第5話 11599

ヴェガは施設が求めている人材の意味を

微妙に間違えて捉えていた。


彼は高い運動能力と俊敏性があったので

自分に足りないものを冷静に理解することが

できていれば、充分にトップの実力があったのだ。


力があり、言われた事をこなす。

だけでは足りないものがあった。


それは、なぜそれが求められているのか

それを効率的に行うための工夫などの

推察力であった。


それらは教えられて身に付くものではなく

本人の資質によるものがほとんどであった。


そういった「考えること」が必要だとは、それとなく含めて教えられているのだが、直感的に判断する者にとっては含めや匂わせ等は感付きにくいもので

あった。


その為彼の成績はどうしても4番手以下に落ち着いてしまい、それが彼をいつも苛々させていた。


「誰よりも言われたことを確実にこなしているのに何故いつもアイツらは俺より速くできるんだ」


真っ直ぐ走るだけだと必ず勝てるのに

障害物があると必ず負けてしまう。


球技などをしても、効果的な動きができるのは

いつも上位者である。


テストでも考察欄はいつも配点がもらえない。

理由を聞いても自分で考えるよう言われる。


「俺がアイツらより劣るなんて許せねえ」


ヴェガは禁じられているにも関わらず

誰彼構わず喧嘩を吹っかけるようになっていった

罰を受けたくないので、吹っかけられた者達は

上手くいなしたり、相手をしないよう避けては

いたが、次々と問題を起こしては懲罰を受ける

ことも増えていき、彼に従う者はやがて減っていった。



嘘呼び出しの件から11691・ルシュターは何かと

11567に対して接するようになっていた。


他の者に何故あんな不気味なやつに接するのか

尋ねられてもルシュターはうまく答えられなかった。


何となく気になるからと返答しておいたが、

彼は「何故彼女はあそこまで感情を削ぎ落として

生きているのか」という疑問と好奇心があった

ことを自分でもまだ自覚していなかったのだった。


ここにいる者達は少なからず歪んだ自尊心を持ち

自由の無いこの国で少しでも自分本意に生きられる

よう足掻いていた。


諦めてしまえば直ぐにでも最下層まで転げ落ちて

しまうこの世界で、どう足掻くのが正しいのか

分からないまま、目の前のことに取り組み

未来を絶望と考えないようにしていた。


その乾きやすい心を他者への嫉妬や怒りに変える者、少しでも潤いを求めて仲間を作る者などに

別れたが、11567のように孤独を求める者も

少なからずいた。


他者との触れ合いが苦手な者や、他人を見下して

いる場合が多いのだが、11567はそんな誰とも

違っているように見えた。


ルシュターが何を尋ねても11567は


「さあ……」


という以上の答えは出さなかった。


どうして他人と話さないのか

ここにいて何になりたいのか

自分は一体どんな人間で何を望んでいるのか

…………

ただある時11567は言った。


「それらの事に考える意味があるのか」と

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る