第15話「新米」

「頑張ります!」


僕は、そのカードを受け取って、高らかに声を上げた。


やった……やった……!!

ついに念願のヒーローになることができた!

ランクはまだEだけど……いずれはA……いや、Sに……!


その厳しい世界についてよくわかっていなかった僕は、スタートラインにようやっと立っただけで、浮かれていた。


僕の名前は多田興生、養成所を卒業してヒーローになった新人だ。

能力はワームホール。

空間のある点を結ぶことができて、一瞬で移動することが可能な能力だ。


「ヒーローになったはいいけど、まだ単独でできるような仕事はないよなぁ……。Eの人たちと組まないと……」


なんて呟きながら街を歩いていると、突然悲鳴が上がった。


「行かなきゃ……!」


即座に悲鳴のするところへと駆け出していく。

そこに到着すると、女の人が1人、屈強な男の人が2人いた。

男が女の手を掴んでいることから、タチの悪いナンパの類だと予想する。


「手、話してあげたら?」


「あぁ!?なんだてめぇ」


「僕は……ヒーロー、だ」


「ヒーローかぁ……そうかそうか」


言いながら、そいつら2人はジリジリと距離を詰めてくる。


「何?」


「別にぃ?ただ……俺らも能力者なんだわ」


そう言い放ち、片方が僕に向けて何かを飛ばしてきた。


液体……いや、おそらく酸の類……。

とりあえず被弾は避けたいな。


考えつつ、能力を使いその飛来した何かを別のところに飛ばす。


その液体が触れたところは溶けていった。


「ちっ!」


その舌打ちを意にもせず、反撃を仕掛ける。

何もないところに拳を放つ。

しかし、その拳はその男に当たっていた。


「いっ……てめぇ……!」


ワームホールを攻撃に応用するならこうしかない。

手の先の部分を相手の目の前と繋げることで、離れた位置からでも拳を当てられる。


「もう、こんなことするなよ」


その言葉と共に、僕はその場を制圧していた。


「はぁ……はぁ……」


初仕事で緊張していたためか、めちゃめちゃ息が上がっていた。


でも、これで分かった。

僕も充分戦える!


「ありがとうございます!助けてくれて」


「いえいえ、ヒーローとして当然ですから」





ヒーローになってから、2週間が経った。

パトロールなどにも慣れて、余裕が生まれてきた。


その日の朝、いつも通り朝ごはんを食べていると、HMOからメールが届いた。


『ある屋敷にて大量殺人発生。その屋敷の捜索に協力してくれるヒーローを集める。犯人は逃亡した模様なので、ランクは問わない』


……なる、ほど。

これは行くしかない……何か証拠を見つければ昇級チャンス!


「えっと……日時は……」



当日、その屋敷にまでやってきていた。

集まったヒーローは20人。

しかも、そこにはこの国なら誰もが知る有名ヒーローがいた。


「仮面だぁ……!」


目を輝かせていると、捜索が始まってしまった。


この屋敷は2階建。

たくさんの部屋があり、マジででかい。


とりあえず、この部屋を見てみようかな……。


_________________



屋敷の調査……か。

大量殺人……。


俺の直感が告げていた。

この殺人と、先の魂の件とは関係がある。

おそらく、同一犯の可能性が高い。


「ランクは問わない……なら、行くか」


現場には20人のヒーロー。

平均ランクはD……かな。


「ま、何とかなるだろ」


なんて呟きつつ、その屋敷に入る。

死体は流石に撤去されてる……が、多少の血痕を見ることができた。


……思い違いか?

魂を抜き取れるなら、血は流れないし……。

いや、抵抗して少し流血する、なんてことがあったかもしれないな。


と、いろいろ考えながら捜索を続ける。

しかし、これと言って犯人に関わることは何も出てこなかった。


「……何が目的だ?」


そう呟いた瞬間だった。

この屋敷に、ヒーローではない、別の魔力が入って来るのを感じた。

しかも、周りのヒーローと比べて数段大きい。


まずいぞ……まさか、犯人が戻ってきたんじゃ……。


刹那、1つの魔力が消え、同時に悲鳴が上がった。


「死んだ……?」


_________________



「なーんもないや」


凶器やら何やらも出てこないし、人がいるわけでもない。


「はぁ……次行くか」


隣の部屋を探索していると、近くから悲鳴が聞こえてきた。


まさか、犯人が?

行かなきゃ……大丈夫、僕なら倒せる……それに、仮面だっている。


「ここか……何があっ……た……」


目の前には、虚な目をしたヒーローがいた。


「な、何が……」


少しずつ近づき、それに触れる。


……心臓が止まってる……死んでるのか!?


「下がれ!!」


「え?」


突然の掛け声に反応が遅れてしまい、思わず目をつぶってしまった。


しかし、何も感じなかった。


まさか、こんな一瞬で死んだというのか?


恐る恐る目を開けると、目の前には僕を庇って攻撃を受けたヒーローの姿があった。


「あ、あの……」


声をかけても、返事はない。

心臓に手を当ててみると、止まっていることに気がついた。


「あ、え……?ちょっ……は?」


死んだのか、この一瞬で、この一撃で……僕を庇った、それによって。

それが分かった瞬間、吐き気が僕を支配した。


すんでのところで胃液を再び胃に流し込む。


とりあえずこいつを倒さないと。

当たれば即死、でも、僕には関係ない。

だって、攻撃なんて当たらないから。


ワームホールを繋いで、放たれた攻撃をそのまま相手にあたるように仕向ける。


こうすれば、一発でこいつも倒せる。


そう、考えていたのだが……。

その攻撃が相手自身にあたっても何も変化がなかった。


「な、なんで……」


「そんな見え見えの策に乗ると思ったの?」


読まれていたか……くそ。

だが、僕に負けはない。

ジリジリ削って……倒してやる!


瞬間、再び攻撃が飛んでくる。


とりあえず、ホールを張って……。

これで当たることはない……!


しかし、僕の考えとは裏腹に、その攻撃がホールに入った瞬間、そのホールは崩れて無くなってしまった。


「え?!なんで……」


その攻撃は、僕の目と鼻の先にあり、不可避だと……そう感じた。

しかし、僕のことを誰かが抱えてそれを避けた。


「おい、もっとちゃんと動けよ」


その声の主は、仮面だった。


「か、仮面さん……」


「お前は逃げろ」


「僕も戦えます!!」


「邪魔だって言ってんの、わかんない?」


「邪魔……?」


「足手纏いがいても仕方ないだろ、とっとと逃げろ。死にたくなかったらな」


「……そんな言い方……ないんじゃな……」


「だったら、お前1人でこいつを殺せるってのか?さっきも俺がいなきゃ死んでただろ」


言いながら、仮面は攻撃をものすごい速度で捌いていた。


「それは……そう、ですけど……」


「だったら早く消えろ。自分の実力を過信するなよ、新米」


自分の実力を過信……?

してないって、そんなこと……。

僕はヒーローになった、養成所も修了した、事件も1人で解決できたんだ。


役に立てるはずだろ。


そう結論づけた僕は、仮面に先ほどから放たれ続けている攻撃を能力で別のところに移動させようとした。


ワームホールが生成されたその瞬間、仮面は心底面倒そうな顔でこちらをチラリと見た。


何で、そんな顔……。


瞬間、そのホールが崩れ去り、そこから攻撃が飛んでくる。


あ……そう言えばさっきも……。


仮面はそれでも動じず、その攻撃をいなして、炎を放った。


「……噂通り、化け物じみてるね……仮面」


「そうか?」


「……今日のところはこれで手を引いておいてあげる。また遊びましょ?」


そう言い残して、どこかへ消え去ってしまった。


「ふぅ……お前さ」


「は、はい……」


「何で逃げろって言ったのにすぐ逃げなかった?」


「……僕も一緒に戦えば、勝率が上がるかなって……」


「……そう、もういいよ」


その声には、何の感情も込められていなかった。


「……自分を過信するなよ、新米」


去っていく仮面の鍛えられた背を見ながら、もう一度自分を見つめ直すのだった。

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