第15話 ヂヌシは恥ずかしがり屋
サクラを筆頭にレイ以外の女性陣がソルトを睨むように見ている。
「ソルト、お前は何をしたんだ?」
「ゴルドさん、俺が何をしたって……そこで見てたでしょ?」
「まあ、そうだな。俺が見ていた限りでは何もおかしな所はなかったな」
「でしょ。もう、俺だって、どうしてこうなったのか教えて欲しいよ!」
「言えるわけないでしょ!」
黒龍がソルトを見ながらそう叫ぶ。
「え~」
「ソルト。ソルトはあの黒龍を鑑定したんでしょ? その時に黒龍の痛みの原因が分かったのなら、それが答えじゃないの?」
「……あ~確かにね。アレを知られたら泣きたくもなるかな」
「言うな! これ以上、私を愚弄するつもりか!」
「まあまあ。あなたも少し落ち着きなさい。あまり怒ると障るわよ?」
「え? そうなの?」
「いいから、私に任せなさい!」
「……分かった。お願いする」
サクラがもう少しで暴れ出しそうな黒龍をなんとか宥めるとソルトに向き直り、なんとかしなさいと言う。
「はあ?」
「何よ! こんなのサクッと魔法一発で治せるでしょ」
「いや、それって外科レベルじゃないぞ」
「何? その『げか』って?」
サクラ達に分かる様に『ヒール』で治せるのは外傷とかで、内科レベルの発熱とかは治せないことを説明する。なので、黒龍のは『ヒール』じゃ治せないと。
「どういうことだ! もしかして、私はずっとこのままなのか?」
「ん~ないことはない」
「何か手段はあるんだな?」
サクラと黒龍が期待するような目でソルトを見る。
「話すけど、暴れるなよ?」
「「もったいつけるな!」」
「はいはい、分かりました。じゃあ言うね。切っちゃえばいいんだよ」
「なるほど。切れば、その部分は外傷となりヒールで治せると」
「そう、そういうこと」
「……」
「どうした?」
ソルトの話を聞いたサクラはその方法に納得するが、黒龍は無言だ。その黒龍にサクラが問い掛ける。すると、黒龍はサクラの問いに対し答える。
「切るのはいいとして、誰が切るんだ?」
「自分で切れないのか?」
「私が……自分で……するのか?」
「その、なんでも切れそうな爪でサクッとやっちゃえば?」
「……ない」
「は?」
「自分のお尻なんて見れない! それにこの短い手がどうやって届くというの!」
「「あ! 確かに!」」
ソルトとサクラが黒龍の姿を見て納得する。黒龍はいわゆる西洋の物語に出てくるようなずんぐりとした体型に短い手がついている。その姿からはどうやっても患部であるお尻には手が届くことはないだろう。
「なんだい、いい方法が見つかったと思ったのに。結局は振り出しかい」
「なら、サクラが切れば?」
「私がかい? やだよ! 人様のお尻の下に潜り込んで、切るなんてさ」
「え~そこをなんとか、頼みます!」
黒龍が短い手を胸の前で合わせて、サクラに頼み込む。
「いくら頼まれたってヤダよ!」
「そんな……」
サクラの返事を聞いて、黒龍が落ち込む。
「なら、俺がやろうか?」
「頼む!」
「「「「『ダメ(です)!』」」」」
ソルトはあまり気は進まないが、それならと名乗りを上げるがルーを含む女性陣から反対される。
「「ええ~」」
黒龍とソルトが揃って声を上げ、どうすればいいんだと互いに目を合わせる。
「あ! いいかも!」
すると、レイが何かを思いついたように声を上げる。
声を上げたレイに皆の視線が集中すると、レイが思いついたことを話す。
「ねえ、その姿だからダメなんでしょ? なら、人の姿になればいいんじゃないの?」
「「「「「『その手があったか(んですね)!』」」」」」
レイの提案に乗り気になるが、肝心の黒龍だけが分かっていない。それに気付いたサクラがどういうことかと丁寧に説明する。
「そうか、そういうことか」
「分かったかい?」
「ああ、話は分かった。だが、私は肝心の『人化』のスキルは持っていないぞ」
「それは大丈夫。私の娘達も持っていなかったが、二週間もしない内にほれ、あの通りだ」
そう言って、サクラは黒龍にも分かる様に自分の子供であるカスミとコスモを指差す。
「はあ? いや、あれは普通に人間だろ。私もある程度の鑑定は使えるが、その結果にもちゃんと『人族』とでているぞ」
するとサクラはニヤリと笑うと黒龍に話す。
「私達は白虎だよ。そこの旦那であるソルトに着いていく為に人の姿になったのさ。まあ、私は元々『人化』のスキルは持っていたけど、子供達は持っていなくてね」
「それで?」
黒龍はサクラの話に興味を惹かれ、続きをせがむ。
「私は何も出来なかったけどね。旦那がさ、子供達の為に『人化』スキルの習得を簡単に出来るように骨折ってくれてさ。今では『隠蔽』スキルも使っているから、普通の鑑定じゃ『人族』としか出ないってわけさ」
「……」
「どうする? やってみるかい? 無理にとは言わないよ。よ~く考えてみるんだね」
「やる!」
サクラが言い終わるのに被せるように黒龍が答える。
「そうかい。やるんだね?」
「ああ。もう、この痛みとは早くおさらばしたいんだ。その為ならなんだってやってやる!」
「へぇ~まあいいけど。じゃ、ソルト。後は頼んだよ」
「分かったよ。じゃ、こっちで準備するから、とりあえずこの場所から離れてもらえるかな」
「なぜだ! そんなに邪険にしなくてもいいじゃないか!」
ソルトは大きく「はぁ~」とため息を吐くと黒龍を見つめる。
「な、なんだい?」
「あのな、ここはお前が地脈に魔素を注入していた場所だろ。お前が魔素の注入を止めたとはいえだ。まだ、お前から溢れる魔力が影響しないとも限らないだろ。だから、少しの間、この場所から離れて欲しいだけだ。後、『人化』スキルを使うと素っ裸になるから、どこか身を隠せる場所を探しといた方がいいんじゃないか?」
「そうか、裸になってしまうのか。私は別に構わないが」
痔主が知られるのは恥ずかしいくせに裸は恥ずかしくないとか。こういうのは人族以外のあるあるなのか。まあ、未だにピクリともしない俺にはどうでもいい話だが。
「あのな、俺達男が構うんだよ。いいから、サクラ達と一緒に適当な場所を探して来い」
「うむ、分かった。そこまで言うのなら言うとおりにしようではないか」
黒龍をサクラ達に任せて、どいてもらった箇所を少し調べる。
「別に変わった所は見られないけど……シーナ。そっちはどう?」
『はい。地脈への魔素の注入量は大幅に減りましたが、まだ僅かに流れています』
「そうか、ならやっぱり、この辺りに何かある筈なんだな」
『はい、そう思います』
「分かった。ありがとう。こっちで探してみるよ」
『分かりました。こちらでも引き続き監視します』
「ああ、頼む」
シーナとの念話を終え、黒龍が鎮座していた場所を見てみるが、やはりおかしなところは見当たらない。
『ソルトさん、鑑定してみては?』
「あ! そうか。ありがとう、ルー」
ルーにお礼を言い、早速と鑑定をしてみると……
「なんだこれ?」
ソルトの鑑定結果にはしっかりと『魔素注入棒』とあり、その矢印の先は黒龍がいた場所の地中を差していた。
「ルーには見えていたのか?」
『はい。分かっていました。報告せずに申し訳ありません』
「まあ、いい。で、これを抜けばいいんだな」
『はい。それで魔素の注入はなくなると思います』
「分かった。じゃ、抜いてみますか」
ソルトがそうは言うが、そのなんとか棒の頭は地面には出ていない。
「少し掘ってみるか。『掘削』」
三十センチほど掘って、ようやく頭が見えたので、改めて抜こうと手を近付けると、体の中から何かが吸われるような感触に思わず伸ばし掛けていた手を慌てて引っ込める。
「吸われた? まさか、直接触れると魔力を吸われるのか?」
『ソルトさん。気を付けて下さいね』
ルーにそう言われるが、このままじゃなんとも出来ない。しかし、どうにかしないことには解決したことにはならない。
「どうしたの?」
「レイか」
悩んでいるソルトの横にレイが並んで地中の杭を見る。
「これが原因なのね。どうして、さっさと抜かないの?」
「あのな……」
レイに今の状況をソルトが話すとへ~とかほ~とか適当に相槌を打っている感がどうしようもない。
「直接触るのがダメならさ、魔法で土とか岩とか氷とかで覆っちゃえば?」
「なるほどな……って、魔力が吸収されるんだから無理だろ」
「そんなの、やってみないと分からないじゃない」
「まあ、やってみるか」
「でしょでしょ!」
レイに教えられたようで、あまり気が進まないソルトがはぁとため息を吐きながら、まずはと土魔法を試してみるが、魔法で発現した土が杭に触れた途端に消失する。
「土はダメと。なら、次は岩で……岩もダメ。なら、氷は? 氷もダメか。結局はダメだったな」
「じゃ、次は……」
「待て! レイ。魔法じゃどうしようも出来ないと分かっただろ?」
「そうね。魔法が触れるとダメなのは分かったわよ」
「なら……「だから、よく見なさいよ!」……何を?」
「いい? 魔法で出した土は消えたんでしょ?」
「ああ、そうだな」
ソルトは今更何を言っているんだと何やら興奮した様子のレイを少しイラッとしながらもレイの話を聞くことにする。
「じゃ、この杭は何に囲まれているの?」
「そりゃ、見たとおりの土……土だな」
「でしょ。消えてないってことは魔法で作った物じゃないからでしょ。なら、その回りごと持ち上げればいいんじゃないの?」
「レイ!」
目から鱗の様なレイの言葉にソルトは思わずレイを抱きしめる。
「凄いな! レイ、気が付かなかったよ」
「ふ、ふふん。そうでしょうよ。どう? 少しは見直してもよくてよ」
ソルトに抱きしめられながら、鼻息も荒くレイはそう言うが我に返ったソルトがレイから離れ「それはない」と一言言い放つと目的の杭を抜く作業にと取り掛かる。
「とりあえず、長さを確認したいけど、ルーは分かるかな」
『鑑定結果に出てますよ』
「え? そうなの。ありがとう」
『いえ。これくらい……』
ルーのアドバイスでどの位の深さまで掘ればいいか分かったので、杭の回りを掘り進める。
「大体、こんなもんか」
「わ~随分、掘ったね」
「ああ、杭の長さが大体、十メートル位だからな。これくらい掘れば取り出すことも出来るだろう」
「でも、どうやって取り出すの? 魔法は効かないんでしょ?」
「杭に触れなければいいだけのことだろ。だから、この回りの土ごと切り離して、『
ソルトが杭の回りを掘り、杭の周囲が土で囲われた状態になったので、その周囲の土に対し『浮遊』を使うと、地中の杭が周囲の土と一緒にゆっくりと地表へと出てくる。
「ほ~なんとかなったようだな」
「ゴルドさん。でも、この後どうするかなんだよね」
「どうにかって、お前の無限倉庫に入れるんじゃないのか?」
「そう思ってたんだけど、触るだけで魔力を吸われるんだよ。無限倉庫に入れた瞬間に内部から魔力を吸い尽くされそうでさ」
「ふむ。それは考えられるな」
「でしょ。それにこんなやばい物はさっさと壊した方がいいと思うんだよね」
ゴルドと話してもいい解決方法が見つからないソルト。
地中から全体を表した杭は、今は地面にそのまま横たえている。
「まあ、これで魔素の流入はなくなった筈だから……シーナ、どうかな?」
『ソルトさん。こちらでは魔素の流入は完全に止まりました。私はしばらく様子を見ています』
「分かった。しばらくお願いね」
『はい。では、一時間ほどしたら、お迎えをお願いできますか?』
「うん、分かったよ。一時間後だね」
『はい! よろしくお願いします』
シーナからの報告で取り敢えずは解決したことをゴルド達に知らせたソルトは、改めて目の前に横たわる杭をどうしたものかと考える。
「ソルト、壊すことは出来ないのか?」
「壊す程度にもよると思うよ。単に曲げただけじゃダメだろうしね」
「そうなると、溶かすしかないか」
「やっぱり、そうなる?」
ゴルドとソルトが腕を組み悩んでいるところにレイが並ぶ。
ふいにソルトはレイが黒龍の尻尾に刺したナイフをまだ持っていたことに気が付き、レイに返そうと取り出すと、何気なく鑑定してみる。すると、そこには『エルダー・ドラゴンの血:少量でも能力向上』とある。
「へ~なら、舐めるだけでもパワーアップするのかな?」
そんな好奇心に負けたソルトはナイフに付いているまだ乾いていない黒龍の血液を指で掬って舐めてみる。
「特に変わったことは起きないみたいだな……ん? なんだろ、体が熱い……」
『条件が達成されたことで能力が一部開放されます。また、その為に身体も合わせて調整されます。これから、スリープモードへ移行します』
「ルー……いや違う。これはいつものルーじゃない。誰だ?」
『現時点では、一切の質問にお答えすることは出来ません。しばらくの間、おやすみ下さい』
ソルトがゆっくり倒れるのを横で見ていたゴルドとレイが慌てて、ソルトの体を受け止める。
「おい! ソルト! どうした? 何があった? 返事しろ!」
「ソルト! どうしちゃったの! 目を開けてよ! ソルト!」
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