第4話「根本」

「今日も、何もなし……か」


ここずっと仮面の動きを追ってるが、不審なことはないもない。

事件現場に颯爽と駆けつけて、敵を薙ぎ倒す。

終わればすぐに次の現場。


おかげで本部の仕事は激減した。


「おりゃ……だー!くっそ……」


「ははっ、まだまだだな」


なんてゲームをする時間ができるくらいには仕事が減った。

だけど、私はその雰囲気に飲まれずにモニターと睨めっこする。


怪しいことをすれば、すぐ捕まえてやる……仮面。


「おい中野、なんで仮面復活前よりも張り詰めてんだ」


ペシっと頭を資料で叩かれた。


「本部長……だって、明らかに怪しいですもん」


「そうかぁ?こんだけ世のために事件解決してるのにそう思われたんじゃあ、また仮面も姿を消すかもなぁ」


「……それは、そうかもですが……」


「少しくらいは認めてやれよ。仮面はいつだって、我々のために身を粉にしてくれてるんだ」


「……そう、かもですね」


みんな楽観的だ。


それは、仮面の活躍ぶりを肌で体感してるから。

そういうことなんじゃないか?


仮面がヒーローを辞めた後にここに入った私と違って、その全盛期を請け負った本部の人たちは、その凄さを誰より知ってるはず。


「……少し、休みます」


「おう、そうしろそうしろ。ほれ缶コーヒー」


「ありがとうございます……私、ブラック飲めないです」


「ありゃ、まじか……飲んでるイメージあるのに」


「あんな苦いの、飲み物とは言いません。カフェオレとか買っておいてくださいよ」


「悪かったな」


そう言って自らそのコーヒーを飲む本部長。


良いのかな……いや、良いだろう。

少しだけ、休むことにしよう。


_________________



「……気になるか、それ」


水無はここ最近、仮面を眺めることが多くなっていた


「そうですね、なかなか良いデザインしてます。これとか特に」


「……それは、俺が全盛……1番使ってた仮面だ」


「そうなんですか……通りで味がある」


「……そんな気になるなら……それ、くれてやるよ」


「え、いいんですか」


「どうせ使わないしな」


「じゃあ、ありがたく頂戴します」


「はいよ」


「む、埃が」


「あとで掃除しておくよ」


『次のニュースです。HMOの発表によりますと、仮面復帰後の事件発生数は、去年と比べると50%ダウンしているとの……』


「50%ダウン……つまり、半減したってことですよね?」


「そうだな」


「すごいですね、仮面のネームバリュー。本家仮面時代の事件発生数はどんなもんだったんです?」


「さぁ、しらねぇよ」


『HMOは、仮面全盛期の時と同じく、昨年の2%の事件発生数を目指すとの方針を……』


「2%ですって。てことは、去年より98%も事件が起きてなかったんですね」


「流石は俺だ」


「本当ですね」


「いや否定しなよ」


「え?だって事実でしょ。偽仮面は50%で、本家は2%ですよ?差は火を見るより明らかですね」


「そりゃ……活動期間が違うからな」


「でも、偽仮面じゃその数字はきっと出せませんよ」


「そうなのか」


「はい、多分きっと……おそらく絶対に……」


「めちゃめちゃアバウトだな……」


「まぁ、無理だとは思ってますよ」


「へぇ」


「根本が違いますからね、あなたと偽仮面では」


「根本?」


「あなたは、根っこの部分に人助けがあります」


「……そんなこと」


「あるんですよ。現に私を助けてしまった」


「……まぁたしかに」


「あなたは人助けからは逃れられない、この先、これを再び手に取る時は、やってくると思いますよ」


「さぁ、どうだろうな」


……本当に、そんな日が来るのだろうか。

まぁ、この国が壊滅寸前で、俺の生活が怪しくなればその時はなんとかしなければならないが、俺に被害が出なれければ別にどうでも良いさ。


「皐月、小腹が空きました」


「図々しいなお前は……金渡すからなんか買ってこいよ」


「4歳児にそんなことさせるんですか?」


「お前知能レベルは大人並みだろうが」


「虐待だ……」


「これで虐待ならお前の親はどうなんだよ……ったく、適当に買ってくるから待ってろよ」


「はぁーい」


はぁ、昔から子供には弱いんだよ…‥勘弁して欲しいわ全く。

ま、俺も俺で欲しいものがあったから良いんだが。


家を出て、コンビニに向かう。


本屋にも寄ろう、この前買いそびれたし……好きな作家の新作が出たのだ。

これは買うしかない。


そう言えば、本棚もだいぶ埋まってたな……新しいの買わないと。

それは今度でいいか。


先に本屋に行ってからコンビニに行こう。

アイス欲しいし。


「どれどれ……あった」


入り口のすぐそばに宣伝されていた。


「今回は……ミステリー系か。ふむ……設定もなかなか面白そうだ」


今回も期待できるぞ、これは。


あ、これもなんか面白そうだな……今日発売か。

よし、買おう。


これも良さそう……って、これじゃ時間がなくなる。

とっとと会計を済ませよう。


そして、レジに並ぶ。

意外と混んでるなぁ、なんてことを考えつつ、早く読みたいとソワソワする。

すると突然、何者かが列に割り込んでレジへ一直線へ向かっていった。


おいおい、そんな慌ててどうした……覆面までつけて、全身黒ずくめで……あぁ、強盗ってことか。

瞬時に考えついたその結論は、あっていたようで。


「おい!このバッグにあるだけの金を詰めろ!今すぐにだ!」


「え、いや……」


「早く!」


店員は屈して、レジを開けた。


「おいお前らも!今すぐ携帯の電源を落とせ……!!怪しい素振りを見せたら迷わず殺すぞ!!」


どうやらそいつは能力者のようで、手にはバチバチと電気が走っていた。


……こんなことするより、ヒーローやってた方が稼げるだろうに…‥なんてアホなのか。

能力者は人間の力を超越している。

だからこそ、力の使い方を間違えれば、大惨事になる。


ま、別に俺に被害がある訳でもない……ここは大人しくしておこう。

時期にヒーローも駆け付けるさ。


「おい、まだか!!早くしろよ!!」


「す、すいません……」


手が震えてる、そりゃ怖いよな。

間近には何するかわからない能力者。

それに脅されたんじゃあそうもなる。


しばらくして、大量の金を詰めたバッグを持ち、俺らを牽制しながら場を去っていこうとするそいつ。


はぁ、やっと終わったか。


と、思っていたのだが……どこからか人が飛んできた。

ガラスは割れ、大きな音が響く。

それをしたのは、ある1人のヒーローだった。


「…‥か、仮面……」


「みんな、遅くなったね。あとは任せな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る