第25話 参陣
聖都出発からおよそ2週間、防衛を行う国境付近の平原までようやく辿り着いた。
この2週間、中々に大変だった。主に兵士が。
ちょうどいいからとゲルトの指示で野営訓練を行いながら見つけた魔物を片っ端から狩っていく中々のハードスケジュールだったのだ。
魔法使いのくせに脳筋かよ。
俺とアンナ、イリアーナは最初は一緒に野営していたのだが、3日目くらいから俺の転移で領都に戻って城で休息を取るようになっていた。
決して野営に飽きたわけではない。
俺たちが居ると警備に気を使って大変だろうと兵士たちの疲労を考慮した結果転移で帰ることにしたのだ。
繰り返す。決して野営に飽きたわけではない。アルスが可愛いのがいけないのだ。
まぁそれは置いておいて、教国軍に合流した俺たちは本陣に控える王太子に挨拶をしてからクリード侯爵家の陣地作成に取り掛かる。
「御館様、食事をお願いします」
「はいよ。今日は時間もあるし作ろうか」
そろそろ日も傾き始めた頃、一通りの作業も終わりが見えたので夕食の支度をすることにした。
今日はようやく到着したということで少し豪勢にして兵士たちを労うかな。
「ということでミノタウロス肉です」
「おぉー!」
30キロはありそうな肉塊を取り出すと、兵士たちから歓声が上がる。
「俺は準備があるから切っといて」
「かしこまりました」
【無限積載】から作業台と切れ味抜群の剣を取り出し近くに居た兵士に手渡す。
これで肉は大丈夫だな。
「そっちのお前らは野菜を切っておいてくれ」
肉を眺めてヨダレを垂らしている兵士を呼んで玉ねぎ、ピーマン、椎茸などバーベキューに必須な野菜とナイフを押し付ける。
他にも帝国やヒメカワ領で購入した海鮮も適当に取り出しておく。
それらを見ていた兵士たちの目がギラついているのが感じられた。
そんな兵士たちにかまどを組ませて網と皿、タレなどを配り準備は完了、クリード侯爵家主催バーベキューパーティーが開催された。
「美味い!」「来てよかった!」「御館様最高!」などと兵士たちは大盛り上がりでバーベキューパーティーを楽しんでいる。
「御館様、焼けましたぞ」
「ありがとうゲルト」
俺はそんなパーティーの中心から少し離れた位置でゲルトやジェイドたちと一緒に楽しんでいた。
楽しいバーベキューパーティーの真ん中に上司が居たら部下たちは心から楽しめないだろ?
少量だが酒も配り兵士たちを慰労する、こういう機会も大切だろう。
「クリード侯爵、楽しそうだね」
「これはライノス公爵にヒメカワ伯爵、お疲れ様です。一緒にどうですか?」
「いいのかい?」
「もちろん」
【無限積載】からテーブルと椅子、それから取り皿とタレ、箸やフォークを取り出し2人に勧める。
席に着いた2人の取り皿にゲルトが焼きあがった肉や野菜を載せていく。
「お付きの方ももうぞ」
「いえ……我々は……」
「いいから頂いておきなさい。クリード侯爵、感謝するよ」
2人の護衛にも皿を渡してバーベキューを勧める。
この状況で食べれないとか下手な拷問より酷いだろう。
あっという間に出した肉も完食、追加で取り出した肉も消えた頃アンドレイさんとヒメカワ伯爵の食事も終わったようだ。
「ありがとうクリード侯爵。美味しかったよ」
「あれは何の肉なのだろうか? あんな美味い肉は食べたことがない」
「あれはミノタウロスという魔物の肉ですね。帝国領にある迷宮の9階層に現れる魔物です」
2人は俺の説明を聞いてぎょっとする。
あれ? ヒメカワ伯爵は分かるけど、アンドレイさんにも出してなかったっけかな?
まぁいいか。
「それで……なにかお話があったのでは?」
そう聞くと、2人は顔を見合せてからアンドレイが話し始めた。
「そうだった。そろそろ王国軍の準備も整う頃だと思われる。それをクリード侯爵の力で監視して貰いたいんだ」
なるほど、それなら【傲慢なる者の瞳】を使えば簡単に監視出来るかな。
「了解しました。とりあえず見て見ますね」
早速【傲慢なる者の瞳】を発動させて王国領の様子を伺ってみる。
「国境砦から東に……10キロくらいかな? 大きな街に軍勢が留まっていますね」
見えたものをそのまま報告。ウルトなら軍勢の人数まで把握出来るだろうが俺にはそこまでのことは不可能だ。
「東に10キロ……となるとオーリブ辺境伯領の防衛都市オイールか」
「あそこなら10万を超える軍勢でも駐留可能か、準備が整い次第攻め込んでくるだろうね」
オーリブ辺境伯……オイール……オーリブオイール……オリーブオイル……
「予測ではもう間もなく……クリード侯爵、毎日数回確認してもらうことはできるかな?」
「もちろんです。なにか動きがあればすぐに報告します」
2人は俺に頼み事をするとすぐに戻って行った。
なんで2人で来たんだろう? 仲良しなのかな?
それから野営準備を整え就寝、さすがに初日から城に帰るのもどうかと思ってね。
翌日から午前中に2回、午後に4回の【傲慢なる者の瞳】による監視を行いながら過ごすことしばし、遂に王国軍が隊列を整えてオイールを出発した。
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