第5話 あの、生き返ったんですけど?
想太は生き返らせた宰相の娘に腕を捕まれ、困惑する。また、その様子を見ていた宰相も自分の娘が何をしているのかと気が気でならない。しかも逃がさないと言ったのも気になるが、まずは娘を落ち着かせるのが先だとばかりに娘に声を掛ける。
「ナキ、何をしているんだ! その方から離れなさい!」
「イヤです。お父様、この方は私の全てを見てしまったのです。ならば、その責任を取って貰う必要があります。私、変なことは言ってませんよね?」
「……いや、それはお前を治療するためであって、決して疚しい気持ちからではないのだし、言うなれば医療行為であって、何もそこまでの責任を負わせるのはどうかと思うが……」
「うん、宰相さんの言う通りだね。ね? ナキさんだっけ? 納得出来たのなら離してくれないかな?」
想太も見たくて見たわけじゃないので、宰相さんの言う通りだとナキに言い聞かせて、腕を離してくれるようにお願いするが、余計に意固地になり離してくれそうにない。
「イヤです! 絶対に! 離しません!」
「いや、でも……」
「では、約束して下さい。責任を取って下さると」
「宰相さん……」
「すみません。ナキ、いい加減にするんだ。いいから、ご迷惑を掛ける訳にはいかないのだ。いいから、離しなさい!」
「ねえ、ナキさん。どうでもいいんだけど、いつまでも布だけを羽織っている訳にはいかないでしょ。着替える必要があると思うんだけど?」
「ああ、そうでした。すみません、ちょっと外に出たいのですが、お願いできますでしょうか」
「あ、そうだね。じゃ……」
想太も宰相と一緒に外に出ようとしたが、ナキはずっと腕を掴んだままだ。
「ねえ、俺達は外に出るんだけど?」
「なら、私も出ます」
「その格好で?」
「あ……」
想太に言われ、自分が布一枚を羽織っているのを再度、認識する。そして、想太を掴んでいた手をそっと離す。
「私は、ここから出られないんですか?」
「まあ、その格好じゃ出られないから、宰相さんが持ってくるのを待ってて」
「はい! お待ちしております」
ナキがにっこり笑って想太にそう言うと想太もその笑顔にドキリとする。
「じゃあ、宰相さん。行こうか」
「はい。ナキ、ちょっとだけ待っててくれ」
「……」
ナキが頷くのを見届けると、想太は宰相と一緒に亜空間の部屋から出る。
すると、朝香がス~ッと想太に近付くと想太だけに聞こえるように言う。
「あとで話してもらうから」
「……分かったよ」
宰相は近くのメイドに自分の屋敷まで行ってナキの下着から衣服に靴までの一式を持って来てくれるように頼む。
「分かりました。ですが、奥様にはなんて説明すればいいのでしょうか」
「確かに説明するのは難しいか。そうだな。よし、分かった。私の馬車を使ってくれ。そして妻と一緒にここへ戻って来てくれ。もちろん、先程頼んだ一式も忘れずにな」
「わ、分かりました」
宰相は近くのメイドに自分の屋敷まで行ってナキの衣服と靴を一式持って来てくれと頼む。そして、妻も一緒に登城してくれるように頼むが、メイドの一人に言われたからと言って妻が大人しく言うことを聞いてくれるだろうかと不安になる。
その時、ふと一人の衛士が目に入る。
「そうだ。そこの……そうだ、お前だ」
宰相に『そこの』と言われた若い衛士が自分のことかと、自分の顔を指差すと宰相が肯定したので何事かと宰相の側に近寄る。
「お前は、ここまでのことを見ていたよな?」
「は、はい。見てました。宰相様にお嬢様の遺品が渡される所も」
宰相は衛士の言葉に満足そうに頷くが、まだ足りないかと急いで一筆したためると衛士にそれを渡す。
「うん。これでいい。では、そこのメイドと一緒に使いを頼まれてくれ。妻も一人のメイドから話を聞かされるよりは二人から話してもらった方が納得してくれることと思う。それと、これを急いで書いたから読みにくいとは思うが、妻に渡してくれ。すまないがなるべく急いでくれ」
「「は、はい!」」
宰相は言付けを頼んだ二人を見送ると、想太に話しかける。
「申し訳ありませんが、しばし時間を頂いてもよろしいでしょうか」
「いいけどさ、さっきのは他言無用でお願いね」
「はい。それはもちろんです。ですが、どうしてあんな真似を?」
「ああ、それね。実はさ……」
想太は小声で宰相にだけ聞こえるように話し出す。
『ソウタ、その遺骨の娘の魂はまだ彷徨っています。いまなら、
『え? でも、もう骨になっているけど?』
『問題ありません。ソウタのスキル『再生』は文字通りに元の状態へと再生しますから、例え一部でも問題なく再生可能です』
『へ~なら、ちょっと宰相さんに聞いてみるよ』
「……って、ことでね。まだナキさんの魂がこの世を彷徨っていたから出来たことなんだ」
「そうだったんですね。分かりました。ありがとうございます」
「まあ、そういうことだから。でも、ナキさんが意外とまともそうでよかったよ。これがさっきの王女みたいな性格だったら、また遺骨に戻っていたかも知れないよ」
「……確かに」
想太は宰相にそう言って笑って見せて、宰相は育て方を間違えなくてよかったと心から安堵する。
「お父様、まだですか?」
「「「キャ~! 生首!」」」
「「え?」」
宰相を呼ぶ声と叫び声を聞き、想太と宰相は何事かと周りを確認すると、ちょうど恒の顔と同じ高さにナキの顔が浮かんでいた。
「「ナキ(さん)?」」
想太と宰相が浮かんでいる顔に声を掛けるとナキは照れくさそうに笑いながら、想太達に答える。
「あのね、寂しいのと暇だったから、顔だけでも出られないかなと思ったら、こうなっちゃいました。あれ? あなた、ノーラよね。私、分かる? ナキよ。ナキ!」
「え? ナキ様……なんですか?」
悲鳴を上げていたメイドの一人がナキに名前を呼ばれて顔を上げるとナキの顔をジッと見てから、声を掛ける。
「そうよ! ナキよ。久しぶりね。元気だった?」
「え、ええ。私は元気ですが……ナキ様は……その……」
「うん。そう殺されちゃったの。てへっ」
「じゃあ、今のその姿は……」
「ああ、心配しないで。ちゃんと足もあるのよ。ほら!」
そう言って、器用に右足だけを亜空間の部屋から出して見せる。
「こら! ナキ、はしたない真似は止めなさい!」
「あ、ごめんなさい。でも、これで安心出来たでしょ」
「はい。そんなところも昔のままです! よかった……」
ノーラと呼ばれたメイドはナキの様子に安心して、その場に両膝を着くと泣き崩れてしまう。
「もう、ノーラ。泣くことはないでしょ」
「だって……うぇ~ん」
ナキとノーラのやり取りをこの場にいた全員が不思議そうに見ていたが、やがて『ナキが生き返った』という事実に辿り着く。
そして、誰がそんなことをしたかと言うのは探すまでもなく想太がしたことだというのもすぐに理解する。
そして、それに気付いた宰相が部屋の中にいる全員に対して大声で伝える。
「よいか皆! 今日、ここで見聞きしたことを他言することは許されない! もし、他言したことが分かれば、その者は一生幽閉する。いいか、これは宰相である私自身が執行する勅命である。よいな!」
「「「は、はい!」」」
宰相の発言に対し、その場にいた全員が片膝を着き宰相に頭を垂れる。
「これでよろしいでしょうか?」
「ちょっと、甘いかな。『呪縛』」
想太は宰相の確認に対して、甘いねと言うと、その場にいた全員に対し闇魔法で縛りつける。
「そこまでやりますか」
「宰相さん。そうは言うけど、何かあったら真っ先にナキさんが槍玉にあげられるんだよ。もう一度、殺させるつもり?」
「……そうでした。ありがとうございます」
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