第11話 やっぱり、お風呂だよね

 想太に布や道具を提供してもらい、朝香が早速、下着を作ろうとしていた所で想太がまだその場にいることに気付く。

「ねえ、なんで想太はここにいるの?」

「え? ダメなの? ここ、俺の家なのに?」

 朝香の思いに気付かない想太にはぁ~とため息を吐くと想太に対し朝香が言う。

「さて、問題です」

「え? 何? いきなりだね」

「いいですか? さっき、想太に提供してもらった布や道具がこちらです」

「うん、そうだね」

「では、私はこれから何を作るのでしょうか!」

「何って、下着だよね。さっき、そう言ってたし。正解でしょ?」

「そう、正解よ。それで想太は私が下着を作るところを見て、私がその下着を着けているところとか想像するのかしら?」

「しないよ。なんで?」

「だから、私の下着を見ないで欲しいって言ってるの! 分かった? でも、そんなに見たいならいつでも言ってくれればいいのに」

「あ、そうだね。ごめん。じゃ、俺は自分の部屋に行ってるね」

「なら、先にお風呂に入れば?」

「そうだね。じゃあ、お先に」


 想太がお風呂場へと向かい浴室の扉を開け、浴室に入ると浴槽内のお湯の温度を右手を入れて確かめると「ん、いい感じ」と、その場で服を脱ぎ洗濯機に放り込むと浴室の扉を閉め鍵を掛ける。

「絶対に来ないとは考えられないものな。念の為、一応、念の為の鍵なんだから」

 それから手桶を手に取り、浴槽内のお湯を掻き混ぜて掛け湯をしてから、浴槽に右足からゆっくり入り、左足も入れる。そして、そのまま腰を沈め、肩まで浸かると「ふぅ~」と思わず声が出る。

「やっぱり、日本人ならお風呂だよね~」

 想太が久々にお風呂を堪能し、そろそろ体でも洗おうかと思って、浴槽から出ようとしたところで、浴室の扉に人影が映り誰かの気配を感じる。

「誰かって一人しかいないじゃん。朝香、どうしたの?」

「想太、お湯加減はどう?」

「いい感じだよ。朝香はどうしたの?」

「どうしたのって……ん? 開かない? え、どうして?」

「朝香? 何してるの?」

「え? 下着が出来たから、想太の背中でも流そうかと思って……ダメ?」

「いや、ダメでしょ。何してるのさ」

「なんで? だって、誰も私達を止める人達はいないのよ」

「でも、ダメだから。ここに来てまだ何も分かってない状態なんだよ」

「え~そんなの後でどうにでもなるでしょ。想太のスキルで」

「ダメ、力に頼りっきりじゃダメになるから!」

「もう、分かったわよ。じゃ、その時はよろしくね」

 そう言い残した朝香が脱衣所から出て行ったのを確認してから、浴槽から出て頭、体をよく洗い、もう一度、浴槽に浸かって温まってから浴室を出る。


「ふぅ~気持ちよかった~それにしても、不思議だな。この家もそうだけど、電気に水道にガス……どっから来てるんだか」

『それは不思議でもなんでもないですよ。全てソウタのスキルですから』

「わかったよ。もう、深くは考えないことにした」

『それがいいですね』


 リビングに戻った想太が朝香にお風呂を勧めると「想太の残り湯……」と不穏な言葉を残し、風呂へと直行していった。

「あ……お湯は張り替えたんだけど、よかったんだよね」

『アツコに伝えておきます』

「ん。お願い。じゃ、朝香がお風呂に入っている間にご飯の用意でもするかな。冷蔵庫の中には……っと。うん、不思議だけど考えないことにしよう」

 想太は冷蔵庫の中から適当に食材を取り出し食堂のテーブルの上に並べる。

「あ、その前にお米をといで炊かないと」


 お米をといで炊飯器にセットしてからスイッチを入れてから、想太は食材を切って下準備を済ませる。そして切った具材を片手鍋に放り込みガスコンロに乗せると火をつける。


「これで味噌汁はいいでしょ。朝香の好きな具材は分からないけど、いいよね」

 想太は換気扇を回し、フライパンをガスコンロに乗せ火に掛け油を引くと食材を入れ炒める。


「そろそろ朝香も出てくるかな」

 想太はフライパンの火を強めにして仕上げに掛かっていると、バスタオルで髪を拭きながら朝香が風呂上がりのいい匂いをさせながら想太の隣に立つ。

「あら、いい匂い……もしかして想太が……って、二人しかいないもんね。本当なら私が作ってあげたかったのにぃ」

「ははは、それはまた今度の機会にお願い。今は俺の作ったものでガマンしてね」

「ガマンって、こんなにおいしそうなのに。そう言えば、想太の家は共働きだったよね?」

「そう、それで俺の料理スキルが上がったの」

「へ~想太が作っているって知ってればご馳走してもらうんだったなぁ~」

 調理し終わったフライパンをガスコンロから離し、それぞれの皿に盛り付けると、ご飯と味噌汁をよそって、テーブルに並べると、箸を朝香に渡す。

「はい、どうぞ」

「ありがとう。いただきます」

「いただきます……ねえ、朝香。アレって見える?」

「ゴクッ……アレって?」

「アレだよ」

 想太が朝香の視線を誘導し、食堂のテラス窓に涎を垂らしてへばりついてこちらを見ているモフッとした子供達がいた。

「ねえ? あれって大丈夫なの?」

「見たところ子供だし、危険はないかな。『地図』にも映ってないし」

『そうですね。見たところ獣人の子供で間違いないでしょう』

「こちらに危害はないの?」

『それどころじゃないみたいですよ』

「じゃあ、まずは話を聞いてみようかな」

 想太がゆっくりテラス窓に近付くと窓の外の獣人の子供も想太に気付く。

「ちょっといいかな?」

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