【連載版】一人暮らしは寂しいのでメイドを雇った俺、雇ったメイドがヤンデレだった件

友宮 雲架

第1章

第1話 メイドと暮らす前までの俺


 両親が脱線事故で他界した。高校に入学してすぐのことだった。その日、両親は祐介ゆうすけの入学祝いのケーキやノート、それから必要な物を買う為に電車でデパートに行っていた。事故に遭ったのはその帰り。

 駅の事務員の方から電話が掛かってきた時は耳を疑った。


 何で俺の親が。

 もう一本前の電車に乗っていれば……。

 俺なんかの為に買い物に行くから。

 俺のせいで。


 自分を責め、たらればが何度も頭に浮かんだ。けど、後悔したって親が帰ってくる事は無い。


 テレビをつけると丁度ニュースで事故のことが取り上げられていた。


 それがどうも不愉快過ぎて、テレビを蹴った。何度も蹴った。夢であって欲しいと僅かな願いを込めて。


 タイミング悪すぎるし、神を呪った。楽しい高校生活が待っている、と心から信じていたから。それを神は裏切った。

 両親の後を追って自殺を考えるほどに祐介の心は荒んでいた。


 引き取ってくれる親戚は居らず、彼は一人暮らしをする事になった。兄弟姉妹もいなくて、ご近所付き合いも殆ど無い。正真正銘の一人ぼっち。


 だが、そんな生活は1ヶ月も経たずにリタイア。

 毎食カップラーメン。荒れ狂う部屋。洗濯機の操作方法が分からず、洗濯出来ない故の毎日同じ服。せめて下着くらいは洗おうと手洗いを試みるものの、更に悪化し臭くなった。


「味、しないな」


 そう一人呟き、ゴミに囲まれながらトマト味のカップラーメンを食べる。昨日はシーフード味だった。


 味がしないのは両親を失い、一人だからか、ゴミに囲まれてるからか、単純に味覚がおかしくなったからなのか、祐介には分からない。


 ただ言えるのは味がしない料理を食べる日々が続くのが苦痛なだけ。


 カップラーメンを食べた後はそのままにしておく。


 不意に自分の服の匂いを嗅いでみた。


「くせっ!」


 汗と老廃物の臭いがぷんぷんする。

 シャワーは浴びれるから、身体は綺麗なものの、服が足りない。


(もうダメだ……)


 畳でごろんする祐介。

 正直、一人暮らしがここまで寂しいなんて思ってもみなかった。家事だって限界を迎えてるし。このままだと例の虫が発生してもおかしくない。それにどこに何を置いたのかさえも分からない散らかり様。

 両親の遺産は結構あった。でも家事が出来ないんじゃ意味が無い。それに物欲もそんなに無い。


 何か打開策がないかとスマホを開く。


(ここに家事をやってくれる誰かがいたらなぁ……)


 そんな思いで『使用人依頼』と検索をかけてみる。


 すると『美少女メイド館』というサイトに飛んだ。で、何故か百人以上メイドがいるのに残っているメイドは3人ほどだった。彼はその中でも一番料金が高いメイドを指名した。


 どうやら電話で契約するらしく、メイドの個人ページへ進むと右上に電話のマークが表示された。躊躇いつつも電話マークを押してみる。すると程なくして繋がった。


「――初めまして。メイドの神崎かんざきと申します。ご主人様がお電話を掛けられた、という事は契約という事でよろしいのでしょうか」


「もしもし。佐々木ささき祐介ゆうすけといいます。はい、そのつもりです」


 素性の知らない、ネットを介した人間に名前を名乗るのは不安もあった。でも生活の為だ。妥協するしかない。

 それにこの神崎というメイドが本当に家に来るのか、についてもにわかに信じ難かった。


「承知致しました。では、契約するにあたって簡単な質問と説明をさせて頂きますね」


「はい」


「貴方は主なので、話し言葉でお願いします。実際、同居するようになってからも継続です」


「分かった」


「ご主人様のお名前は佐々木祐介さま。確認するまでもないですが、男性ですね?」


「ああ」


「ご年齢は?」


「15」


「ひょっとして高校生でしょうか。そしたら、留守の間はわたくしが家をお守りします。詳しい説明は後ほど」


「ご自宅は何処でしょうか?」


「東京」


 それから食物アレルギー、家族の有無、生年月日など色々質問された。


 そしてこれが最後の質問らしいのだが――。予想外の質問過ぎて、彼はびっくりしてしまった。


「現在好きな人はいますか?」


「……」


 数秒固まった。


「……っ! 何でそんな事……!? いないけど」


「そうですか(ホッ)」


 途端、神崎の声が優しくなった気がした。


「それと費用についてなのですが、月に14万払って頂く事になります。払えなくなった場合、契約解――んんっ!」


 咳き込むような声が聞こえ、突如音声が途絶えた。


 心配になった祐介は何度も声を掛ける。


「大丈夫か? どうした? おーい」


「……すみません。ごほん。ご主人様とこのわたくしが契約解除だなんて、ありえません!! だって、運命で引き寄せられた間柄なんですから」


(? 誰も契約解除なんて言ってねーよ)


 けど、分かった。

 金が払えなくなると、契約は解除されるということ。でもうちの莫大な遺産なら、それはありえないと思う。


「それでは明日、お迎えに上がります。ご主人様のお顔を生で見られるの、楽しみにしております」


「うん。俺も楽しみにして待ってる」


 どうやら、急遽、明日来るらしい。

 久しぶりに聞いた女性かんざきの声は優しくて、安心出来た。一人でいる寂しさが少し和らいだ気がする。


 神崎を母親と重ね合わせる事は無かった。神崎のほうが声質的に若い気がする。もしかすると祐介と年が近いのかも、しれない。


 祐介は『美少女メイド館』がメイド依頼サイトと謳ったマッチングアプリだとは知らず――

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