怖がりJKと七不思議の8番目

喜楽寛々斎

プロローグ

 蝉が鳴き出す頃になると、私は二人の少女を思い出す。


 目もくらむ青に湧き上がる入道雲が、あの夏の熱が飽和したような空気を、とめどなく背中をつたい落ちていった汗を、手のひらのレモンスカッシュの缶の冷たさを、全てを洗い流すような雷雨の記憶をよみがえらせる。


 見た目も性格も真反対に見えた彼女たちの面影は、季節の巡りを重ねても不思議と私の中で薄れることはなかった。


 単純にあの二人の見た目の印象が強かった、というのもあるかもしれない。


 片方の少女は、この古風な制服でああもスタイリッシュな空気感をかもせるのか、と驚いてしまうようなキレッキレの装いをし、群れることなくいつもクールにたたずんでいた。


 もう一方の少女の方は制服を着崩したりはせず、始終にこにこと人当たり良く微笑み、挙措は品よく言動はおっとりとしていて、いかにも育ちの良いお嬢様という雰囲気だった。


 そんな二人が並べば、妙に目を惹いたのは間違いない。


 ただ———それぞれに我が道を行き、全力で高校生活を謳歌おうかして、私とは全く別種の人間のように見えていた———彼女たちが妙に記憶に焼きついたのは、その表面上からは到底計り知れないものをたまたま目にすることになったからだ。


 この女子校で囁かれてきた七不思議の8番目の謎が、あの二人によって密やかに解き明かされたひと夏は、私にとっても少し特別な季節となったのである。

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