第27話 開戦

「レオさん!」


 近付いてくる女勇者3人に対し、なんの行動も取れない俺の前にアンナが割り込んでくる。

 剣を抜き、盾を構え俺に3人が近付けないようにと警戒する。


「はぁはぁ……邪魔、退いてよ」


 瞳と呼ばれた目を覆い隠す程に髪を伸ばした女がアンナに向けていくつもの火球を放つ。


「なんの!」


 アンナは全ての火球を盾で防ぎ、お返しとばかりに【飛翔閃】を繰り出すが、防御魔法で防がれる。


「なんで邪魔をするの? あなたはだぁれ? うちのレオくんのなんなの?」

「嫁ッスよ!」


 矢場井佳奈の質問に胸を張って答えるアンナ。

 それ悪手……


「は? レオにぃのお嫁さんは兎斗だよ?」


 妹尾兎斗は腰の細剣を抜いてアンナに斬り掛かる。

 アンナはそれを上手く盾で捌くが、少しだけ押されているようだ。


「レオくん? うち以外にお嫁さんが居るとかどういうことなの?」

「ひっ……」


 アンナが妹尾兎斗にかかりきりになってしまったので2人が接近してくる。


 俺も応戦しようとするが、体が震えてうまく動かせない。


「御館様! しっかりしてください!」

「フィリップ! 御館様を頼む! 儂は出るぞ!」


 近寄ってくる矢場井佳奈に対し、ジェイドが飛び出して槍を振るう。


「ジジイは引っ込んでろ!」


 矢場井佳奈も武器を取り出してジェイドの槍を弾き飛ばそうとするが、ジェイドは熟達の戦士、そう簡単に弾かれるようなヘマはしない。


 てか、矢場井佳奈の武器ってあれ出刃包丁じゃね?

 怖すぎる……


「させん!」


 矢場井佳奈の出刃包丁に目を奪われていると、真横からゲルトの叫び声が聞こえてきた。


 ゲルトは巨大な水球を作り出し前方へ放つ。

 瞳が放った火球と空中で衝突、相殺した。


「御館様! しっかりしてください! ウルト様を!」

「あ、ああ……」


 危ない、完全に呑まれてた。

 一度大きく頭を振ってごちゃごちゃしている頭の中をリセット。

【トラック召喚】を使いウルトを喚び出そうとするが……


「あれ?」


 反応が無い。

 どうやらこの結界の影響で外部との繋がりは断たれているようだ。


「なら……」


 倒すしかない。

 少なくとも結界を張っているあの瞳とか言う女さえ無力化すれば結界は消えるだろう。


【聖剣召喚】で勇者の聖剣を喚び出し構える。

 良かった、これは使えるようだ。


「ぐっ……!」

「死んで? レオにぃと兎斗の邪魔をするならさっさと死んで?」


 瞳に向かって飛び出そうとしたところ、アンナが妹尾兎斗に押されてかなりピンチだということに気付いた。


「フィリップ! あの魔法使いを狙え! 俺はアンナを助けに行く!」

「かしこまりました!」


 アンナは俺の嫁、守らなければならない。

 フィリップに瞳を任せアンナの下へと駆けつける。


「アンナ!」

「レオさん!? 大丈夫なんスか!?」

「大丈夫だ、一旦下がってイリアーナに回復してもらって来て」


 近くで見ると、アンナは結構傷を負っていた。

 俺が不甲斐ないばかりに申し訳無い限りだ。


「レオにぃ! 退いて! そいつ殺せない!」

「殺させねぇよ!」


 しかしなんだか体が重い……

 完全に外部との繋がりを断たれているのであれば、もしかしたらウルトとの同期も切れているのかもしれない。


 全ての身体強化系スキルを発動、これでもようやく普段より少し強化された程度か……


 援軍は……無駄だな。弱いやつが参戦しても巻き込まれて死ぬだけか。


「レオにぃ……いくらレオにぃでも兎斗の邪魔をするならちょっと痛い目見るよ?」


 兎斗は手に持つ細剣の切っ先を俺に向けてくる。


「当たり前だろ。嫁を守るのは旦那の義務だよ。アンナを殺させるわけにはいかない」


 俺も聖剣を構える。

 勝てるかどうかはわからないが、まぁ死なないように頑張ろう。


「さっきまで震えてたじゃん。さっきのレオにぃ可愛かったよ?」

「うぐ……」


 精神攻撃やめろ。それは心が抉られる。


「でも、今のレオにぃは可愛くない」


 言い終えるのと同時に踏み込み、細剣を突き出してくる。


 早い……でもこれくらいなら対応出来る。

 体を傾け回避、一応は幼馴染なので殺すのは躊躇われる……


 なので突き出されたその腕を断つつもりで聖剣をを振り上げる。

 しかし一瞬躊躇ったのがいけなかったか、腕を引いて躱されてしまった。


「レオにぃ、ちょっと痛いけど我慢してね? その両腕と両足が使えなくなっちゃうかもしれないけど、ちゃんと兎斗がお世話してあげるからね。レオにぃは全部兎斗に任せてくれたらいいからね?」


 こわいこわい……


「ご飯も食べさせてあげるし、お風呂も入れてあげる。うんちやおしっこだってレオにぃのなら汚くないから兎斗が全部片付けてあげる。それに……えっちなこともたくさんしてあげるから、ね? 兎斗のものになろ?」

「やだよ!」


 言っていることはマヌケだがその攻撃は鋭い。鋭い突きが正確に俺の腕や足を狙ってくる。


「なんで? なんで嫌なの? あ、あの女が居るから? 大丈夫、レオにぃが動けなくなったらちゃんとあの女殺すから。だから安心してね?」

「何一つ安心出来るか!?」


 腕に向けて突き出される突きを交わ躱し足に向けて突き出される攻撃を弾く。


「なんで安心出来ないの? あ、そっか、大丈夫、佳奈さんと瞳さんも兎斗がちゃんと責任を持って殺すから大丈夫!」


 どうしてこうなった?

 昔はもっとこう……素直で優しくて明るい子だったのに……


 しかしアレだ、負けないけど勝てない。

 攻撃が鋭すぎて反撃の隙が無い。


 アンナが戻れば勝てるだろうが、アンナと兎斗を向き合わせたくない。なんだか怨みブーストかかりそうだし。


 それを言ったらこの3人の誰と戦ってもそうか……


 これは……困ったな。

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