光のレーザーが発射しグリーンゴブリンの腹に風穴を開けた。


「ぐぎゃあっ!?」


グリーンゴブリンは奇声を発した後、緑色の体液を流して動かなくなる。


「くっさ、グッロ!」


俺はスキルを発動できたことに感動するが、あまりのリアルさによってそれが台無しにされる。咄嗟に鼻を覆うと急いでその場から離れた。


(おいおい、そこまでリアルにしなくていいんだけど……!ゲームの中ならドロップ品が落ちて終了なのに)


そこで俺はふとあることを思い出す。


(待てよ、確か意識が途切れる寸前に声みたいなの聞こえてきたよな。俺をアヴァロンオンラインの世界に転送するだとか何とか……もしかしてこれって夢じゃない?となると、俺は本当にアヴァロンオンラインの世界に転生してしまったのかもしれないのか?)


「まぁ何にせよ、それが本当なら嬉しい限りだな。どうせ未練なんてない。現実なんかよりずっといいじゃんか」


そう独りごちる俺は、久しぶりの解放感に気持ちが高ぶっているのを感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る