第2話 喚びたかったのは四人

 ここが地球じゃないなら、それはどこなんだろうと竜也と泰雅が考えていると、部屋の扉が開かれる。

「気がつかれましたか?」

「「あぁ?」」

 いきなり現れた高齢の身形のいい男に怪訝な表情になる。


「あ~失礼ですが、こちらの言葉はお分かりでしょうか?」

「ああ、それなら分かるぞ。ってか、爺さんは日本語で話しかけているんだから当たり前だろうが。大丈夫か?」

「泰雅、落ち着け。ここは日本でも、ましてや地球でもないかもしれないと言っただろう。それに後ろに控えている護衛っぽいのもよく見てみろ。銃じゃなく剣を帯刀しているだろ?」

「銃が作れないとか、買えないとかじゃないのか?」

「このバカ。アメリカじゃスーパーでも買えるような物だぞ。いくら貧しい国でも買えない金額じゃないだろ。それにこの爺さんは多分、身分が高いぞ。身に着けている装飾品や衣服も上等な部類だ」

「相変わらず、よく見ていることで」

 竜也が泰雅をまずは落ち着かせる。


「よろしいですか? いつまでもこんな狭っ苦しいところでは窮屈でしょう。どうぞこちらへ」

 男は禿頭を下げ、竜也達に一緒にくるようにとお願いする。


 竜也と泰雅は互いに顔を見合わせ頷く。

「「分かった」」

「では、参りましょう」


 竜也達二人が部屋から出ると、扉が閉められる。


 ランプで照らされた狭い廊下を歩き階段を登る。

「どうやら、地下室だったようだな」

「だから、カビ臭かったのか」

「今、気にすることはそんなことじゃないだろ」


 階段を登り切り、少し歩いたところで前を歩く護衛が扉を開けると、広めの部屋に出る。

 そこは、豪華なシャンデリアに照らされ、足元も感触が柔らかい絨毯が敷き詰められている。壁には誰か分からないが肖像画や風景画などが飾られており、壁際には調度品を飾る棚が置かれている。

 そして、部屋の中央にはソファとテーブルが用意されていて、そのソファには見るからに偉そうな中年男性が座っていた。

 竜也がその中年男性の様相に気づく。明らかに先ほどの禿頭の男よりも豪華な出立ちなのだ。

 しかも太り過ぎなのが、一眼で分かる。


「なんだ? このデブは、偉そうに……」

「泰雅!」

「なんだよ、竜也。今から俺はこの……」

 竜也が泰雅の口を慌てて塞ぐ。

 思うことはあっても、今言うことではない。さっきまでは護衛も二人と少なかったが、今は部屋の中には十人ほど護衛の騎士と思われる者達が配備されている。

 泰雅が、いくら空手の有段者であろうと多勢に無勢の上、武器持ちまで相手にするとなれば勝ち目はない。

 いいから今は大人しくしてくれと泰雅の耳元で喋り言い聞かせる。


「命拾いしましたね。お友達によ~くいい聞かせておいてくださいね」

「それはどうも」


 泰雅が頷いたので、竜也は泰雅を解放する。

「では、落ち着いたようなので、そちらへお座りください。いいですね? くれぐれも妙な真似はしないでくださいね」

「分かったよ」

「分かりました」

 竜也と泰雅は太った男の前のソファに座る。

 禿頭の男は太っと男の背後へと回る。


「では、ご紹介しますね。こちらはザンネニア王国の国王陛下でマーケイン王であらせられます」

「へ~国王ね」

「泰雅!」

 竜也が泰雅の物言いを咎めようとするが、国王が制する。

「よいよい、いきなりこんなところに連れてこられたのじゃ。多少の不敬は構わん。宰相もそのつもりでな」

「はい、分かりました」

 国王の言葉に禿頭の男が頭を下げる。どうやら、この男が宰相のようだ。


「では、お言葉に甘えさせてもらいます。私達が呼ばれた経緯をお聞きしても?」

「ああ、そのことじゃな。まあ、聞きたいのは当然じゃな。では、宰相よ。説明を頼むぞ」

「はっ分かりました。では、説明しますので、よくお聞きください。質問は後ほどで」

 宰相がそう切り出し話し始める。


 宰相が話した内容をまとめると、王国は魔族領からの侵攻に遭っているという。だが、今の残存兵力では魔族に太刀打ち出来ない。

 そこで過去の文献を解析していたところに遥かな過去に勇者召喚を行い危機を乗り切ったという伝説が残されていたのを見つける。

 すぐに勇者召喚の儀を執り行うべく過去の伝説を文献や伝聞などで残されている資料を掻き集め、なんとか形になったところで勇者召喚を執り行ったところに竜也と泰雅が喚ばれたということらしい。


「だが、文献では勇者、聖者、賢者、戦士の四人を喚ぶことが出来るとされていたのですが、なにが不足していたのか原因は不明ですが、あなた方二人だけが喚ばれたのです」

「俺達だけ?」

「ええ、そうです。もしかしたら周りに誰かいましたか?」

「そうい……イッテ」

「どうしましたか?」

「いえ、なんでも。なあ泰雅」

「なんでもって、お前が……イッテ」

「大丈夫ですか?」

「ええ、お気遣いなく」

 泰雅が麗子のことを話そうとしたのに気付いた竜也が宰相に見えない位置で泰雅に肘鉄をしたのだ。

『なにか知ってそうですね……』

 宰相はそう思うが、まだこの場では警戒されているようなので、追求はしないでおくことにした。


『まさか、麗子も喚ばれているとかないよな』

 竜也がそう願うが、その願いも虚しく麗子とメタボな中年男性は別の場所で目を覚ます。

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