第3話 学校へ行くのよ
「行ってきま~す!」
「行ってくる」
「夕方には戻る」
「「「行ってらっしゃい!」」」
荷馬車の御者席にゴードン、アビー、コーディの順で横一列に並んで座ったままで、アビーはジュディ、ジョディ、ソニアに「行ってきます」と元気よく挨拶すると、ゴードンが馬に指示し、ゆっくりと荷馬車が走り出す。
「行ったね」
「行きましたね」
「アビーを学校まで送ってくれるのはいいけど、お父さん達はどこに?」
「ああ、コーディは仕事道具を取りに行くってさ」
「あら、ゴードンもよ。なんかね、アビーに作って欲しい物があるって言われて張り切っているみたいよ。もう仕事も引退したってのにね」
「うちもそう。鍛冶場も作るって言うのよ。どう思う? それにいつの間にか荷馬車に馬まで用意するなんて」
「どう思うって言われても……」
「まあ、手を動かしているうちは大丈夫だろうから、いいんだけどね」
「そうね。なら、私達も手を動かしますか」
「はい!」
三人を見送ったジュディ達は踵を返すと家に入る。
先日のアビーの学校に行きたいということが分かってから、帰って来たマークと一緒にアビーの学校について話し合った結果、アビーの意思を尊重し学校に行かせるということにはなった。
だが、学校と行っても五歳児に教えることはそれほどないし、登校も休日を除き隔日で通うこととなる。
また、本題とも言うべきジュディの寂しさ解消については、それぞれの両親もいるし今はそれほど寂しくはないとジュディ本人は治まっていたのが、それぞれの両親がそれではダメだと言い出した。
「マーク、あんたが頑張りなさい」
「そうじゃな。アビーがあれだけいい子に育ったんだ。次に産まれてくる子もきっといい子に違いない!」
「そうね、確かにもう三,四人もいれば、アビーの取り合いはなくなるからいいわね」
「そうだぞ、ジュディ。アビーは何故かゴードンの方ばかりに……」
「それは、あなたの顔付きのせいでしょ! いつも顰めっ面のコーディより、朗らかなゴードンさんの方が受けがいいに決まっているでしょ」
「……」
「お父さん、もしかして気付いてなかったの?」
「今までは避けられることがなかったからな」
「コーディ、あの乱暴な男の子達とアビーを一緒にしないで!」
「うっ……」
「お母さん、そんなに非道いの?」
「そうよ! 思い出したくもない!」
コーディはアビーがゴードンの方ばかりに行くのはたまたまだとばかり思っていたが、コーディから『顔が怖い』とハッキリとダメ出しされる。
コーーディはそれでも今まで怖いと言われたことはないと、言い返すがコーディの口からは『あの乱暴者』と自分達の男の子の孫を言う。
「だから、ジュディ、マーク。早く私達に孫を寄越すのよ!」
「お母さん!」
「ジョディ。落ち着きなさい!」
「……あ、ごめんなさい」
「マーク、責任重大だな」
「でも、三,四人欲しいのは本当よ。頑張ってね」
「無茶言うなよ……」
「ねえ……どうするの? 私はいいわよ」
「はぁ……」
ジュディの寂しい気持ちは治まったハズなのに、今度はアビーだけでは足りないとそれぞれの両親が暴走し『あと三,四人追加』と言い出したことで、マークに期待が集まり、それは無茶だと言うマークに対しジュディは両親の望みを受け入れたようで、マークは嘆息してしまう。
学校に着いたアビーは荷馬車から降りるとゴードン、コーディに挨拶する。
「じゃあ、行ってきます! お爺ちゃん達も気を付けてね!」
「ああ、ありがとうな」
「心配ないぞ。頑張ってな!」
「うん!」
アビーが学校に入るのを確認したゴードンはゆっくりと馬車を動かす。
「おい! ゴードン、まだいいじゃないか!」
「そうは言うが、コーディよ。早く用事を済ませないと今日中に帰るのは難しくなるぞ」
「何! それは急がないと! ほら、早く行くんだ!」
「……」
もう少しアビーの様子を見ていたかったコーディは荷馬車を動かしたゴードンに慌てるなと文句を言うが、このままゆっくりしていると日帰りすることは無理だと言えば、ゴードンを急かすコーディに対しジト目になってしまうゴードンだった。
「おはよう! メアリー、サンディ、ニーナ!」
「「「おはよう!」」」
教室に入るといつもの三人と朝の挨拶を交わし席に着く。
しばらく四人で楽しく話していると教師が教室に入ってくる。
「「「おはようございます!」」」
「はい、おはよう!」
日直の号令で皆が席を立ち、教師に挨拶し座る。
「アビーは、もう慣れたかな?」
「うん。メアリー達もいるし、楽しいよ」
「そう。それはよかったわ。じゃあ、今日は新しい字を教えるわね」
「「「は~い!」」」
教師が教室の前に掛けられた黒板に字を書いていく。
アビー達はそれの説明を聞き、教師の後に続いて、それを読み口に出す。
アビーは目の前で行われている授業と歩だった頃にテレビで見た授業の内容とは違う気がすると思っている。だが、歩だったころに見たのは『中学生日記』だったり『金八先生』なのだから、違うのは当たり前なのだが、当のアビーにその違いが分かるハズもない。
それでも、友達皆と学べるということにアビーは嬉しくて楽しくてしょうがないらしい。
『なんだか、魔法を初めて使えたときみたい!』
『ホント、随分うれしそうね』
『もう、ホントなら私達と遊んでいる時間なのに!』
『アビーが楽しいんだから、いいじゃないの』
『そうよ。少しくらい我慢しなさいよ』
『もう、ポポ達だって遊びたいクセに!』
『そりゃそうよ! だから、明日は思いっ切り甘えるの!』
『私も!』
『ずるい! 私も遊ぶ!』
明日はどんなことをしてアビーと遊ぼうかと思いながら、三人の精霊はアビーの授業が終わるまで教室の片隅でジッと待つ。
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