歩行器生活②

 .





 数分後……。


「さーくらちゃん」

「はぁい」

「さくらちゃん。あれだよ」


 医師は看護師さんが持っているものを指差した。

 それは……。


「………えっ! “歩行器”……?」

「うん、そう。さくらちゃん、赤ちゃんの時に使ったでしょ?」


 まぁ、確かに赤ちゃんの時に使ってたかもしれないけど……。

 医師、わたしに赤ちゃんの時の記憶はありません。

 赤ちゃんの時の記憶がある人って、ごく一部あるだよね?


「医師。これからわたし、歩行器で生活するの?」

「そうだよ。この台の上に体重をかけて、両手で身体を支えながらゆっくり歩くんだ。車椅子より大変だと思うけど、頑張ってね」

「……はぁい」


 そして、わたしは車椅子を看護師さんに返し、その後すぐに歩行器を使うことになった。

 看護師さんに後ろから身体を支えて手伝ってもらい、歩行器に両手を置いた。


「じゃあ、さくらちゃん。ちょっと私、さくらちゃんの身体を支えている手を3秒数えてから離すよ?」

「はい」

「1……2……3……はいっ」


 看護師さんは言った通りに、3秒数えてからわたしの身体を支えている手をそっと離した。

 そしたら……。


「……っ!?」


 グラッ

 ドテッ


「さくらちゃんっ!!」

「………!!!?」


 看護師さんがわたしの身体から手を離したと同時に、わたしは歩行器と一緒に床に倒れた。


「大丈夫っ!?」


 看護師さんがすぐにわたしに駆け寄り、わたしの身体を起こしてくれた。


「……まだ、さくらちゃんには歩行器は早かったかな」

「医師、両足動かない……。両足動かせない……。歩行器に両足がついていけない……」

「さくらちゃん。君は今日、初めて歩行器を使ったんだ。最初から全て、上手く出来る人間なんていないんだよ……?」

「……イヤだ。ヤダ、よ……。こんなのイヤだぁっ!!」


 わたしは自分の置かれた状況を受け入れられなくて、パニックになってしまう。


「さくらちゃんっ。落ち着いてっ!」

「さくらちゃん。辛いのは分かるよ……。でも、これが君の“現実”なんだ……」

「……医師?

こんな調子で、わたし……リハビリ出来るの……?

本当に自分の足で歩くことが出来るの……?」 

「さくらちゃんの“歩きたい”という気持ちが強ければ、必ず自分の足で歩けるよ」

「………」





 ……歩きたいよ。

 わたし、“歩きたい”って強く思ってるよ。

 でも、身体が心についていけないんだ……。

 このままでわたし、歩行器生活を始めて本当に大丈夫なの……?


.

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