(一)-5

 「アイアンズ曹長」と言われてすぐには誰かわからなかったが、数秒考えを巡らせると、思い出した。ズキズキ痛む俺の左頬を殴ったあの若造のことだ。

「現在この演習場から徒歩で移動、南下しているそうです」

「何分前だ」

「二〇分程前です」

 二〇分も寝ていたのか、俺は。喰らったパンチはたった一発だったのに。起こさなかったのは仲間の親切心か、それとも脱走兵トラブルがあったからなのか。

「それで」

 そもそも脱走兵を捕らえるのは特殊部隊の仕事ではない。ただ、脱走している米兵も特殊部隊員だ。抵抗されたら一般兵やMP程度では、逮捕は困難だろう。


(続く)

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