第39話 魔女、故郷の味を味わう
ぐぅーーと大きな音が部屋に響き渡った。申し訳ありません。これは私のお腹の音です。アールヴが何やってるのこの人みたいな視線を送ってくる。だって仕方ないじゃない、部屋には懐かしくて美味しそうなにおいが充満しているのだから。
「あはははは、もう少しだけ待ってくださいね、すぐ出来ますから」
金髪に碧眼、あとは白馬にでも乗っていればどこからどう見ても、理想的な王子様な青年が、キッチンに立ちエプロンを着けて料理をしている。
「あ、はい、すみません」
「そんな畏まらないでください、よし出来たそれじゃあ運んでもらえますか?」
「かしこまりました、ケンヤ様」
三人のメイドさんが食事を運んできてテーブルに並べた。その後は「失礼します」と頭を下げて部屋を出ていった。メイドさんの代わりに私とアールヴの前には、先程料理を作っていたケンヤと呼ばれた青年が席につく。
「さてと、話は食事を先にしてからにしましょうか、エリーさんが色々と限界みたいですから。冷めても美味しい自信はありますが暖かいほうが美味しいですからね」
「いや、まあ、その、お言葉に甘えさせてもらいます」
「気にしないでください、あなたとは同郷として仲良くしたいですからね。それでは、それぞれの神に、いえ今回はこちらの方が良いですね」
ケンヤはこの世界では見ることのない独特の動作をする。私もそれに合わせる形で手を合わせた。アールヴだけは祈るように手を組んでいる。
「「いただきます」」
用意されていた、こちらもこの世界では私以外に使っている人を見たことがないお箸を手に持って食事を始める。そして肝心の目の前に広がる食事なんだけどその内容は、白米にお味噌汁、そして天ぷらだ。から揚げが作れるのだから天ぷらも作れるんじゃないの? と言われそうだけど、昔試したところ油の種類が天ぷらには向かなかったようで断念したんだよね。
それはさておきまずは白米を口に入れて噛みしめる。噛みしめる度に懐かしいあの甘味あまみが口の中に広がる。続いてお味噌汁を口に含む。あーなんだか体に染み渡るようで美味しい。白味噌で作られていて、具材は人参に大根と薬味ネギが入っている。続いて野菜の天ぷらを何もつけずに食べる。サクサクしていて美味しい。続けてかぼちゃの天ぷらに塩を少しつけて食べるこちらもホクホクしていておいしい。最後は天つゆにつけて食べる……。
「醤油が使われている?」
「あっ分かりますか、なかなか大豆の代わりになる物が見つからなかったので、お味噌も醤油も完成するまで時間がかかったんですよね」
「あなたが神か!」
とりあえず拝んでおく。
「あははは、神は言いすぎですよ、おかわりもありますからいっぱい食べてください」
さっそく白米を食べきったお茶碗を差し出すと苦笑しながら受け取って白米をよそって渡してくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
3人とも特に会話らしい会話をすることなく食事を済ませる。はーおいしかった白米にお味噌汁なんて、300年ぶりすぎて泣きそうになっちゃったよ。膨らんだお腹を撫でながらお茶の用意をしているケンヤに目を向けながら、どうしてこうなったのかを思い浮かべた。
◆
結晶の解析がすんだ翌日、さっそくギルドに向うことにして宿を出た所で、宿の前に見るからに高級な馬車が止まっていて、中からアールヴとメイドさんが降りてきた。
「エリーさんおはようございます、ちょうどいい所に、申し訳ありませんが少しお時間を頂きたいのですが」
「アールヴもおはよう、今からアールヴの所に行こうと思っていた所だから良いけど、そちらのメイドさん関係ってことでいいのかな?」
「そうなります」
そこでメイドさんが一歩前に出てきて頭を下げてくる。
「はじめまして、主よりあなた様を招待するようにとのことでお迎えに上がりました、申し訳ございませんがご同行願えないでしょうか」
アールヴに目線を向けると頷いたので問題はないのかな。
「分かりました、そのお誘いお受けします。えっと格好はこのままで良いのかな? なんならそれっぽいのに着替えてくるけど」
「いえそのままで結構です、主様の個人的なご招待とのことですので」
「そう? それじゃあ案内をお願いするよ」
「かしこまりました、それではこちらへ」
アールヴに続くように馬車に乗り込み、最後にメイドさんが乗り込むと馬車は進み出す。ちゃんとサスペンションが効いているのか殆ど揺れは感じない。
「それでアールヴ、どこに向かってるの?」
「エリーさん馬車を見て気が付かなかったのですか?」
「そう言われても貴族の紋章とか知らないし」
「我が主はケンヤ・ダーナ様です、今からご案内させていただく場所は主様の個人所有の屋敷となっております」
「そうなのですね、ありがとうございます」
さて、ケンヤといえばあの元領主のご老人のことだよね、そういえばこのメイドさんは火龍の時にいたメイドさんの一人のようだ。それにしてもアールヴはともかくとして私になんの用事なんだろうね。
と言う感じでドナドナされてたどり着いた屋敷に案内された。案内された場所はなんというかすごく懐かしい間取りの屋敷で、ダイニングにキッチンとリビングに和室のある日本風な部屋に案内された。
そしてケンヤと名乗る青年が料理をしていて、挨拶をする前にダイニングテーブルに座らされて待つことになったわけですよ。その結果、懐かしくもいい匂いに私のお腹が大合唱を始めたというわけです。
◆
「お茶をどうぞ」
「ありがとう」
置かれた茶碗の中身は緑茶のようだ。口に含むとあの独特の甘みが口に広がり、こちらも懐かしい味がした。
「はぁー美味しい、白米にお味噌汁そして天ぷらにお醤油、ケンヤさんはやっぱり転生者ってことでいいのかな」
「ええそうなりますね、あとケンヤで結構ですよエリーさん」
「そう、なら私のこともエリーでいいわよ、それでアールヴはどこまで話したのかな?」
アールヴに目を向けると全力で首を振って「何も話していませんよ」と否定してくる。
「アールヴ殿は何も話していませんよ、私の方で調べました」
「そうなんだ、どの辺りまで知っているか分からないけど、私を呼んだ理由も教えてもらえるって事でいいのかな」
「あの、そのですね、私は席を外しましょうか」
アールヴが片手を上げてなんだか逃げたそうにしている。私とケンヤは一瞬でアイコンタクトを済ませる。
「別にいてもいいよ」
「一緒にお話を聞いていただいてもかまいませんよ」
「お二人とも私を巻き込んで、面倒事を押し付けようとしていませんか?」
「そんなこと全然全くこれっぽっちも考えてないよ」
「私の方もそういうつもりはありません」
「はぁ、分かりました、大人しくお茶でも頂いておきます」
結局話を聞こうが聞くまいが何か変わるってわけでもないんだろうけどね。
「さてそれではどこから話せばいいですかね」
「最初から?」
「そうですね、それも良いかも知れませんね」
少し考える素振りの後、ケンヤはそう言って私を見ながら頷いた。
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