第17話 遊楽病
教壇に立つ“月岡京二”
太刀をもってヤンキーの首を狙う“月岡京二”
この空間には今二人の同一人物がいた。
「さぁ、戦場では“よ~い始め”なんて言葉はないんだ。これで少しは俺の力量が見えるかな?」
刀の刃先を喉元に突き立てるように傾き方を変えたのでその太刀は天井からの光を大きく反射して簡単にも首が吹き飛ぶことを想像させる。
ヤンキーはもはやそう呼べないほど委縮している。その上で後ろにいる月岡にだけ聞こえる声で「すまなかった」とつぶやいた。
俺は心の中で思わずガッツポーズをしてしまった。同時に流れが上手くいきすぎて仕込みなんじゃねという考えが俺の中に浮かんだ。
「すげ~」
「かっこいい。」
「あの鋼部(こうべ)を黙らせるのかよ!」
能力を解除して分身体を消せばより俺への言葉は多くなる。
所々から聞こえてくる称賛の嵐にここ最近の失敗の数々が洗い流されていくようで、俺は不思議と瞼に涙が貯まっていた。
「いいかい!今見せたのは俺の力の一つだ。」
涙ぐんだ声は月岡のつけているインカムがマイクとなって接続されている部屋のスピーカーから響いている。
「授業の再開ということでまずは“病の祝福”の説明から始める。
おそらくみんな知ってると思うけどこの力の発現から現在世界と日本が対立している第四次世界大戦が始まった。」
話しながら正面の黒板にでかでかと「病の祝福」の文字を書き入れる。
「まずはなぜ突如世界に現れた異能力の名前に“病”と“祝福”の文字が入っているかだ。
一般にはこの力の取得方法の説明はされていないから知らない人が多く、噂で聞いたことがある程度だと思う。ちなみに知っていて説明できる人間はいるか?」
席にちょこんと座っている約100人の人間は友達同士で顔を向きあわせたり怪訝な顔を浮かべたりするばかりで、誰一人自信をもって俺の質問に答えようとする者はいない。だが、元気に声を発する人がいないだけで、俺に聞こえる声で口々に“
「まぁ、病気は発症した時期と戦争が始まった時期は近かったからいくら全世界の政府が情報統制をしても予想はつくわな。お前らが言っている通り、“遊楽病”こそがこの力の発端であって、世界に災いをもたらした元凶だ。じゃあ、遊楽病についてはお前ら知っているということだからそこの女の子、説明してくれ」
俺が指をさして指名したのはポニーテールの女の子。決して俺の好みだったからではない、決して……。
少し後ろで観多がにちゃっと笑っているが、決して……だ。
「遊楽病は病気にかかる…と、その後5人に3人が死んでしまう…病気…です。」
「そうだな。それが世間一般に広まっている遊楽病だな。だが、実情は違う。遊楽病は死の病だがそれとは別の面を持っている。それが病気にかかった人間に異能力を授けるといったものだ。
5人に3人が死んでしまう病気というのはあっている。だがが数日間続いてと簡単に言っていたがそれだけでなく、その数日間は人によって症状の重さは変化するけども倦怠感や吐き気、空腹感がずっと続く。だけれども残った人間の8人に1人、つまり遊楽病にかかった人間の20人に1人は
まぁ、言いたいこことしてはこの病気の恐ろさは病の祝福を手に入れてからだということだ。」
ざわつく教室。この事実に驚く観多。「おい!」とツッコみたい俺。さっきまでとは違った空気が流れていた。
「ここまで聞けば生き残って病の祝福を得られればとても幸せになれると思われるだろうがこの力には代償がある。それは病の祝福を発動させると遊楽病にかかったときと同じように体温が40℃まで勝手に上がって体力をごっそり奪っていく。だからこそ病の祝福に慣れなどで耐性がない人間はすぐにへばって、場合によれば死ぬ。
つまり、病の祝福はただのギャンブルだけでない怖い側面を持っている。
だがな、悪いことだけでもない。病の祝福を手に入れられれば軍からの招待があり、それを受ければすぐに将校位である准尉まで昇進している状態で入隊する。まぁ、この軍学校に通っているならそのうちに自分から遊楽病にかかって病の祝福持ちになるか、一兵卒になるか迫られるから考えとけ」
重たい雰囲気。
わかってはいたがやはり重い。本職の教師でないため、俺にはどうしたらいいかわからない。
「ん、ん~」
強く咳払いをするも効果なし。
「あー、じゃあ、病の祝福持ちになったらの説明すっか。」
大きな独り言。
「さっき遊楽病の話をしたな。まずは病の祝福持ち、全員に共通することだ。病の祝福は遊楽病が完治すると発現するらしい。それで、その見分け方法兼全員に共通することだが、それは右手甲に現れる紋章だ」
月岡は自身のインカムに内蔵されているカメラを通して自身の紋章を見せる。
その紋章は斜めに切られた竹を模したもので、童話のかぐや姫が出てきたような“竹の絵”であった。
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