第四次世界大戦

晩ノ浦 大成

プロローグ

プロローグ 人の世

「ん?あー、俺だよ俺。月岡京二つきおかけいじだよ」


 天守閣の上で右耳インカムを押さえ、所々に光る城下の明かりを見下ろす男が一人。

 肩までかかる真っ白の髪を後頭部で一つに束ねた男は優しく不敵な笑みを浮かべながらも目は笑っていない。

 うそぶくような口調と掴みどころのない声。だがとてもゆっくりとした声はお落ち着き払っているのでその低い声は闇夜に溶け込んでいる。

 黒を基調としているが袖などの端だけは赤い布で装飾された軍服。これを着込んだ彼の身もまたこの夜の一部となっている。


「……了解。」


 男の目の前に浮かんでいる空中のタッチディスプレイには

         ——2193年5月7日——

 この文字だけが浮かんでいた。



 かつては二度も徳川からの進行を受け、なお跳ねのけた不落の城“上田城”。戦国時代に作られた城下町のつくりは原型を留め、現代での戦争ですら各国の進行をも止めうるほどの構造となっていた。智将真田昌幸、真田幸村に造られたこの城は強固と言わざるを得なく、籠城する場所に日本ではここ以上の場所はない。

 こうなってしまったのも“第四次世界大戦”もとい“対日戦争”の引き金となった「東京総19区喪失事件」からだ。そのため天皇をはじめとした残された日本の主要人物や一般人は移動を余儀なくされた。東京総19区喪失事件の裏では名古屋、京都でも同様にテロにあっていたことで日本の主要都市は全壊。逃げるように疎開場所を探した結果長野県、その中の上田市が現在の日本の首都になった。

 この状況のもとを辿れば第三次世界大戦で日本が世界に圧勝し、すべての国を植民地化してしまったのが悪いのだろう。たった一か月の第三次世界大戦。物理的な人を用いた戦争は効率と利益率が悪いと察した各国はサイバー戦争を仕掛けた。軍力とは違い、個々の力が勝利に直結するためどの国も同盟を組もうとはしなかった。

 もちろん日本もだ。

 その結果としてあまり美しい未来ではなかったが日本の一人勝ちと全世界の支配を生み出した。

 100年ほど前に終結した第三次世界大戦。そこから100年間支配され続けた世界中の人たちの恨みはどれほどのものであっただろうか。他人の気持ちを考えられなかった日本人にはこの現状は妥当と言えるであろう。

 それを裏付けるように第四次世界大戦は今までの戦争とは一線を画し、どんな場所でも人と人とが引き合えば戦いが起こった。

 それはここ上田城でも……

「月岡中尉、今はお時間よろしいでしょうか。少しお話したいことがあります。」


 第一次世界大戦は銃、剣、毒ガスを用いた“白兵戦”。


「大丈夫だよ。君はたしか、、、来栖くるすくん、、、だったっけか。どうしたんだい、そんな物騒なもの構えて」


 第二次世界大戦では飛行機、船、核爆弾を用いた“兵器戦”。


「覚えていただいて光栄です。早速ですが見ての通り死んでください」


 第三次世界大戦ではインターネット、サーバー、ハッキングを用いた“サイバー戦”。


「そうか、アメリカか……。僕は大事な部下に裏切られた上に銃口まで向けられて悲しいよ」


 ならば、第四次世界大戦はどうだろうか?


「そりゃどうも。じゃああの世で存分に悔いてくださ~い。私はあなたのことが人として好きでしたよ。病の祝福ギフト——“見えざる人ゴースト”」


 そう———


「チッ、病の祝福ギフト——“かぐや姫”」


 ———第四次世界大戦は“異能戦”だ

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