第9話 村を目指して
ソルトとレイが魔の森の近くの村を目指して、一時間もしないうちにレイが騒ぎ出す。
「もう、無理。足痛い~」
レイがぐずりその場にしゃがみ込むがソルトは気にすることなく先を進む。
「ねえ、聞いてる? 足が痛いんだってば~ねえって」
「聞いてるよ」
ソルトはそう返事をするが、歩くのはやめない。
「聞いてるのなら、助けてくれてもいいじゃないの!」
「足が痛いなら、お前の聖魔法で治せばいいだろう」
「あ、それもそうか。って、どうやるのよ!」
「知らない。俺にはないスキルだし」
会話はしているが、レイはしゃがんで歩いてはいないので、ソルトとの間はどんどん離れていく。
「冗談じゃない。本当に見捨てる気なのアイツ」
足が痛いとぐずっていたレイだが、このままだと本当に置いていかれるので、なんとか気を取り直して早くソルトに追いつこうと小走りになる。
「本当、信じられない! なんなのよアイツは!」
レイはまだ、怒りが収まらないが今は魔の森の外へ出ることが先決なので我慢するしかないと、自分に言い聞かせる。
やっとソルトに追い付き、文句を言おうとするが、ソルトに手で制される。
「なによ「シッ! 静かに」……なに?」
「なにかが近くにいる」
『気配察知スキルを取得しました』
「ルー、地図に敵とかマーキング出来ないか?」
『マーキングですか?』
「ああ、魔物とか俺達に敵意を持っているのは赤、友好的なのを青、無関心を黄色とかさ」
『地図スキルをバージョンアップしました』
「じゃ、地図を更新してくれ」
『了解です』
ルーの言葉と同時に視界に映る地図上に赤い光点が表示される。
「うわ、多いな。真っ赤っかだな。なあ、虫とか小動物を除いて、大型の動物に魔物だけに限定出来ないか?」
『地図スキルをバージョンアップしました』
「どれ、うん。赤いのが減ったな。で、この赤いのがあそこの木か」
「ちょっと、さっきから、ずっと独り言ってるけど大丈夫なんでしょうね」
「ああ、今あそこの木の影か上から魔物が狙っている以外はな」
「ちょっと、なに落ち着いているのよ! さっさと倒しなさいよ!」
「まだ、姿も見えないのに無茶言うなよ」
「そこはなんとかしなさいよ!」
「なんとかって……そうか、なあルー」
『なんでしょうか?』
「赤い光点がなんなのか知ることは出来ないかな? 鑑定とか使ってさ」
『私がですか?』
「そう、どうかな?」
『やってみますね』
ソルトのお願いになんとか期待に応えてみようとルーが赤い光点に対し鑑定スキルを使ってみると、ソルトの地図に『ゴブリン』と表示された。
「ゴブリンみたいだな。じゃあ、『風刃』」
ソルトが呟くと目の前の木が切断され、木陰に潜んでいたゴブリンごと切断された。
『マスター、魔石を取り出しましょう』
「魔石?」
『はい。魔物なら心臓の近くに石みたいに硬い物質があるはずです』
「へ~こっちでもそこは同じなんだね」
『こっちですか?』
「うん、俺が好きでよく読んでいたラノベでもそういうのがあったからさ」
『そうなんですね』
「そう、でゴブリンの心臓がこれで、その周辺に……ん、これだな」
ソルトが心臓の周辺を手探りで探すと硬い物が指に当たるので掴んで取り出す。
「うぇ、そんなグロいの見せないでよ」
レイが緑色の液体に塗れたソルトの手から顔を背ける。
「まあ、気持ちがいい物じゃないよな。『洗浄』」
ソルトの右手と魔石が洗われ、緑色の液体が消える。
ソルトが魔石を太陽の光に翳してみるが、透明性はなく漆黒の硬質ガラスのような感じだ。
「ねえ、見せて」
「見るのはいいが、宝石のような物じゃないぞ」
「いいから」
ソルトがレイに魔石を渡すとレイが一通り眺めるとソルトに返す。
「もういいのか?」
「うん、そんなに綺麗じゃないし」
「そうか。じゃ、先に進むか」
「え~もう行くの?」
「言ったろ? 急がないと今日中に魔の森を抜けられないって」
「もう……」
ソルトはゴブリンの死体を地中深くに埋めると、また歩き出す。
道中、地図に表示される赤い光点に注意しつつ進みなんとか森の端まで辿りつくことが出来た。
またゴブリン、コボルト、オークと出てきたが全部ソルトの『風刃』で対応出来たので、ここでは割愛する。
「ほら、もう魔の森を出るぞ」
ソルトが指す方向を見ると木々の隙間から、平原が見える。
「やっと、出られる~」
レイが走り出そうとすると、ソルトに襟首を掴まれ引き戻される。
「ぐぇ……ってなにするのよ! 乙女が出しちゃいけない声が出たわよ!」
「『風刃』、ほらな」
ソルトが『風刃』で木の上に潜んでいたゴブリン三体を瞬殺する。
「ほら、魔石を取るから手伝って」
「ええ、あれすっごく嫌なんですけど~」
「でも、そうしないとスキルは取れないよ。この先、魚とかも捌いたりするだろうから、グロ耐性は取っといた方がいいと思うけどね」
「わかったわよ、やるよ、やりますよ! もう……あぁ感触が……」
「なんだかんだ言いながらやるんだから、素直にやればいいのに」
レイがなんとか魔石を取り出し、ソルトに手を向けてくる。
「もうちょっと待ってて。よし、取れた。じゃ、いくよ『洗浄』」
「本当にあんたは、スキルをポンポン取れていいわね」
「まあ、そこは本人の努力の結晶ということで」
「ふん! なによ、私にはスキルが取れるから頑張れとか言いながら、全然取れないじゃない!」
「じゃ、ちょっと見てみようか?」
「いいわよ。見ても変わってないでしょうけどね」
ソルトがレイに断りを入れ、レイ自体に鑑定をかけると『精神耐性』スキルは取得済みだった。
「ねえ、もう『精神耐性』は取得済みだよ?」
「うそ? だって、なにもアナウンスされなかったわよ?」
「やっぱり、違うのかな?」
「なによ! なにか思い当たることでもあるの?」
ソルトがなにかを思いついたことに対しレイが説明を求める。
「いやね、ほら俺達はさ、先に消えたアイツらとは違う場所に出た訳でしょ?」
「そうね。それで?」
「それに俺は痩せたし、若返ったし、レイには鑑定がないし」
「そうね。私には異世界特典はなかったわね」
「聖魔法と言語理解はもらったじゃない」
「ええ、それだけよ」
「聖魔法は出来たの?」
「だから、やり方が分からないんだってば!」
「聖魔法から想像すると、やっぱり癒しでしょ。まあ、レイ自身に聖女の雰囲気は皆無だけどね」
「一言多いわよ。でも、癒しってどうすればいいのよ」
「やっぱり、指先をちょっと傷つけてから『治れ』って念じれば出来るんじゃないの?」
「え~こんな綺麗な指先を傷つけるの? ねえ、ソルトの指を貸してよ。ね?」
「いやです。お断りします。ほら、陽が暮れてしまわないうちに村まで行くよ」
「まだ、歩くの?」
レイがぶうぶう文句を言うがソルトは気にせずに歩く。
そんなソルトを見て、レイは甘えても無駄だとソルトに追いつくように小走りになる。
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