第12話 くつひも
『君と友達になりたい。』
ルシュターは結局最後までそれを
言えずに終わった。
今まで生きてきた世界もこれから進む世界も
何もかもが違うような気がして……
同じ国、同じ場所にいて、何故か何もかもが
合っていないような気がしたのだ。
この先ここを生きて出られるかも分からない
自分には、人の心配など余計だけれど
「これからも無事でいろよ。」
何か言えることといったら、精一杯が
それであった。
すると11567は、スルリと右の袖を少し捲って
見せた。
その右手首には何やら紐が巻き付いていた。
「?その紐はなに?」
「さあ………」
どうやら短めの靴紐のようだった。
「それは……靴紐?大事なものなのかい?」
驚いたようにルシュターは聞いた。
11567は首を傾げてから、首を横に振った。
本人もよく分かっていないようだった。
「イーダには言ったことあるのかい?」
「何を?」
「その…靴紐を大事にしていることを。」
「いいや、別に。なぜ?」
「何ていうか……凄く意外だったから、
君に大切な物があって、それを見せてくれる
なんて……」
11567は手首に巻かれた紐を見つめて
首を傾げながら言った。
「これが大切かどうか分からない。
ただ、貰ったから持っているだけだ。
要らなくなれば手放すだろう。」
その靴紐は随分古いものなのかとても汚かった。
それは随分長く持ち続けていることを意味した。
持っているということは、要らなくない
大切なものということなのに
自分でもよく分かってないのか、と
ルシュターは思ったが
それも11567らしいかと笑った。
「面白いかい?」
「何となくね。どうしてその紐を
見せてくれたんだい?」
「私には名前が無いからな…
精々手に紐を着けていた奴とでも
呼んでくれればいい。」
「『くつひも』か…………」
それから少しお互いに話をして二人は別れた。
空はとてもよく晴れていて
二人のことを包んでいた。
ずっと後になってルシュターがその日のことを
思い出した時に、彼はハッとした。
あれは彼女なりの名前…
名乗りであったのではないか。
ならば自分達はもしかしたら『友達』に
なれたのかもしれない…
そんなふとした期待を思い出してはそれを打ち消す
『だとしても、自分にできたかもしれないことなんてたかが知れてるだろう。』
それにしても
『くつひも』とはーー……
「いい名前だよ、全く。」
その時は思いもしなかったが、
人は毎日靴を履く。
靴を履き、靴紐を結ぶ時に
つい思い出してしまうのだ。
どれだけ経って、彼女のことを思い出しても
何か後悔しているということはない。
でも何となく気掛かりになる。
そんな時は
「きっとあいつは無事さ……!」
そう空に願い続けるのであった。
お し ま い
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