第2話「復帰」

「というか、仮面の名を貰う……か」


一体何をしようってんだ?

いや、そもそもとして、本当にこれの差し出し主は俺の兄貴なのか?


疑問がさらに疑問を呼ぶ。


「いけない……このままじゃ時間がなくなる。とりあえず買い物行こう」


買い物袋片手に歩き始める。

その最中も、俺の思考は止まらなかった。



「ご馳走様、はい、お粗末さまですっと」


いつも1人でこんな調子である。


「それにしても……兄貴生きてたんだなぁ……てっきり殺したと思ったんだけど。……いや、確かに殺したよな。でもそれじゃ訳がわからない」


だって、俺が仮面だなんてこと、兄貴以外に言ったことないしなぁ。


と、洗い物をしながらぶつぶつ呟きながら頭を整理していく。


すると、つけっぱなしにしていたテレビから、とある速報が流れ出し、そのニュース番組のスタジオは唯ならぬ騒ぎとなっていた。


「なになに……は?」


その速報には、こう書かれていた。


『仮面が再び姿を現す。私たちの伝説が戻って来た』


映し出された1つの画像。

それにははっきり、仮面をつけて、街を駆ける姿が捉えられていた。


「おいおいおい……一体何が目的だ……?」


この状況で仮面の装う意味……。

というか、仮面の名前をいただくってのはこういうことだったか。


「……ま、俺に被害が出なけりゃ何も問題ないさ。偽仮面が大犯罪を犯そうと、関係ねぇよ」


テレビを消して、風呂に向かう。


「あ、シャンプー切らしてんじゃねぇか……くっそ。買い行くかぁ……」


________________



「し、司令!!!」


「あ、あぁ……これは……」


突然の仮面のニュース。

しかし、そんな情報、HMOには何も入って来ていない。


「復帰……したってことですか?」


「それなら連絡の1つくらいよこしてくれると思うが……まぁ仮面だしな」


「もし本物の仮面じゃなくて、偽の仮面ならどうするんですか?」


「いや、それでも犯罪を犯さない限り見逃す。今やもう、仮面という存在自体が犯罪の抑制剤だからな」


「確かにそうかもですが……」


あまりに楽観的ではないか?

今更仮面を名乗るということは何かしらの意味や目的があるはずだ。


金を得るため、目立つため……大犯罪を犯すため。

私の直感的には3番目……だけど他の可能性ももちろんある、憶測だけでは語れない。


「……少しは、警戒しておくべきです」


「……中野がそこまでいうなら、いいだろう。1人は仮面のみをモニターで監視……というか、もう中野がやってくれ」


「かしこまりました」


指をさされた場所の椅子にすわる。

そのモニターには1人の人間が映った。


「……仮面」


今までつけていた仮面とは違うもので、新目のものだった。


新調したってこと……?

わざわざ面倒なことをするのね。

いや、気持ちの入れ替えってことでもあるのか……。


モニターでひたすらにその人を追っていく。

何もしでかさなければいいのだが……。


すると、仮面はある場所にやって来ていた。


「廃墟……なぜ?」


シャッターを蹴破り、中に入っていく。

その中には、仮面の他に約30人の男たちと、5人の少女。


私が瞬きをしたその一瞬のうちに、仮面は地を蹴っていた。

そこからは、まさに無双といった感じで、その男たちを地に伏せていった。


「……仮面……」


ポツリと呟くその間にも、仮面は敵を倒していく。


…‥味方、なのかな?


結局、仮面は男たちを全員倒し、5人の少女を救ったのだった。


___________________



「大丈夫かい?」


「は、はい……ありがとうございます!」


「それならよかった」


「あ、あの……あなたは……」


「俺は、仮面だよ」


「戻って来てくれたんですか……!」


「あぁ、俺はいつだって、弱きものの味方だ」


「仮面さん……」


さて、この少女たちを家に送るとして……。


さぁ、メディアよ。

俺のこの救出劇をしっかり目に焼き付けておけ。

俺への信頼を、募らせておけ。




「ご苦労様」


「あぁ、ありがとう」


仮面をその辺に投げ捨て、会話する。


「おいおい……それは大事なものだろう?」


「俺にとっちゃどうでもいいことさ。あいつの築いた地位を利用するためのただの道具だ」


「そうか。で、次は何をする?」


「当分は世間からの印象回復に努めるよ。今回の事件の解決で、仮面の名は再び世に広まる。ここからどんどん事件解決していくぞ」


「印象が回復して、仮面への信頼が最高潮に高まった時が……」


「あぁ、決行の時だ」


こいつは俺の助手の、真田景由。


そして俺は……古賀皐月の実の兄……古賀卯月だ。


_______________



『仮面が拉致事件解決!』


そのニュースを頬杖をつきつつ、訝しむ。


「……本当にただ事件を解決するために仮面を名乗るか?」


それはあり得ないだろう。

だったら何故?

いや、理由は1つしかないだろう。


「……何かしらの、計画のため」


破壊か、あるいは……。


「早く止めてくれよ、HMO」


_________________



「どうだ?仮面の動きは」


「今のところ、特には……」


思い違いか?

普通に人助けをして普通にどこかへ消えていった。

まさか、本当に戻って来たとでもいうのか?


「わからない……」


「まぁ、あいつが戻って来たのなら、我々の仕事は格段に楽になるぞ」


「……そう、ですね」


_________________



……ふむ。


あれから1ヶ月が経過したが、何かしらの動きがあったわけじゃない。

普通に仮面は、人助けをしている。

さながらヒーロー……。


ネットでは様々な意見が飛び交っている。

仮面の帰還を喜ぶものが8割。

それを怪しく思い、何か裏があると考えるものが1割。


残りの1割は、仮面の帰還を反対するもの。

何を今更、という声が多い。


「……まぁ、大衆からすると良いことか」


ただ俺としては、気がかりでしかない。

なんで俺の名を知って、俺が仮面だということを知っているのだ。

兄貴……と思ったが、あいつは俺が殺したはずだ。


この手で……今も殺した感触は忘れない。


兄貴を殺したわけだが、別に兄貴がやましいことをしていたわけではないのだ。

俺がしくじった、そういう話。


能力の発現というのは突然起こる。

それが幼少期か、思春期かはわからないが……俺は5歳で発現した。


だけど、その力の使い方がわからなかった俺は、それを止められなかった。

ただ能力を使いまくり、おかしくなった。

あの時の俺は……能力に、自我を乗っ取られていた。


それを止めるために兄貴が……って話だ。


兄貴を殺して正気に戻った俺は、あいつが冷たくなるまでソレを抱いていた。

故に、あいつの死は俺が1番知ってるはず。


だからこそ、俺の心が否定していた。

あの仮面は、兄貴じゃない。


「はぁ……何が目的なんだか」


色々考えていると、夜だというのにインターホンが鳴った。


瞬間、背筋が凍った。


この気配……いやいや、まさかな。


モニターからその主を確認すると、立っていたのは1人の少女だった。


はぁ……ヒヤヒヤさせるなよ、まったく。


玄関の戸を開けて、声をかける。


「……誰ですか?」


「助けて、仮面」


そう言って、その少女はその場に倒れてしまうのだった。

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