第四章 見えない敵意
第1話 行ってみるしかないよね
「また、増やしたのか」
ギルマスがギルドの会議室で初対面のノアを顔を見て呆れながらソルトに話す。
「はあ、それは話の流れで……」
「まあな、俺もゴルドにある程度は聞いた。でも、コレが本当にそうなのか? まあ、お前の変わり様を見れば本物としか言えないか」
「俺も信じられないんですけどね」
「そうか。じゃあ、面倒だとは思うが、一通り話してもらえないか」
「ゴルドさんに聞いたんでしょ?」
「聞いた。確かに聞いた。だが、聞いただけじゃ分からない話もあるだろ。それに本人に聞くのが一番だ。って、訳でソルトと新しいお嬢さん以外は帰っていいぞ」
「え~ちょっと待ってよ。私達だって聞きたいことがあるんだし、いいでしょ」
レイがギルマスに不満を漏らす。
「ちょっと、レイ。聞きたいことって何? 私達にも関係あること?」
「あるわよ! 大ありよ!」
エリスがレイに確認すると、ソルト達に関係することをノアから聞きそびれているという。
「何かあったか?」
「あったかじゃないでしょ! ノアが言ってた『アイツ』のことを聞いてないじゃない!」
「『アイツ』って?」
ソルトがレイに聞き返す。
「あ~ソルトまで忘れている! ノアが言ったでしょ! 『アイツに頼まれた』って」
「そう言えば、そんなことを言ってた! しかし、レイもよく覚えてたな」
「ふふん、少しは見直してもいいのよ?」
「そこまではないけど、ノア教えてくれるか?」
「もう!」
ソルトにそう言われて剥れるレイを放って、ノアに話すように促す。
「アイツのことって……ソルトはそんなに気になるの?」
「ああ、気になる。なんでノアにそんなことを頼んだのか……な」
「もう、そんなに気にする仲じゃないわよ。会ったのもその時の一回だけだし」
「ん?」
「え?」
ソルトとノアの会話が中々噛み合わないのに痺れを切らしたレイが割り込む。
「ノア、いいから。その『アイツ』って奴のこと教えてよ。ほら、何か特徴とかあるでしょ。例えば、耳が尖っているとか、色が黒いとか、尻尾が生えているとか、何かあるでしょ?」
「そうね、そう言われてみれば……それに羽が生えてたわね」
「おい! それって……魔族じゃないのか?」
ギルマスがノアに聞き返すとノアが答える。
「うん、そう言ってたわ」
「何! それは本当か!」
「へぇ、魔族っているんだね」
「ソルト、何を言ってるんだ? 相手は魔族だぞ」
ギルマスにそう言われるが、ソルトとしては会ったこともないし、見たこともない。だから、ソルトはギルマスに自分の考えを話す。
「でも、俺はほら、異世界人だからね。『魔族だから悪い』って言われてもね」
「そう言うが、現に地脈に魔素を注入させて、魔の森を危険な状態にしてたんだぞ。危険視するには十分だろう」
「そうだよね。でもさ、それも理由があってやったことかも知れないし。だから俺としては一度会ってみないことには分からないよ」
「私も!」
「しかしだな……」
ギルマスがソルト達の考えが理解出来ずに説き伏せようとするが、ゴルドに止められる。
「ギルマス、ソルト達のことは放っておこう。それで、ノア。そいつにはどこで会える? 名前は?」
「さあ、名前は言ってたかも知れないけど、忘れたわ」
「さあって……お前もよくそれで加担する気になったな」
「そうね。私も不思議に思うわ。それにあの頃はいつ死んでも構わないって思っていたしね。でも、そんな私をソルトが救ってくれたのよ! やっぱり、これは運命なのよ!」
「運命ね……まあ、中の中まで見せるなんて、確かにそうないでしょうけど、それで運命って言うのもちょっとね」
「ちょっと、レイ! 止めなさい!」
ノアの顔が急激に赤くなり俯くが、すぐに顔を上げると、レイを睨み付ける。
「なんとでも言えばいい。もう私とソルトを妨げることは出来ないんだから。そうでしょ、ソルト!」
「え、そうなの。まあ、離れられないってのは合ってはいるけど、ちょっとニュアンスが違うかな」
「何よ! 何も違わないじゃない!」
「ノア、落ち着け。第二夫人としての振る舞いじゃないぞ」
ノアがサクラに注意されるが、サクラの言葉に受け入れられないことがある。
「第二夫人? どうして、私が第二なの?」
「それは私が第一夫人だからだ。契約は私が最初だからな」
「なら、私は「はい、落ち着こうね」……ぷはっ、エリス!」
「焦らないって約束したでしょ。こういうのはタイミングも重要なのよ」
「そうです! 私の計画でもあるんですから!」
ノアとサクラに対抗して何かを口走ろうとしたレイをエリスとリリスでレイの口を押さえて止める。
ソルトの耳にも色々と不穏な言葉が入ってくるが、今は気にしなくてもいいだろうと判断し、ノアに話を続けさせる。
「どうやったら、その魔族に会えるかな?」
「さあ?」
「さあ……か。まあ、そうだよね。じゃあ、ググってみるか」
「ググって分かるの?」
「多分、分かるんじゃないかな。じゃあ……」
『はい、分かりましたよ。場所はココです』
「ありがと。場所は分かりました。地図はありますか?」
ソルトがそう言うとギルマスが棚から地図を取り出し、広げる。
「魔族の場所はココです」
「ここは……」
「ギルマス、ここって……」
ソルトが指差した場所をギルマスとゴルドが確認する。互いに指した場所がどこなのかを理解しているようだ。ちなみにその場所は魔の森を抜けた先にある魔族領のなかだった。
「まあ、そうなるだろうな」
「ここに行かないと分からないか」
「じゃあ、行きましょうか」
「「え?」」
場所が分かり、そこが魔族領だとギルマス達の口から教えられると、ソルトは飄々とそこへ行くと言う。
「お前、正気か?」
「だって、そこにいるんでしょ。それなら、そこに言って本人を探して、どうしてこんなことをしたのか聞きたいじゃないですか」
「ソルトには危機感って言葉はないのか?」
「多少はあると思いますけど、今はとりあえず知りたいことを知りたいと思う好奇心を大事にしたいと思ってますよ」
「だけどな~」
ゴルドが頭を掻きながら何かを言いたそうにしているので、ソルトが聞いてみる。
「ねえ、魔族と直接何かあったの?」
「そう言われても……」
「ないんですね?」
「ああ、ない」
ギルマスとゴルドが顔を見合わせると、そう答える。
「今まではどうなんです? ほら、魔王の侵攻とか?」
「大昔にはあったらしいが、最近というか、ここ何百年は聞かないな」
「それで、魔族が悪いって思い込んでいるの?」
「ああ、そうだな」
「もしかして、魔族に対するネガティブ・キャンペーンとかあるのかな?」
「なんだ、そのねがてぃぶ・きゃんぺーんってのは?」
「ああ、要は個人とか、団体が『アイツは悪い奴だ!』って追い込んでいるのかってこと」
「なんだ、そのことか。それなら、発信元は教会だな」
「ああ、そうだな。教会の連中が『魔族は悪い』『魔族は怖い』『魔族は信じられない』って感じでな」
「え~教会は信じないとか言ってるくせにそういうのは信じちゃうんだ」
「言うなよ。子供の頃からそうやって刷り込まれたのは中々消えないんだって」
「じゃあ、会ってみれば分かるね」
ソルトがにこやかにそんなことをゴルドに言う。
「やっぱり、俺も行く流れか。もう、人も増えたし俺が面倒見る必要はないと思ったんだけどな~」
「じゃあ、ノアの登録と装備を揃えてから、訓練とか済ませてからだから……一月後くらいでいいかな」
「ああ、分かったよ。もう、ソルトの気が済むまで付き合ってやるよ」
「うん、ありがとうね。ゴルドさん」
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