第4話 アレを作りましょう

『『え?』じゃないです。上にいるのが起きるまで時間もないですからね。では『時空魔法』スキルを取得しちゃいます。そして『亜空間生成』で別空間を生成します。あ、ついでに『異空間収納インベントリ』もサクッと作っちゃいましょう』

『ちょ、ちょっと待って! 詰め込みすぎ! いくら、ラノベで基礎知識があってもそんなにいっぺんには無理だよ!』

『そうですか? でも、もう作っちゃいましたよ』

 想太が止める間もなく脳内アシスタントの方で、サクサクと作業が進められてしまっては想太の存在意義が問われてもしょうがない。そう思うとついついこんなことをぼやいてしまうのもしょうがないだろう。

『ええ! もう、アツシ一人でいいんじゃないの』

『ソウタ、『アツシ』っていうのは……もしかして……私のことでしょうか?』

 想太が言った『アツシ』という単語に脳内アシスタントがまさかと思い想太に確認する。

『そうだよ。いつまでも脳内アシスタントじゃ長いし呼びづらいしね。イヤなら止めとくけど?』

『いえ、『アツシ』で構いません。ふふふ、私に名前ですか』

 想太に『アツシ』と名付けられ、脳内アシスタントの男性? はちょっぴり嬉しそうにしているみたいだなと想太は感じられた。

 そして、脳内アシスタントこと『アツシ』は想太に名前の由来を確かめる。

『それでなんで『アツシ』にしたのかをお聞きしても?』

『もう、そんな時間はないんでしょ? いいから、その別空間ってのを教えてよ』

『おや、意外とイジワルなんですね。まあ、いいです。名前のことはあとでじっくり聞かせてもらいます。まずは別空間ですが、そのまま『別空間』でもいいのですが、複数作れるので個別に名前を付けといた方がいいでしょうね。例えば、さっき作ったのは『寝室ベッドルーム』とでも名付けましょうか』

『『寝室ベッドルーム』か』

 想太が呟くと想太の目の前に別空間の入口らしい穴が空いている。

 見た目は普通の扉ほどの大きさの長方形の穴が空いている。

「お邪魔します」

 想太がそう言って、その空間に恐る恐る頭を突っ込むと、中は暗く何も見えない。

「暗いな」

『暗いなら灯りを点ければいいじゃないですか』

「灯りって、何ももってないけど?」

『ああ、もう。本当にラノベ読者なんですか? こういう時は『ライト』でしょ。ああ、そう言えばまだ『生活魔法』を取得してませんでしたね。では、取得……これで生活魔法の『ライト』が使えますよ』

「もう、好き放題だね。まあ、いっか。『ライト』うわっ!」

 想太がライトの魔法を唱えると真っ暗だった空間が灯りで照らされ、何もない十畳ほどの空間が現れる。

「へぇ意外と広いね。でも何もないや」

『はぁ~ソウタは何度言ったら分かるんでしょうね。だから、ないなら作ればいいといってるでしょ。こんな風に『ベッド』創造!』

 アツシが想太の脳内で唱えると、想太の目の前にシングルベッドが現れる。

『ね? こんな風にソウタの『創造』スキルは魔力を元になんでも作れるのですから』

 アツシにそんな風に説明されるが、想太にはイマイチピンとこない。

『まあ、そういう訳ですから。おいおい、慣れて下さい。本当なら、こんなところに押し込められることもなく、ソウタが一暴れすれば……この国どころか世界を手に入れることも出来ると言うのに……欲がないですね』

「そうかもしれないけど、手に入れたあとはどうするの? 俺には王様なんて無理だから」

『そうですか。では、気が向いたら言って下さい。お手伝いしますので。あ、そろそろ部屋に戻りましょうか。上のも目を覚ますでしょうし、呼びにくる頃合いだと思いますので』

「そんなこと言ってたね」

『そうです。早く部屋に戻って、あの人形を異空間収納に仕舞って下さい』

「仕舞うのはどうすれば?」

『簡単ですよ。手で触れて『収納』と呟くなり、頭の中で念じるだけです』

「分かったよ」

 想太は『寝室』から出て、ベッドで寝ている自分そっくりな人形に触れ、『収納』と念じると、人形は想太の異空間へと収納される。

『内容は『リスト』と呟くことで異空間収納の収納物一覧が表示されます』

「分かった。じゃあ試しに『リスト』……やらなきゃよかった」

 想太が『リスト』で確認した収納物一覧には『思井想太の擬態(未使用)』と表示されていた。『未使用』と書かれていたのが気になるところだが、聞いちゃいけない気がしてならない。


『コンコンコン』と想太の部屋の扉がノックされたあと、想太が返事する前に扉が開けられメイド服姿の女性が入ってくる。

「失礼します。これからのことについて説明がありますので食堂へお越し下さい」

 それだけ言うとメイドは部屋から出て行く。

「なんの話がされるんだろう。行きたくはないけど、この世界のことを教えてくれるって言うんだから聞いとかないとダメだよな~はぁ」

 ため息を吐き、部屋から出ると同じ様にメイドに言われたであろうクラスメイトが廊下に溢れている。

 その中に豪太の姿を想太は認めるが、積極的に話しかける気にはなれず、最後尾をそっと着いていく。


 長い廊下を歩きやがて食堂に着くと、長いテーブルがいくつか置いてあり、奧から順番に座るように指示される。

 やがて全員が着席し終わると、年配のメイドがベルを鳴らし注目を集める。

「食事の前に執事長からお話がありますので、大人しく聞くように。では、お願いします」

 メイドが一礼すると白髪をオールバックで纏め、モノクルを右目に着けた執事服に身を固めた老齢の男性が食堂に入ってくる。

「初めまして。執事長を務めております『トーマス』と言います。以後、お見知りおきを」

 そう言ってトーマスが優雅にお辞儀すると想太達も座ったままの状態でお辞儀する。

「それでは、食事の前にこれからの予定について、お話します。まずは……」

 執事長のトーマスが言うには、まずは文字の読み書きを覚え、それから貨幣価値や貴族社会の階級、市井の人々の生活様式に、この国の歴史などを半年掛けて教えていくと言われる。

「異世界に来てまで勉強かよ」

 ほとんどのクラスメイトが、その提案を受け入れているというのにそんなことを呟く奴がいる。

 するとトーマスが即座に「誰ですか」と座るクラスメイトに目を光らせると、一人が「お前じゃないのか」という風に隣を見ると、その隣の見られたクラスメイトも「お前じゃない?」と隣をみる。そんなことを繰り返し、最後には想太に全クラスメイトの視線とトーマスの視線が集中する。

「え? 俺じゃないよ」

「ふむ、あなたでしたか。ゴミみたいなスキルを三つも持っている希少な方は」

「はぁ……どうもです」

「まあ、あなたの声ではないですね。先程の声は覚えましたから。今後、発言するときは注意して下さいね」

「「「……」」」

 トーマスの言葉に緊張が走るが、想太には関係ないことと気にしないでいたが、アツシが面白い物を見付けたように想太に話しかけてくる。

『ソウタ、面白い物がみられますよ』

『面白い物?』

『ええ。先程の発言で明らかに嘘を付いたクラスメイトがいますよね。なので、どうにかして分からないかと、地図に表面温度や心拍数に発汗量が分かる様にしてみました』

『え? それっていわゆる『嘘発見器ポリグラフ』じゃない。よく出来たね』

『……』

『アツシ? どうしたの?』

『ふぅ~ソウタ、だから、あなたには『不可能』がないんですよ。まだ分かりませんか?』

『ごめん……』

 なぜかアツシに謝る想太に対し、『まあいいです』とだけ応えて想太に点滅している光点を鑑定するように言う。

『これがさっきの発言かました奴か……って、おい! これ豪太じゃん! 何やってんだアイツは……』

『どうです? 面白いでしょ』

『見なきゃよかったよ。最悪だ!』

『ですが、ソウタまで誘導するように仕向けたのは彼ですよ。鑑定したのなら、その理由も分かるのでは?』

 アツシが言うように豪太の持っているスキルを想太は確認している。

『なんでこんなのを選ぶかな』

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