第20話 家族が増えるのよ

 日が暮れ、マークも家路に就くと途中で箱馬車とすれ違う。

「ん? この先には俺の家しかないけど、誰か訪ねて来たのか?」

 そんなことを思いつつ、家の前まで来ると見覚えのある男が何やら測量しているので、声を掛けてみる。

「カーペンさん? こんな所で何しているんです?」

「お! マークか。何って、家を建てる準備だよ」

「家? こんな奥地に? 誰がそんな酔狂なことを」

「ん? マークは知らないのか? ジュディはって呼んでいたぞ。って、もうこんな時間か。続きは明日だな。じゃあ、また明日な」

「あ、ああ、はい……」

 カーペンの荷馬車を見送った後に気付けば、、玄関横に荷物が山積みされている。

「まさかな……」

 マークの頭の中にはイヤな予感が広がるが、振り払うことは出来ない。

 玄関前の荷物とさっきのカーペンのと言っていたことから、少なくともジュディの母親が来ていることは明らかだ。

「考えてもしょうがないか。ただいま……」

 覚悟を決め、家の玄関を開けると、アビーを中心に朗らかな雰囲気が漂っていた。


「あ! お父さんだ。お帰りなさ~い!」

「あ、ああ。アビー、ただいま……は、いいんだけど?」

 足下に走り寄ってきたアビーを抱き上げると、ソファに座っている見覚えのある四人の顔が目に入る。

「親父、お袋、それにお義父さんにお義母さんまで……一体、どうしたんですか?」

 マークが素朴な疑問を投げ掛けると、アビーが「はい!」と手を挙げる。

「アビー、どうしたんだ?」

「うん。あのね、ドン爺達は、ここに住むの!」

「え? ちょっと待って! 住む? それにドン爺って誰?」

「それはワシじゃよ」

 マークの疑問にゴードンが手を挙げ、答える。

「親父! なんだよ、ドン爺って!」

「ああ、そのなんだ。コーディもアビーには同じじいちゃんだから、分かり易いようにドン爺と呼んでもらうことにしたんだよ。悪いか?」

「兄貴の子供にはじいちゃんとすら、呼ばせなかったクセに……」

「まあ、あの時はワシもまだ若かったからな」


「ドン爺って呼んじゃダメなの?」

 アビーがマークの物言いに不安を覚え、マークに抱かれたままの状態でマークに確認する。

「あ、アビーに怒っている訳じゃないからね。ドン爺って呼ぶのはいいよ」

「なら、俺はコー爺だな。アビー、俺はコー爺って呼んでくれ」

「コー爺?」

「うん。それでいい。ドン爺にコー爺だ。マークもそれでお願いしたい」

「いいんですか?」

「ああ、いいぞ。どっちもおとうさんじゃ紛らわしいからな」

 ドン爺にコー爺とそれぞれの愛称が分かったマークは、アビーを抱いたままで本題を確認する。

「それで、ここに住むって言うのは説明してもらえるのかな?」

「それは私から説明するわね」

「お義母さん」

 マークが一番聞きたかったことを説明してもらうようにお願いすると、ジュディの母親であるジョディが手を挙げると、ジュディがマークの隣に近寄りマークに対し謝る。

「マーク、ごめんね。でも、私も今日知ったのよ。それだけは知っておいてね」

「分かったよ。ジュディが俺に黙ってこんなことするとは考えられないもんな」

「で、話してもいいかしら?」

「あ、すみません。お願いします」

 ジョディが話すと言いながら、ジュディに話を遮られマークといちゃつき始めたのを見て、ジョディがマークに話してもいいかと確認するとマークも思い出したのか、ジョディに対し説明をお願いする。


「あのね、ジュディの娘が下の村の集まりに出たってのを聞いたのよ。あ、勘違いしないで欲しいんだけど、ずっと見張っていた訳じゃないのよ。あなた達が街を飛び出してからは村の知人に何かあったら知らせてくれるように頼んでいたのよ。ホントよ」

「お母さん、それはいいから。進めて」

「だから、本当にあなた達のことを見張っていた訳じゃないからね」

「いいから、続き!」

「もう、ジュディは相変わらずね。それでね、その中にジュディとマークが集まりに娘を連れて来てたって教えてくれたのよ。もう、その話を聞いてからは、ジュディの娘のこと。つまり、アビーのことをずっと、想像していたら、辛抱堪らなくなって出て来たの」

「出て来たの……って、家を建てることないじゃない! アビーを見たら、すぐに帰ればいいでしょ!」

 ジュディは自分の母親が短絡的に家を出て来たと聞いて、頭を抱える。

「ジュディ、落ち着きなさい。いい? あなたが街での暮らしを嫌がっていたように私もイヤになったのよ。ここは不潔な感じどころかイヤな臭いひとつしないでしょ。だから、老後は孫娘の側で暮らしたいって思ったのよ!」

「思ったのよ……って、お兄さんのところにも孫はいるでしょ? 近くにはお姉さんの子供だっているし」

「だって、全員男の子なのよ。もう、イヤなの! 虫とか蛙とか捕まえてきてわざわざ私の所まで見せにくるのよ。もう、イヤなのよ。その点、アビーは女の子でしょ。そんな乱暴な感じもしないしね」

「「……」」

 ジョディの言葉にジュディもマークも言葉が出ない。実はアビーはお昼まで山の中を掛け回っているんですと言ったら、ジョディがどんな反応をするのか怖くて言えなかった。

「お父さんはいいの?」

「俺か? 俺がジョディに文句を言えるとでも?」

「そうよね。こうなったお母さんを止められる人はいないわよね。ハァ~」


 マークはジョディ、コーディの話は納得出来たとばかりに頷くが、なら自分の親はどうなんだと水を向ける。


「ああ、ワシたちの方は、コーディに話を聞いて、ちょっと顔を見るだけのつもりだったんだよ。待ち合わせで馬車に乗っている荷物を見たときはもしかしてと思ったが、まさか家を建ててまで住むことになるとは考えてもなかったな」

「なら、どうして?」

「それはな「私が話します」……母さん」

「お袋!」


 ソニアはマークの近くにより腕を伸ばすとアビーを引き取り、抱き寄せる。

「だって、悔しいじゃないの。だから、ジョディさんがここに家を建てるって聞いた時に私も! って、頼んじゃったのよ。だって、アビーと離れるなんて無理でしょ! ねえ、アビー。お婆ちゃん達も一緒に住んでいいわよね?」

「一緒なの? 本当に? 絶対?」

「ふふふ、そうよ。いいかしら?」

「うん! いいよ! ね、お父さん! お母さん!」

「ほら、アビーもこう言っているわよ。お父さんはどうするの?」

 マークは困った顔をしてジュディを見る。

「ジュディ、ごめん」

「マーク、私に謝ることはないわよ。アビーも喜んでいるし、いいんじゃない」

「ありがとう。あ、でもさ、お袋達は兄貴と一緒に住んでいたんだろ? 何も言わないで黙って出て来たことになるけど、いいのか?」

 マークの言葉にソニアが渋い顔になる。

「いいわよ。私達が出て行くってなったら喜ぶわよ。ったくあの嫁ったら……」

「あ~いい。分かった。まだ、仲良くなれないのかよ」

「なれないわよ! いい? あの子はね「母さん、落ち着け! アビーを抱っこしたままじゃ」……あ、ごめんなさいね。アビー」


 歩だった頃にテレビで見た嫁姑問題をまさか異世界で体験するとは思わなかったアビーだが、自分の家族。両親の両親に囲まれての暮らしが始まることに期待しかなかった。


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