悪魔祓いのメソッド
俺は車を走らせ、郊外に向かう。
まずは先月行った配管工の家だ。
借金を踏み倒すために金貸しを殺そうと悪魔を呼んだカス。
大馬鹿のテオは奴の手を取り、貧しくていつか神が救ってくれるとかほざいて、金まで貸した。カスは涙を流していた。
傾きかけのアパートの前で停車し、車を降りる。後部座席の悪魔が手を振ったので、俺は中指を立てた。
俺は二〇三号室のドアを蹴りまくる。
「いるのはわかってんだよ! 借金取りにお前の住所知らせてやろうか!」
勢いよくドアが開いて俺は鼻をぶつけそうになった。配管工は景気の悪い面を覗かせた。
「神父様、何事ですか。悪魔祓いは済んだはずじゃ……」
俺は男の胸ぐらを掴み、洗っていなさそうなシャツの襟を絞り上げる。
「そうだ! お前が呼んだ悪魔を俺たちが祓ってやったよな? なのに、またやりやがったのか!?」
確証はないが、こういう気弱な奴は締めつければ何でも吐く。悪魔祓いのメソッドは借金取りと同じだ。
「もう心を入れ替えてお袋のために働いています!」
「何がお袋だ! 親不孝者の癖にこんなときだけ泣き落としに使いやがって! お前の骨、速達で実家に送りつてやろうか!」
「本当に知りませんよ!」
「俺と一緒にいたテオって馬鹿野郎がいただろ! お前に金まで貸してやった大馬鹿が!また踏み倒そうとしたて悪魔を呼んだんじゃねえか!」
「何の話ですか!」
近所の野次馬どもが集まり始めた。俺はシャツを離して、男を汚い部屋の奥へ放り投げる。
扉を閉め、噎せ返る男の足元に屈む。
配管工は涙目で言った。
「あの神父様に何かあったんですか……」
「てめえに言う義理はねえよ」
「でも、おれはあの方に救ってもらったんです。彼は本当に天使のようで、おれなんかにも優しく……」
俺と真逆だと言外の意図を読み取って、男をどついた。だが、どうやら本当に無実らしい。
「邪魔したな」
傾いたドアを蹴り開けて、アパートを後にし、俺は再び車に乗り込んだ。
テオが間抜け面で天井を見上げている。金色の瞳が乾いて蚊が止まっていたので、蚊を殺してから目蓋を閉じさせてやった。
悪魔の生贄にするなら自分にとって大切な人間じゃないと駄目だ。親兄弟のような関係性か、赤の他人でも本当に愛情を持っているか。
それは、別の人間を身代わりに生贄を助ける取引をするときも同じ条件だ。
テオはあんなカスにも愛を与える馬鹿だから、条件を満たしていると言えなくもない。だが、奴にテオを犠牲にしてまで助けたい人間がいると思えない。
じゃあ、他の連中は?
子が取り憑かれた親、妻が連れて行かれた夫。あり得る話だ。
俺の車は悪魔を乗せてまた走り出した。空はもう暗い。
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