第三章 初夜の遂行、そして領民を救え

第18話 また失敗したようですがなにか?

「わあ、前も素敵だったけど……今回はさらに素敵ね」

「うん、本当だね」


 披露宴が終わり、夜になって寝室に戻ったアリスとウィリアム。前回以上に力が入った内装にキラキラと目を輝かせていた。

 メイドのメアリーが中心となって整えたという室内は、夜空を思わせる天蓋てんがい、夢見心地なキャンドルやお香で雰囲気はバッチリだった。さらに美しく飾り切りされた果物に、細かい気泡が美しい葡萄酒、絹でできたお揃いの夜着も用意されており、愛し合うふたりのための空間ができあがっていた。


「アリス、あまり食事できなかったでしょう? フルーツでも食べよう」

「うん」


 アリスはウィリアムに手をひかれ並んでソファに座った。葡萄酒が注がれたグラスを「ありがとう」と言って受け取り夫に微笑みかける。


「ウィル、みんなへの挨拶お疲れ様。素晴らしかったわ」

「ありがとう。アリスが一緒にいてくれたからがんばれたんだ。これからもよろしくね」


 乾杯をして一口酒を流し込む。弾ける気泡が喉に心地いい。


「アリス、苺は好き?」

「ええ、好きよ」


 ウィリアムがハートの形に切られた苺を手に取る。それを「あーん」と言ってアリスの口元に持ってくる。

 アリスは恥ずかしさを感じながらも静かに口を開け苺を受け入れた。


「おいしい?」


 蜂蜜色の瞳がアリスを覗き込む。「おいしいわ」頷くと、彼は目を細め口を開けた。


「じゃあ、次は僕の番ね。ぶどうがいいなあ〜」

「ぶどうね、わかったわ。はい、どうぞ」


 アリスはぶどうを一粒房から取ってウィリアムの口に入れる。彼が口を閉じた拍子に唇が指に触れる。ぶどうを飲み込んだウィリアムとどちらともなく唇を重ね合わせた。

 最初は軽く。ゆっくりと唇が触れ合う時間が増えていく。ウィリアムの手がアリスの髪の毛を撫でながら頬を包み込む。上下の唇が開きキスはさらに深く、深く。

 アリスは甘さと、遠くにほんのりと感じる酸味を味わった——。


 翌朝。アリスは自分を呼ぶ声で目を覚ました。


「おはよう、アリス。よく眠れた?」

「おはようウィル。ええ、ぐっすり眠れたわ……」


 自分とお揃いの夜着に衣を包んだウィリアムが隣で微笑んでいる。


「あ、今日は朝食ここで摂ろうよ。僕ピエールのところに行ってくる!」

「ありがとう……」


 ウィリアムがベッドから出て夜着の上からローブを着込む。彼はそのままアリスに手を振って寝室を後にした。

 アリスは手を振り返し夫を見送ったあと、大きく息を吸い全てをため息として吐き出した。


「なんでこうなった?」


 自問自答する。どう考えてもあのキスといい、この空間といい、初夜仕様だったではないか。酒も最初の少しで控えておいたのに。なのに、何もなかった。ベッドに移動した後も意識を手放すまでずっとキスしていただけだった。


(どうなってんのよ、もう〜!!)


 屋敷問題は解決したものの、アリスは自分には不得手な問題に直面し、心の中で頭を抱えてのたうち回ったのだった。


>>続く

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