無
単に経験値が足りていないだけか?とも考えたが、レベル1の俺が人一人殺してレベルが上がらない筈ないだろう。
んーっと、もう一度ステータスをよく見て思案する。
そこでようやくハッとして気付く。
「あっ…え、そういうことか!」
冷静になって考えれば、収納されているのか?
異空間に収納されたら、勝手に死ぬもんだと思ってたけど、異空間でも生きているのか。
生物を収納するのは今回が初めてだから盲点だったな。
「このまま、うんこみたいに抹消することは多分可能だけど、異空間の中がどうなっているのか気になるし、一回出して話を聞いてみるか。」
そうして俺は、異空間から双子スキンヘッドAをイメージして、さっき収納した時と同じ場所に出す。
ドサっという音とともに一匹のハゲが現れる。
だがどうやら様子がおかしい…呆然として何もない空間をただじっと見つめている。
正気に戻すため、軽くビンタしてみる。
ピチ!
「……」
あら、戻らない。
もう少し強めか?
ピチーン!
「……」
え、やっぱり死んでるんじゃない?
反応ないんだけど。
グーで行くか?
「グフっ……!?も、戻ってきたのか?」
結構強めで殴ったらようやく正気に戻ったみたいだ。
そこで早速スキンヘッドA君に異空間がどんなところなのか聞いてみようと呼びかける。
「ねぇ、ちょっといい?」
俺の呼びかけに気付いたスキンヘッドA君は、俺を見るなりものすごい勢いで、もはや見飽きた土下座をしてきた。
その行動に俺が頭上にはてなマークを浮かべて困惑していると、鬼気迫る様子で捲し立て始めた。
「お願いします。お願いします。お願いします。どうか、何でもやるのであの空間にだけは飛ばさないでください。お願いします。お願いします。お願いします。もう一度あの空間に送られるくらいならここで殺してください。お願いします…」
もはや懇願。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、俺の足に縋りついてくる。
俺にクソガキやら何やら言ってた時とは似ても似つかない状態だった。
見た目もどこかげっそりして、ほんの十分前くらいまでクローンのようにそっくりだったスキンヘッドBと見比べてみるとより顕著だ。
何があったのか詳しく聞いてみると。
返ってきた答えはすごくシンプルだった。
『無』
異空間は何もなかったらしい。
真っ暗闇で、音も光も何もない空間。
そして動くこともできなかったという。
指先一つでさえ動かせず、瞬きすらできない。
感じるのは足の痛みと、地面に打ち付けた顔の痛みだけ。
時が止まった状態で、意識だけがハッキリしているようだったと。
異空間に入っていたのはほんの十分やそこらだろうに、これが永遠に続くと思ったら怖くて仕方なかったのだとか。
その話を聞いて、俺も確かに覚えがあった。
時間感覚というのは、自分の精神による影響を受けやすい。
幸せな時間というのはあっという間に過ぎ去っていき、辛い時間というのはいつまでもその場にとどまっているように長く感じるものだ。
地下牢での拷問の時がまさにそうだった。
一秒が一分に。一分が一時間に。
感覚が薄く引き伸ばされる。
こいつも異空間に入っていたのはたかが十分でも体感は何時間、いや何日間も経っているように感じていたのだろう。
ここまでスキンヘッドAの話を聞いて、俺が感じたのは…
この技…惨すぎる。
技っていうか、ただの基本性能なんだけど。
自分の能力ながら恐ろし過ぎる!!
おそらくスキンヘッドAの話が聞こえていたのだろう、バーコードとスキンヘッドBもミシンのように震えながら、土下座を再開している。
魔力消費なしの初見殺し技をゲットしたと思ったら、同時に最強拷問技まで身に付けちゃったよ。
あ、これ今度絶対アンスリウムに使ってやろ。
インターバルにして、徐々に時間伸ばしてやる。
今思えば、優しくしすぎたしな。
まだ、ソファーに座ってる時の足置きにしたり、異世界料理と称して生ゴミとか家畜の糞くらいしか食べさせてないもんな。
ボックスの安全性が確かじゃなかったから、派手にやり返せなかったし、ちゃんと泣かしてないから丁度いい。
そもそもアイツ電流攻撃が嫌すぎてめちゃくちゃ従順だし。
でも安心してくれ、これは痛くもないし傷も残らない。
心は知らんけど。
ふふ、城を出て数時間でまた会う楽しみができるとはな。
ボックス様様だ。
にしても、異空間では動けないのか。
それなら、徐々に体を抹消していくこともできるのか?
俺のイメージ次第で、指から始まり、手首、肘、肩と続けて消していくことができたりするのか?
もし仮に出来たとして、異空間では時が止まっているから痛みはあるけど、死なないままその状態が維持されるのか?
その状態が保たれるならどこまで人は生きながらえるのだろうか?
まずい。
我ながら凶悪すぎる固有スキルの使い方を考案している気がする。
だが、思い付いたなら確かめたい。
今更、俺に危害を加えようとしたこいつらを殺すのに何の躊躇もないし、遠慮なく試させてもらおう。
チラッ
思考に裂いていた頭を切り替え、身を寄せ合いながら怯えているハゲ三兄弟に視線を向ける。
「「「ビクッ」」」
視線を向けただけなのに、ものすごく驚かれてしまった。
でも、そりゃ怖いよな。俺でも俺が怖いもん。
真っ暗闇で動けず、意識ははっきりで、痛覚はあるって地獄じゃん。
でも物理的な時間は止まっているから、出血死することも老いることもはない。
それって、俺の気分次第で無期懲役ってことでしょ。
え、かわいそう。
でもカツアゲして来たのそっちやん。
正当防衛じゃん。
過剰防衛とか言わせないよ?
心が少し痛むが過去の自分の行いを精々後悔してくれ。
後悔先に立たずって言うだろ?
そして俺は、三人の目の前にまでゆっくりと移動して再びボックスを出す。
ボックスが出た時の三人の顔はまさに絶望の顔文字のようであったが容赦なく収納していく。
このままにしておくとどっちにしろ出血多量で死ぬし、被験体に普通に死なれたら困るからね。
それなら、収納しておくのが丁度良い。
どんなにひどい怪我でも、収納された時点で生きていれば死ぬことはないと今分かったところだし。
そして、早速ボックス内にいるスキンヘッドAから実験しようと、イメージを膨らませようとした瞬間…
グゥ〜〜っ
自分の腹の虫が大きく鳴いた。
「一先ず、今日は何か食って宿屋を探すか。」
思えば、冒険者生活初日だというのに、早々にイベントに巻き込まれ、色々な発見もあったからだいぶ気疲れしている。
まだまだ試したいことはあるけど、それはまた夜にじっくりやればいい。
三人には夜まで我慢してもらおう。
今からゴブリン退治するってのはなんか気が乗らないし、今日は思い切って早めに休むとするか!
先は長いんだ、明日から頑張ることにしよう。
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