第16話キールとの話し合い(オルバーンの視点)
「それでは失礼致します。また、知恵の王マレーヌ様のお導きがあらんことを。」と言って、ナティー達がイレーヌにつれられ執務室を出ていった。
今、執務室にいるのは、私とキールの二人きりだ。
キールは私の実の弟で、娘のイレーヌに仕えるタルカの実の父親でもあり、私の一番信頼のおける部下でもある。
「さて…どうしたものか。」と私は顎のあたりをさわりながら本について考える。
(イレーヌの活発さや領民思いなところはいいが…このような話はあとのことを考えると胃が痛くなる思いだ。)
「この本の存在は国の根幹を揺るがす危険性があります。」
「ああ、私もそう考えていたよ。キール、これは私の手に余る話だ。」
「ええ、私もそう思います。そのため、燃やすのがよろしいかと。」
「だが、これ以外にも地領などに同じものがあったら…。王家に報告した方がいいか?」と私が聞くと、キールは静かに首を横に降った。
「それをすれば、我々は王家からにらまれることになります。もし、第一王子に伝えれば証拠隠滅をはかると思いますし、それ以外の王子や姫に伝えれば次期王にと考えるものが出てくるでしょう…。」
(やはり、そうなるか…)
「ああ、だから確かめたのだ。本の出所やこの本に使われている文字について…幸い文字を読めるものが少ないからこの情報が広まることはないと思うが…。」
「はい、今はまだ行動を起こさぬ方が得策です。」
「静観ということか…。」
(キールの言うとうり王家に言ったところで、火種を増やすだけだ。ならばこの本を燃やしなかったことにするのが一番だろう。)
「キールの言うとおり本は処分しよう。運が良いことにナティーはこれ一冊しかないといっていたしそれでよいか。」
「はい。」
私は、ナティーの側仕えであるカタフが持ってきた本を手に取ると、腰から下げている袋から杖を取り出した。
「アーク・ラ・フォルテ」杖を本にかざし、認識した対象物だけが燃える呪文を唱える。すると、本の端から鮮やかな赤色の炎がでて、どんどんと燃え広がり、目の前にあった本がきれい跡形もなくなくなった。
「今日はすまなかった。書類の準備や平民たちへの呼び出しなど…日頃色々なことに骨を折ってくれて感謝している。」
「…もったいなきお言葉。それに、今日のことは私の愚息であるタルカが原因ですから…。」
元々は毎日タルカに書かせているイレーヌの行動記録を届けにきたさいに、「イレーヌの様子が少し変で……昨日奥様から下町との関係を切るように言われたことが原因かと。」と報告を受けたのだ。
「…タルカにも苦労をかける。イレーヌにももう少し貴族らしく振る舞ってほしいものだ。」と私は大きくため息をついた。
「いえ、タルカはイレーヌ様と一緒に色々な経験が出来ることを喜んでいましたから…兄上が心配なさることはないかと。」
「…そう言ってくれると助かる。」
そんな話をしていたら、扉のむこうからイレーヌの声が聞こえた。
「失礼致します。お父様、イレーヌでございます。入室してもよろしいでしょうか?」
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