第18話


ディランの兄、ローワンのために組まれた特殊部隊はこの事態に慣れているのか、顔色1つ変えずに城門の前に整列していた。


「では今から第一王子の確保に向かう。いいか、今度こそ連れて帰るぞ」


ディランの言葉に全員が真剣な表情で返事をした。


「なぁ、もうすぐ夜が来る。明日でも遅くないのではないか?」


オレンジ色の日に目を細めながらそう言えば、直ぐに首を振られる。


「アイツの逃げ足速いから夜でも移動し続けないと逃げ切られる」

「だが今夜は新月だ。月明かりもなければ森など歩けたものでは、」

「黙れ」


ディランは私を見下げながら端的にそう言った。


「どちらにせよお前は連れて行かない。逃げ出されたらお前を捕まえるという仕事も増える」

「…随分なことを言ってくれるな」

「事実だ」


兵士の中にはこの前の手合わせで見かけた顔もあり、心配そうにこちらを見ている。

彼らに無駄な心配をかけている場合ではない。


「…とりあえず、今日はもうやめて大人しく寝ておれ」

「だから、」


声を荒らげようとしたディランの口を魔法で塞ぐ。


「むご!?」

「己の利益を追求して大勢を危険な目に合わせるな。いくら兵士といえど、怪我をすれば痛みはあるし疲れは溜まる」


兵士は驚いたように見る。

しかし流石訓練済みというべきか、誰も口を開くことはない。


「わざわざ着替えさせて整列までさせたのに悪かったな。もう今日は自室に戻って休め」


返事に迷っていたようだが、何度も繰り返し念を押せば、私がディランの妻ということを知っている者から次第に頷いてくれた。

というか、「ディランの妻の命に従えないのか?」と言ったら頷いてくれた。


城内に戻っていった兵士を見送り、未だに暴れているディランを魔法で拘束して私の部屋まで連れて行く。

なぜか今日は魔法の調子がいいし魔力の減りをそこまで感じない。


自室について鍵を閉め、指を鳴らしてディランにかけていた魔法を全て解く。


「お前っ!!いい加減にしろっ!!!」


その瞬間、部屋に怒号が響き渡った。

先程までの落ち着いた様子からは想像できないほどの変わりようだった。


「もう少し静かにしてくれ。ここは城だぞ?他の者に迷惑だろうが」

「俺が今までアイツを捕まえるためにどれだけ苦労していると思ってるんだ!」

「何も無闇に明日にしたわけではない。とりあえず座ってくれ」


私が椅子に座ると苛立っていたがどうしようもないことを悟ったのか、音がするほどの勢いで座った。


「ローワンという名のそなたの兄を探しているのだろう?」

「…」

「無言は肯定と見なすぞ。して、なぜ人を探すのに私に聞かぬのだ」


ディランはようやく顔を上げた。


「お前に聞いて解決するのか?」

「魔法は意図的に創られる奇跡だ。蘇生などの禁忌を犯さなければ大体のことはできる」


そこまで言ってから立ち上がり、棚から1枚の大きな紙を取り出し、それを広げて机に置く。

その上に自宅から持ってきていた瓶を置き、中に天然石を入れて水を張る。

太陽の光がよく差し込むこの部屋で天然石と水は美しい輝きを見せている。


「ディラン、先ほどの手紙から一部の文字を貰ってもいいか?返すことはできなくなるが」

「それは危険なのか?」


警戒したように睨まれるが、首を横に振る。


「いや、単に探したい者の痕跡が欲しいだけだ。大層な言い方をしたが、手紙から少し文字が消えるだけだ。あとは少し中身を見るぐらいだ」

「それなら構わん。…頼む」

「承知した」


ディランから貰った手紙を封筒から取り出し、丁寧に広げる。

そこには綺麗な文字で近況と国王やディランへの心配が綴られていた。


「ふむ、これまた綺麗な字だな。読みやすい」


手紙は2枚ほど入っており、最後まで愛に満ちていた。

その最後に『ローワン・クレース』という名前で手紙は終わっていた。

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