第8話 魔女、理解者を拝む

 戦うって意味がわからないんですけど、とりあえずどうするべきか。この世界の常識とか全然わからない状態の今、何を言って良いのか言って悪いのか判断に迷う。暫く腕を組んでうんうん唸ってみるがいい案は思い浮かばない。まあ、駄目なら駄目で別の街に行けばいいか、と思い直して少し情報を集めてみることにした。


「えーっと、お二人は魔の森って知ってますか?」


「そりゃあ、ここを西に少し行けば魔の森だからな」


 意外とこの街から魔の森は近かったらしい。


「それじゃあ、魔の森に誰かがいるとか暮らしているって話は聞いたことありませんか?」


「それはおとぎ話の事か?」


「おとぎ話ですか? それってどんな話だったりします?」


「そりゃあ子供に聞かせる寝物語の事だろ、言うことを聞かない悪い子は魔の森から魔女が出てきて連れて行かれるぞってやつだ」


「へー、そんなのがあるんですね」


 私の反応に訝しげな反応を見せるお二人さん。

「そのおとぎ話ですけど、あながち間違ってはいないかもしれませんね、連れて行くっていうのは無いですけど」


 子供をさらっていくとかそんな面倒なこと師匠はしないからね。


「で結局お前は何が言いたいんだ?」


「そうですね、簡単に言いますと私はその魔女の弟子と言ったところでしょうか」


「まじょのでし? 弟子って言うのは師弟の弟子でいいのか?」


「そうですね、その弟子です」


 ガンダルフさんはアーシアさんを見るが、アーシアさんは無言で頷いている。それを見てガンダルフさんは頭をガシガシと掻いたあとため息をついている。


「なんとなくお前がどういう奴なのかはわかった、それでこの街に来た目的はなんだ」


「先程も言いましたけど修行の旅にでて、たどり着いた街がここだっただけです」


「そう、か」


 用意されていたお水を飲んで反応を待つ。


「あー、なんだ、事情はわかった」


「正直に言いますこの年まで魔の森から出たことがなくて、世間について無知なもので色々と教えてもらえると助かるのですが」


 ガンダルフさんは腕を組んで目をつむり何か考えるようにしていたけど、一つ頷いて私の目を見てくる。


「そういうことなら暫くここに泊まれば良い、聞きたいことがあれば教えてやる、宿泊代は朝夕の2食付きで銀貨1枚だ」


「えっと良いんですか? 自分で言うのもなんですけどかなり怪しいと思うんですけど」


「さっきのおとぎ話を知らない時点で普通じゃないのは分かる、どんなに貧しい寒村だろうがこの辺境で聞いたことがないやつは居ないはずだ、それに今の所嘘は言ってないようだからな」


「ガンダルフさんが良いなら助かるのでお願いします、世間知らずなもので色々教えてもらえると、すごく、すごく助かります」


 本当に心から助かった。祈る気持ちで両手を組んで二人を拝んでおく。


「何してんだ?」


「拝んでます」


 二人揃って微妙な表情を浮かべているが構うもんか。


「まあ、なんだ泊まるってことでいいんだな」


「はい、ガンダルフさんアーシアさんよろしくお願いします」


「大将でいい、さんとか付けるな」


「あっはい、大将」


 ポケットからとりあえず5日分の銀貨を5枚出してテーブルに置く。大将がアーシアさんにお金を渡して「部屋の用意を頼む」と言ってアーシアさんは頷いて階段を上がって行った。


「あとついでなので少々お願いがあるのですが」


「何だ言ってみろ」


「まとまったお金を作りたいので素材を買ってもらえる所とか教えてほしいです」


「ギルドは、だめだな、その素材ってのは魔の森のやつか?」


「まあそうですね、森から出た後に狩ったものはオークだけですけど?」


「オークはそのポシェットの中か、オークの肉なら俺が買い取る、他の部位は俺が売ってこよう、あと魔の森のは少し待て、信頼できるやつが来た時に話をする」


「ええ、私専用の収納ポシェットです、お肉は解体もしてもらえるなら半分お譲りしますよ、トリ肉もありますけどどうします?」


「解体だけで半分もらえるのなら助かるがそれで良いのか? 金がいるんだろ? トリ肉は状態によっては買い取ろう」


「助かります、トリ肉は流石に全部使い切るの大変だなーと思ってたんです」


 なんとなくピクリと片眉が動いたように見えた。


「ちなみになんの肉だ?」


「死使鳥ですけど」


「あーあれか、よく倒せたな」


「まあ、遠距離からずばっと」


「そうか……、普通はそうもいかんのだが、魔女の弟子を名乗るだけはあるという事か、それじゃあちょっと付いてこい」


 大将はついて来るように言って立ち上がると厨房の奥にある扉から外に出た。付いていくとそこには井戸があり日当たりのいい場所にはシーツや服が干されている、それとは反対側の日陰の端に解体台みたいなものがある。


「それじゃあ解体するからオークを出しておけ、そろそろ部屋の掃除も終わってるだろうし部屋の鍵を受け取って休むなり出かけるなり好きにすると良い」


「はーい、それではお願いしますね」


 私は収納ポシェットから、今日狩ったばかりの傷だらけのあのオークを台の上に取り出すと、大将が呆れたような声色で話しかけてくる。


「お前なこいつが何か知っているのか?」


「オークですよね、ちょっと傷だらけですけどお肉は新鮮だと思いますよ」


 癖なのかまた頭をガシガシとかきはじめる。


「とりあえずこいつは仕舞っておけ、近いうちにギルドに俺が持っていく、お前の功績にはならんが金は全部お前に渡す、そっちのほうが都合がいいだろ? ちなみに頭がついてないが頭もあるよな」


「ええ頭も一応ありますよ、それと別に功績とかはどうでも良いですけど、これなんなんです?」


 聞いては見たけど、ここまでの話で大体どういうオークだったのかはなんとなく察してはいる。


「シルバーランク推奨の特殊個体だ」


 ですよねー。

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