第17話 旦那様と一緒なら

「いや、黒龍の血で変わるのなら、私の……白虎の血でも何か変わるんじゃないかと思ったんだけどね」

「そんなに簡単に変わる訳ないだろ」

「「「いやいやいや、変わったじゃん!」」」

 喰い気味に女性陣から突っ込まれるソルトが慌てて言い訳する。

「あ……いや、それは黒龍の血がそうさせたんであって」

「だから、私の血でもそうなるかと思ったんだけどね」

 サクラとのやり取りを聞いていた、レイ、エリス、リリスが人差し指を噛もうとしていたのに気付いたソルトが慌てて止める。

「だから、何やってんの?」

「「「え?」」」

「いやいやいや、『え?』じゃなくてさ。何やってんの?」

「ちょっと試してみようかと思って……ねえ?」

「そうね。レイの言うように試してみたくて、つい……」

 そして、申し訳なさそうにしているリリスにも聞いて見ると「同じです」と答える。

 そんなやり取りを見ていたシーナも今、理解したようで指に噛みつこうとしていたのに気付いたソルトが慌てて止める。


「はぁ~話聞いてた? そりゃ黒龍の血で変わりはしたけど、サクラの血では変わった所はないでしょ。ね?」

「あ! やっぱりだ。ね、エリスも見て! ほら!」

 ソルトが嫌そうに話していたのを黙って聞いていたレイが騒ぎ出す。


「そんなに騒いでも分からないわよ。何が変わったって言うの?」

「分からない? ほら、ソルトの……ほら! ソルト! ちょっと『イーッ』ってして」

「な、なんだよ。レイは納得したんじゃないのか?」

「いいから、『イ~ッ』ってしてよ。エリスもちゃんと見ててよ!」

「分かったわよ。ソルト、私からもお願いするから、レイの言うようにやってみて」

「ったく……ほら、これでいいか?」

 根負けしたソルトがレイとエリスに向かって『イーッ』として見せる。

「あ~! やっぱりだ! ほら、ここ!」

 レイがそう言って、ソルトの口の中に指を突っ込む。

「な、何をするんだよ!」

「あ~確かにね」

 エリスはレイの言う何かが分かった様なので、ソルトはエリスに説明をお願いする。


「あのね、レイが言うには黒龍の血で変わった後と今のソルトで変わったところがあると言うのね」

「そうか? 当の本人の俺にはサッパリだが?」

「そうよね。でね、レイが言うには、その……ソルトの犬歯が大きくなったって言うのよ。私も最初は分からなかったけど、言われてみれば大きくなった気がするのよね」

 エリスにそう言われたソルトは自分でも気になり口の中に指を入れ犬歯を触ってみる。

「確かに大きくはなっているかな。でも、これは黒龍の血のせいかもしれないだろ?」

「違うもん!」

 ソルトの反論に対しレイが力強く言い切る。


「レイはなんでそこまで違うと言い切れるの?」

「だって、……もん」

「レイ、肝心なところが聞こえないんだけど?」

 レイの頬が少し赤くなっているのに気付いたエリスが揶揄うようにレイに話しかける。

「はは~ん。あなた、ソルトを膝枕している間にキスでもしたんでしょ! だから、口の中の様子を覚えているのね」

 エリスがニヤニヤしながら、レイにそう言うとレイは「違う!」と言う。

「違う! そりゃしたくないかと言えば……したかったけど、出来なかったから……だから顔をいじって遊んでただけだもん!」

「ん? しようとしたけど出来なかったってこと。でも、なんで?」

「……」

「あら、言えないことでもしようとしたの?」

「違う! 体が……腰が思うように曲がらなかったからソルトに近付けなかったの!」

「「ぷっ」」

 レイの発言に溜まらずエリスとサクラが吹き出す。そして、その横でリリスが前屈して体の柔軟さを確かめる。


「まあ、いいわ。でも、レイの言うことが本当なら、サクラの血で変わったってことよね?」

 エリスがソルトを見るが、ソルトには分からないとしか言いようがない。


「ったくルーはどう思う?」

『先程のアナウンスが確かならサクラさんの血液にも反応したことになります』

「だよな~どうなってんだ俺の体は……」

『すみません』

「別にルーが謝ることじゃないよ」


 謎のアナウンスのこともあり、ソルトは一人だけで納得しエリス達を見ると、またエリス達は指を噛んで血を出そうとしてたので、慌てて止めさせる。

「順番ね。いい? 順番よ」

 エリスがレイとリリスに何かを言ってるのに気付いたソルトがはぁ~とため息を吐く。

「それで、その黒龍のお嬢さんはどうするの?」

「黒龍のお嬢さん……って、私か」

「そう。あなただね。まず名前は?」

 ソルトが人化した黒龍を指して質問する。


「私か。私の名前は……」

 そこまで言って黒龍はソルトを黙って見つめる。

「どうした?」

「名付けて欲しい」

「はぁ?」

 ソルトは既に鑑定しているので黒龍の名前を知ってはいるが、黒龍からは名付けて欲しいと言われる。そして黒龍がこんなことを言い出した原因と思われるサクラをソルトが見ると、サクラは音も出ない口笛を吹いて視線をずらす。

「やっぱりサクラか……それで、名付けの意味を知った上で、そのことも理解して言ってるんだな」

「ああ、知っているし十分に理解もしている」

 ソルトの問いに黒龍はしっかりとソルトの目を見て答える。そんな黒龍の態度にソルトは頭を掻き毟り「俺に何を期待しているんだよ」と愚痴る。


「ダメか?」

「分かったよ。そこまで言うなら、俺も覚悟を決めるよ。いいよ、名付けよう。そうだな……くろ、ぶらっく、のあーる、のあ……うん、ノアだ。お前の名前は『ノア』だ」

「ノア……私の名はノア……」

 黒龍がそう呟いた瞬間にソルトと黒龍……ノアの体が光る。

「やっぱ、こうなるよね」

 光が収まると、ノアはその場で地面に膝を着き両手を揃え、「これからよろしく御願いします。旦那様」と頭を下げる。


「あ~ズルい! 私も! 私もお願いしたい!」

 ノアとソルトの様子を見ていたリリスが暴れ出すのをレイとエリスで押さえ込む。

「だから、順番だって言ったでしょ」

「そうよ。ここは大人しくしてなさい」

「……はい」

 レイ達の様子が気になるソルトだが、うまく聞き取れなかったので今はいいかと無視することにした。

「じゃ、早速だけど準備はいいかな?」

 ソルトがノアに確認する。


「わ、私は構いませんけど……まだ日が高いと思いますが……」

「こういうのは明るい内に済ませた方がいいと俺は思うけどね。まあ、そっちの心構えもあるだろうし、落ち着いてからにしようか」

 ソルトの言葉にノアは何かを決心したような顔になり、恥ずかしそうにしていた顔が一瞬で変わった。


「分かりました。お願いします!」

「分かった。じゃ、ショコラとコスモは悪いけど、どっか行ってて。エリスとレイ、それにシーナは俺のやることを側で見ててね」

「あの……旦那様。最初は二人きりがいいのですが……」

「ノア。ごめんね。でも、今後、こういうことがあった時に俺一人じゃ対処が難しいと思うからさ」

「分かりました。旦那様の言うとおりにします。では、どうぞ……ですが、なるべく痛くないようにお願いします」

 ノアは意を決した様にその場で横になる。

「んじゃ、寝てる間に済ませた方が良さそうだね。じゃ……「ちょっと待って下さい!」……え? どうしました?」

 ノアが起き上がり、ソルトを睨み付ける。

「私は初めてなんですよ! なのに私が寝ている間に済ませようなんて、どういうことですか!」

「え? まあ、初めてだろうね。こういうのは何回もあるもんじゃないだろうしね。でも、いいの? 痛いと思うよ」

「痛いのは承知の上です。でも、一生に一度のことを……私が寝ている間に済ませるなんて、あんまりです! ただでさえ、皆が見ている前でするというのにも抵抗があるというのに!」

「え? 一生に一度? でも、ノアが生活態度を変えない限りは、ずっとこのままだよ?」

「え? 生活態度?」

「ぷっ……もうダメ……なんなの、このすれ違いコントは……くくく」

 レイはソルトとノアのやり取りを黙って聞いていたが、溜まらず吹き出す。そして、そしてソルトはレイが言っていた『すれ違いコント』で、今までのノアとのやり取りで感じていた違和感の正体が判明する。

「レイ、分かっていたのなら、ちゃんとフォローしろよ」

「ははは。ごめんごめん、最初はちゃんとフォローするつもりだったんだよ。でもさ、止めるタイミングが見つからなくてさ。気付けば、どこまで行くのか確かめたくなってね。ゴメンね、ノア」

「……」

「ノア?」

 ノアが顔を赤くして俯いている。

「私の勘違いだったんですか?」

 俯いていた顔を上げたノアがソルトを問い詰める。


「まあ、ハッキリと言わなかった俺も悪いけどさ。そもそも人化した目的を忘れてない?」

 そんなソルトの言葉にノアの顔が曇る。


「思い出したみたいだね」

「それは……旦那様がするんですか?」

「まあ、やり方を知っているのが俺だけみたいだしね」

「やり方だなんて……」

 ノアが体をくねらせソルトの言葉に妙な反応をする。

「今日中に終わらせられるかな~」

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